第六章 第9話 太陽亭
サンアワード宿屋 太陽亭
兵が集まりさぞかし盛況かと思いきや、太陽亭はほぼ貸切状態だった。集められた兵士は新しく作られた兵舎に移動しており、客人扱いの神殿騎士団は太陽亭を貸し切って宿泊していた。コルセイ達の扱いも一応神殿騎士団所属となるため料金はタダ。望めば朝と夜も食事が作られるという話であるから至れり尽くせりである。
「本当にいいの?」
「もちろんよ。ただし、仕事の時はきっちり働いて貰うからお願いしますね」
「もちろん。期待して」
リーフが小さく微笑むと神殿騎士二人と共に奥の部屋へと消え、コルセイ達もあてがわれた部屋を目指して二階へと昇る。部屋はシンプルな作りではあったが雨風はしっかり防げているし、ベッドも柔らかそうだ。
しかし、一つ問題がある。部屋にはベッドが三つ。どうやら三人とも同室のようだ。
(マジか! 女の子二人と同室。……せっかく色々と考えないようにしてたのに)
コルセイは動揺を悟られないようように部屋へと入る。二人の様子をさり気なく見るが特に緊張している様子はない。意識しているのはコルセイだけのようだ。アヤカもオリビアも淡々と荷解きをしている。
「私は一番遅くに寝ると思いますので一番右のベッド寝ますね」
「じゃあ。私は窓際」
コルセイは必然的に真ん中のベッドで寝ることとなる。普段ベッドの位置など気にしたことはないが、今回ばかりはそうはいかない。しかし、今さら主張を言える訳もなくコルセイは真ん中のベッドに腰掛ける。
(気まずい。この焦りを気づかれたくはない)
コルセイが話しかけるタイミングを伺っているとアヤカの荷解きが先に終わる。
「オリビアとコルセイも気付いたことはあると思います。まずは私から話させて下さい。サンアワードという名前やっと思い出しました」
「助かる。ここが何処かわかれば色々と決めやすい」
「オリビアはヒエルナのことを分からないと思いますので一度噛み砕いてお話ししますね。神聖ヒエルナは一神教の国。神ヒエルナによって起こされた国だと言われています。しかし少数派の派閥の中にはヒエルナは神ではなく人間である。という説を信じているものがいます」
「あれ? ヒエルナに宗派なんてあったの?」
「表向きにはもちろんないです。ただお婆さまの仕事を手伝っていた関係でヒエルナの裏の顔を見ることがあります。その少数派の宗派の教義の中にサンワードという国が出てきます。私はその宗派ではサンアワードがヒエルナの元になった国という話があるのを思い出しました」
「ぶっちゃけ俺も神様が作ったという話は信じてたわけではないけど。その話は驚きだな。一般のヒエルナの人は誰も知らないんじゃないかな? というかヒエルナでその話をしたら異端審問官がすぐにやって来そうだね」
コルセイはオリビアの表情を窺う。ひょっとしたら自分の故郷は物騒な所だと思われたかもしれない。しかしオリビアはいつも通りの澄ました顔をしており何を考えているか分からない。
「今までの話を考えるとこのサンアワードはヒエルナの過去ってことになるよね? やはりここは過去の世界ということでいいのかな?」
「証明しようがありませんので恐らくとしか言えません。しかし、高確率でここは過去の世界なのでしょう。それに先程フォレストさんが言っていたダーダスという国は私が知っている限りでは存在はしません。伝説あるいは御伽噺の国の話です」
「それなら私も知ってる。幼い頃に母に読んでもらった記憶がある」
コルセイは聞いたことがない話だ。有名な話なのであろうか? それにしてもオリビアから母親の話が出たのは初めてだ。付き合いは長いが母の話は一度も話が出てない。っということはきっと過去に何かあったのだろう。それにしても過去にコルセイ達を戻し、ホワイトドラゴンは何を見せたかったのであろうか?
「俺からも一ついいかな」
コルセイは唐突に左足の裾を捲ると引き締まった足を二人に見せる。
「コルセイ、あ、足が!」
「そう。足が生えてるんだ」
「えっ! どうしたんですかその足? まさか生やしたんですか?」
「流石に足を生やせるよなったらもう、普通の人間じゃないよね。最初は俺も何か変だなと違和感を感じていたんだけど。見てみたらこの通り。よく考えてみたらデュケスが近くにいないのに歩けるのはおかしなことなんだよね」
「本当に不思議。ここは一体、何処なんだろう……」
各々答えを見つけ出そうとするが答えは見つからない。何かもう少しだけヒントが欲しい。できればホワイトドラゴンの本当の目的だけでも知りたい。
「そういえばオリビアはリーフと何を話してたんですか?」
「明日からの予定を伝えられた。コルセイとアヤカはフォレストと合流して巨人族の偵察。ガイブとブラッスリーも合流することは伝えてある。私はリーフとどこかに出かけるみたい」
「オリビアとリーフが? リーフはオリビアのことを気に入ってるみたいだけど何かあったの?」
「私にも分からない。ただ、私に試したいことがあるらしい」
危険なことではなさそうが少し心配である。しかし、オリビアなら危ない気配を察知して逃げることも可能であろう。とりあえずはまだはっきりしたことは何も分からない。これからも積極的に情報を得る努力が必要だ。
「分からないことはまた話合いましょう。そろそろ夕食ができているはずです。下に行きましょう」




