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第六章 第18話 革ジャンのヴァンパイア

 

「ブラッスリー!」


 壁に打ち付けられたブラッスリーに駆け寄るフォレスト。体を抱き起こし無事を確認している。ブラッスリーは打ち付けられた際にバシネットの留め具が外れており、コルセイは冷や汗を掻く。ブラッスリーはゆっくりと頭を抑え、座りながら壁に寄りかかる。


「頭を打ったのか? ここで休んでいろ。そうだ! 俺の事は気にするな。見た目なんか気にしない。兜を外せ!」


 フォレストがブラッスリーのバシネットに手を伸ばしたところでコルセイより声がかかる。


「フォ、フォレスト! ちょっとこっちに来てくれ!」


 フォレストはブラッスリーを優しく壁に寄り掛からせるとコルセイの元へと駆けてくる。コルセイは戦闘とは関係ない新たな問題が発生する前にとりあえず胸を撫で下ろす。


(まずい。とっさにフォレストを呼んでしまったが……何と言おうか)


 ※※※


 一方、黒い塊に攫われたアヤカは凄まじい勢いで空を連れまわされていた。


「このぉ」


 アヤカは足や手をばたつかせて何とか離れようとするが蝙蝠の拘束力は意外に強く抜け出す事が出来ない。蝙蝠は塔の中に入るとそのまま最上階まで上がり本城の一室に入るとアヤカを乱暴に落とす。


「痛っ!」


「こんにちはアヤカさん」


 アヤカの目の前には長身で長髪の男。顔色は極端に悪く、青みがかった白い肌。革のジャケットの中には刺繍が施されたベストを着こなしている。細身で中性的な容姿からは妖しい色気が伝わってくる。


「…………」


「警戒しないで頂きたい。私は貴方に害を及ぼそうとしているのではない」


「攫ったくせによく言います」


「ハッハッハ。しかし、無断で私の城に入ったのは貴方達ではないですか?」


 廃城を自分の城と言い張るヴァンパイア。アヤカはヴァンパイアに反論しようとするがその口をすぐに閉ざす。


「私達をどうしたいの?」


「おや、何か言いたいことがあるのではないのですか?」


「ないわ。私達は巨人の偵察でこの城に来ただけ貴方達の事を報告する気はない。出来れば私達を無傷でこの城から出して貰いたいのですが」


 ヴァンパイアはどうしようかなと言う仕草でアヤカを見ると何かを思い出したように指を鳴らす。


「考えましたがやはりダメですね。貴方達は私の同胞を一人殺している」


「ーーッ」


「そうですね。私は貴方を人質にして仲間を拘束することもできるのですが……。いいでしょう条件次第では貴方達の話を聞こうじゃないですか」


 突然の心変わりに胡散臭いものを感じながらアヤカは感謝をヴァンパイアに伝える。


「それでは最初の条件です。後ろに隠れているお仲間さんここに姿を現すように話して貰えますか?」


「えっ?」


 アヤカはヴァンパイアの言っているのか意味が分からずにとりあえず後ろを振り向く。部屋の入口からは苦虫を噛んだような表情をしたガイブが部屋の中にゆっくりと入ってくる。


「ガイブさん!」


「すまん。気配は消したつもりだったのだが」


 ヴァンパイアは素直に言うことを聞くガイブを見て満足そうな顔をする。


「ガイブさん。貴方何を被っているのですか? 変装する必要はありません。ありのまま姿を見せて貰えますか?」


 ガイブが頭に被っていた帽子を手に取ると認識阻害が解けコボルトの姿が露わになる。


「人族の言語を話し、理性と知性も兼ね備えるコボルト。しかも強いですね」


「アヤカを解放しろ」


「アヤカさんは私の七番目の妻の候補です。そう簡単には解放できません」


「妻!」

「妻だと」


 ヴァンパイアは一瞬でアヤカの背後に回ると首筋を押さえる。アヤカは顔を反らして距離を取るがヴァンパイアは構わずに舐め回すような視線でアヤカの顔に視線を送る。


「アヤカさんは少し変わった血の匂いがするんです。なかなかのレアものです。私はアヤカさんを色んな意味で味見してみたい」


 舌舐めずりをするヴァンパイアにアヤカはもちろん、種族の違うガイブでさえ嫌悪感を感じる。


「私は貴方みたいな男に好きにされるくらいなら死を選びます」


 アヤカがコルセイを強く思うと。ヴァンパイアはアヤカの表情から何かを察知したようである。


「思い人がいるのですか? 残してきた兵士の内の一人ですか? ……なるほどコルセイ。顔色の悪い男ですね」


「!」


「面倒ですね、殺してしまいましょう。それで、アヤカさんの心も折ることができるでしょう」


 ヴァンパイアの言葉を言い終えるのとほぼ同時にガイブの正拳突きがヴァンパイアの身体を貫く。しかしヴァンパイアの腹部は霞のようになっておりガイブの腕はその霞の中心を貫いている。


「惜しい。少し遅かったですね。時間切れですよ」


 窓の外は陽が沈み空は夕闇に染まっている。


「陽が落ちてしまえば貴方達では私に太刀打ちできません」


 ヴァンパイアは愉快そうに全身を霞に変えると一瞬で部屋の外へと出ていった。


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