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第一章 第25話 黒外套


 振り下ろされた刀はすんでの所で止められていた。オルタナと黒外陰との間には両手のショートソードで刀を受け止めるゴブ。


「大丈夫か!」


「早く肩に捕まって撤退します」


 アヤカも合流し、オルタナに肩を貸す。傷口はかなり深そうだ。


「何でここにいる。俺が時間までに来なければ撤退しろと言っただろう!」


「こんな時に何言ってんだ!」


「何で来たかと聞いているんだ!」


「仲間だろ!」


 オルタナに応えながらコルセイは黒外陰の鋭い刀を受け止める。


「……くそっ。ここは瘴気が溢れている気をつけろ」


「任せろ。ゴブ!」


 ゴブの突きとコルセイのスリングによる投石を避け黒外套は後方に下がる。


「死ぬなよ」


 オルタナが弱々しく声をかけるとアヤカと共に出口へ走り始めた。


 ※※※


「はぁっはぁ。クソ。コルセイとゴブではあの刀野郎を相手にするのはかなり厳しい。アヤカ、ここからは俺一人で行く。早く戻ってコルセイの援護を」


 オルタナの言葉を最後まで聞く事なくアヤカは鳥マスクの嘴でオルタナを突き刺す。


「い、痛ぁぁぁ。怪我人だぞ。俺は!」


「その割にはよくペラペラと喋るじゃないですか?」


「冗談言ってる場合じゃない。本気で俺は言ってるんだ」


「……オルタナ。あのコルセイの目を見てなかったんですか? あの言葉を信用できないんですか?」


 確かにコルセイは「任せろ」と言った。あの言葉を信じない者はコルセイを侮辱する事になりかねない。しかし、あの黒外陰の剣技。一朝一夕でどうにかなるものではない。オルタナが無言で考え込むとアヤカはオルタナを安心させる為に口を開いた。


「私達も無策であなたを助けに来たわけではありません。オルタナと私の撤退は貴方を救う以外にも意味がある事なのです」


 ※※※


 コルセイと黒外套は一定の距離を保っている。黒外套の剣技を警戒してコルセイは動くことはできないでいた。


「提案なんだけど見逃してもらう事は出来ないだろうか?」


 簡易的なマスクであるがアヤカに作ってもらった瘴気避けのマスクは機能しているようだ。話す分には問題はなさそうである。


「私はあの、あの人の側にはい、行けない!」


 黒外陰は刀に力を込めると下段に構え、足を半歩開く。次にこちらが口を開いた後、確実にこちらに踏み込んで来るだろう。


「エミルって知らないか? もしかしたらお前の知り合いなんじゃないか?」


 コルセイは話しかける。知り合いである可能性は限りなく低いであろう。そもそもスケさんが殺されたのが数百年前と考えられる。人間であれば寿命は尽きているし、あの言動から相手がまともな生命体でない可能性が高い。それでも状況的にコルセイは話しかけないわけにはいかなかった。


「エ、エ、エミル? エミル様? エミルゥゥゥ!」


 予想に反してはっきりとした反応があった。このまま時間を引き延ばす事が出来るかもしれない。コルセイは即座に撤退出来る体勢を崩さずに、さらに話しかける。


「エミル様? お前が仕えていたのはエミルなのか?」


 黒外陰は肩をだらりと下げるとノーモーションで一瞬で間合いを詰め、コルセイに斬りかかった。いつでも対応出来るようにと構えていたにもかかわらず一瞬反応が遅れた為、刀を受けきれずに肩口に刀を押し込まれる。


「エミル、エミル! お前もエミルなのかぁぁぁ」


「ぐっ」


 鋭い痛みが走りショートソードを手放しそうになる。堪らずに足で黒外陰の体を前蹴りで突き放すと、すかさずにゴブが斬りかかる。しかし黒外陰はヒラヒラと刀で攻撃を躱すとバックステップで距離をとる。


 エミルという名前に異常な反応を見せる黒外陰。何かしら関係があるのは間違いないが、会話でこれ以上引き伸ばすことは出来ないだろう。再びあのノーモーションからの一撃を食らえば間違いなく致命傷になる。


「許されない! 私は!!」


 支離滅裂な言葉と同時に黒外陰が再びこちらに駆け出す。しかし、コルセイは構えを取らずどこかに耳を傾けている。


「よし。間に合った!」


 囁くように小さな声を出す。コルセイとゴブは水路に体を沈めると同時に爆風と共に水路が勢いよく炎に飲み込まれた。


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