第一章 第23話 離宮へ
ガラガラガラ
アヤカが万全の魔物対策で離宮に向けて出発したものの、道中で魔物が現れる事は今のところなさそうである。道中が安全という事ではない、原因は間違いなく「コレ」のせいである。
ガラガラガラ
「アヤカさん、なんか申し訳ない」
「謝るのやめて頂けませんか? 別に私はなんとも思っていません」
スケさんの下半身には即席の車輪。オルタナが先行し、二人はスケさんに足を掛け半身でスケさんを乗りものとしている。スケさんの存在感、あるいは威圧感にアンデットはもちろん、森の魔物も一切近づいてこない。ここ数日でアヤカが準備した匂いのきつい魔物除けの香や幅をとるまじないグッズは無用の長物となっている。
「魔物がこないのはいい事じゃないか? アヤカも苦労が報われないのは面白くないかもしれないが、そんなにヘソを曲げるなよ」
「……怒っていませんが」
明らかに機嫌は悪いようである。
「と、ところでコルセイ。見えたビジョンから思い出した事とかないか? なにぶん情報が少ない」
「オルタナが最後のひと押しをしたのです。今さら情報が少ないとか言うのは止めて頂けませんか?」
アヤカの剣呑な雰囲気にコルセイがオルタナに助け舟を出す。
「オルタナ、アヤカさん。俺も確信がある訳では無いよ。でもスケさんといて分かるんだ。離宮には何かがある」
コルセイは自信を持って二人に宣言する。実際の映像を見てない二人にはわからないが、コルセイは言葉にはできない、ハッキリとした何かがあるようだ。
結局、スケさんのお陰で魔物には一切会わずに、三人は難なく離宮に着くことができた。
※※※
初代ラマダン王の数代後に完成したと考えられる離宮は、ラマダン初期の建築物とは少し異なる。今は見る影もないがここから見える景色は、全てが計算された、美しいものであったのだろう。
要塞に近い本殿を中心に2つの翼棟を備え、崩れた外壁の厚さや高さを考えると、いざという時は一時的にこちらを拠点にする……などと考えられていたのかもしれない。
オルタナは、予め下見していたので、状況を把握していたが、地上には何もおらず、離宮の手前には不自然な隆起が見られた。離宮の入口に扉はなく、外は明るいにも関わらず建物の奥は暗闇で見通す事はできない。
「行くぞ。俺も手を抜くつもりはないが、二人とも警戒を緩めないでくれ」
オルタナの手にランプが灯され、アヤカの周りにはマジックアイテムなのか回りを照らす浮遊物が浮いている。建物は何もない空間が広がり、ところどころ柱や調度品の残骸が広がる。羽虫や昆虫などは見かけるものの、魔物はもちろん、小動物の気配を感じる事もない。
幾つかの朽ちた扉をくぐり、陽の光がさす中庭に出る。かつては美しかったであろう中庭も熱帯独特の巨大なシダ植物や腰の辺りまで伸びた雑草で今は見る影もない。慎重に草木をかき分けながらさらに進むと、中程に草木の生えていない開けた場所を見つける。
そこには大きな平面の大理石がある。以前は演奏や旅芸者などを招き入れていたのかもしれない。前を歩くオルタナが口を開く。
「おかしい。やはり生き物の気配が全くない。こんだけ堂々と扉が開けっ放しになっているのにも関わらず、この気配のなさは……」
中庭の先には扉を見つける事はできなかったが、壁にポッカリと空いている穴を見つける。厚めに作らられた壁が崩れ、暗闇の先には人一人通れる幅がある。
「俺が先行するから待機していてくれ。何かあった場合は打ち合わせ通りだ」
二人は小さく頷く。オルタナはランプの灯りを頼りにゆっくりと暗闇の中に消えて行った。




