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第六章 第20話 観察

 

 ルイの観察が始まる。頭の上から、目、表情を舐めるように見ると首、上半身、足と隈なく見る。


「見れば見るほど気持ち悪いな。この腕に付いている禍々しいものは何だ?」


 ルイはいつの間にか右手にナイフを持っており、ルイがナイフを振り下ろすとコルセイのローブと鎖帷子が斬りおろされ腕が露わになる。


(なっ! いつの間に)


 右腕にはダンジョンで付けられた焼印。まるで墨を入れたかのような綺麗な焼印を見ると納得の表情を浮かべるルイ。


「呪印か。靄はアンデッド属性独特のオーラ。死体使役。しかも殆どの能力を使いこなせていない……ふむ」


 さらにルイは地面に横たわる二股狼とブラッスリーの身体をよく観察する。ブラッスリーに刻まれた鎧や剣の文字もルイには読めるようで一通り読み終えると眉間に皺を寄せて気難しい表情になる。


「このデュラハンは本当に君に扱えているのか? 恐ろしいポテンシャルだぞ」


 うさ耳の獣人がルイの表情を見て動揺している。普段主人がこのような表情をすることがないのだろう。恐らく主人はいつも穏やかで残忍で余裕を持っている人物。独り言を話す姿はまるで感情が目まぐるしく変わる人間のようである。


「ルイ様。その男をどうされますか?」


「アヤカだけでよかったのにとんでもない危険物を拾った気分だよ。でも、好奇心はくすぐられる。しばらく客人対応でここに留まって貰おうか? ガイブ君には寝て貰ってるし人質になって貰おう」


「あのフォレストという人間はどうしますか?」


「あれはいらないよ。レッサーヴァンパイアの餌にでもすればいいんじゃないかな?」


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 言うことは聞く。フォレストも仲間なんだ助けてくれ」


 ルイは話がまとまったにも関わらずフォレストの命を救おうとするコルセイに煩わしさを感じる。


「アリス! その人間もガイブと一緒に牢に入れとけ」


 アリスと言われたうさ耳の獣人はレッサーヴァンパイアにアヤカを預けると今度はコルセイの背後に立つ。


「ルイお願いだ。フォレストと一度だけ話をさせてくれ。姿が露わになったガイブとフォレストが牢で一緒になればもしかしたら争いが始まってしまうかもしれない」


「それはそれでしょうがない。俺は興味のある奴しか相手にしない。それでフォレストという人間が死ぬようならその男の器量もそこまでということだ」


「しかし、」


「黙れ。次に俺の質問以外で勝手に喋ったら人間の男を殺す」


 全身を刺されるような威圧を受け、コルセイの意識は硬直した。


 ※※※


 ケッフェルン地下牢


 ルイを追ったガイブ。しかし、帷が降りて以降のルイは圧倒的でガイブは見事に気絶させられてしまった。傷は癒ているものの地下牢には特殊な結界が張っており力を入れようとすると全身に激痛が走る。


(あの男とは何のしがらみもなく戦ってみたい)


 ガイブが小窓を見上げると僅かに月明かりが差し込んでくる。しかし、静まり返っていた室内が何やら騒がしい。


「さっさと歩け!」


 二人のレッサーヴァンパイアに連れてこられたのは顔を腫れ上がらせたフォレスト。どうやら捕らえられたらしい。


(ぬっ。フォレスト! 認識阻害の帽子は今はない……)


 牢の扉が素早く開くと勢いよく放り込まれるフォレスト。腫れ上がらせた両目でガイブのことを見つめる。


「よぉ。俺はフォレスト。お前も、捕まったのか?」


「…………」


「そうだよな。言葉、分からないよな。俺も仲間と逸れて今は一人だ。人間が嫌いかもしれないがこの牢に入っている間は仲間だ宜しく頼むぜ」


 フォレストは背中を向けると身体を横にして寝始める。この男は魔物相手に背中を向けて平気なのだろうか? ガイブはあまりに開けっぴろげなフォレストの性格に驚きつつも少し安心する。


(とりあえず一つ問題がなくなったのは良いことだ。俺も……今は寝るかな)


 ガイブもフォレストに背を向けると間も無くしていびきをかきはじめた。


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