第五章 第14話 早朝の戦い
眠りに入りどれくらいの時間が経っただろうか? 夜の山は冷えるが、土のかまくらは思いの外温かく居心地は悪くない。コルセイが気配を感じて目を覚ますとすぐ後ろには人の気配。同室のランドルフかと考えたが気配はもう少し小柄に感じる。
(誰だ?)
横向きの体をゆっくりと反転させするとすぐ横には青い髪の美少女が目の前にいた。オリビアは口元に人差し指を立てると声を出さないようにとコルセイに促す。
「えっ? もしかして。いやランドルフさんが後ろにいるのにそんな、」
「……違う。そうじゃない。馬鹿」
オリビアは少し顔を赤らめコルセイの勘違いを優しく指摘する。
「あ、ごめん」
「外に出て」
コルセイは厚手のシュラフを出るとランドルフを起こさないよう静かに外に出る。建物の外にはアヤカ。アヤカは顔を少し赤らめたオリビアを見てコルセイに疑いの目を向ける。
「ち、違うんだ」
「何が違うんですか? 私は何も言ってないんですけど」
「アヤカ安心して何もない」
「まあいいです。それよりコルセイ貴方に見てもらいたい物があります」
アヤカが月明かりに照らし金属の棒を見せてくる。棒には小さな傷が付けてありその下には何やら文字が刻まれている。
「これはレリックです。追跡者を警戒して道に設置してきました。対のレリックと連動する仕組みになっていて先程そのレリックに反応がありました。私たちを追って四人の足音がこちらに向かっています」
「マドリアスさんの件がバレたのかな? なんでバレたんだろう?」
「分かりませんが朝にはこちらに追いつきそうですけどどうしますか? 逃げますか?」
こちらにはナンナもいるし、この荷物だ。いずれ追い付かれてしまう。ランドルフとガイブもいる、相手が四人ならこちらも態勢を整え、迎え撃つのが良いだろう。
「ここで迎え撃とう。相手はまだ気づいてないんだよね?」
「恐らく」
「みんなを起こそう。でも、できる限り静かに。相手に気づかれないようしたい」
※※※
山の空気は澄み渡り朝の寒さが体に応える。紫紺の牙の作戦は敵がキャンプで休んでいる時に見張りを倒し、奇襲をかけるシンプルな作戦であった。しかし偵察から戻ったロスの表情は明るくない。
「ダメ」
「何がダメなんだ。ちゃんと報告しろよ」
「もうすぐ陽が昇る、それで確認した方が早い」
山頂より陽が昇る。コルセイ達が休んでいるキャンプがあると思われる場所にはバリケードと塹壕に囲まれた土の要塞があった。
「ど、どう言うことだ? まさかつけていたのがばれていたのか?」
バリケードの隙間からドラックに向け矢が放たられる。ドラックは起用に剣を使い矢を弾く。
「嵌められたな」
ドラックに矢が放たれたのと同時に一斉に投石が始まる。石の礫とはいえ数が膨大である。ドラックが剣で、ガスは斧で凌いでいるが数に圧倒され反撃に出る事ができない。
「風よ!」
ミーティが叫ぶとどこからともなく馬が現れる。深い緑の体は上半身のみであり、下半身は透けて脚の辺りは見る事ができない。馬は顔を上げ嘶きを上げる。すると、風が足元より駆け上がり投石や矢を上空へと巻き上げる。風が飛び道具を巻き上げた一瞬の隙をつき四人は撤退を始める。
「俺が殿だ! お前ら全力で山をかけ降りろ!」
ロスを先頭に今来た道を駆け降りる四人。しかし僅かに降った所でロスの動きが止まる。
「おい、追っ手が!」
言葉を最後まで言う事なくドラックは剣を構える。後方からはコルセイを中心としたゴブリン数十匹。下からはガイブとランドルフ。狭い山道で迂回して逃げることはできない。
「やられたよ。囲まれた」
ガスの頬に汗が流れ落ちる。上へ登れば要塞を相手に下へ降ればランドルフとガイブを相手に、どちらにしても後方を気にしながら戦闘をこなすのは圧倒的に不利になる。
ロスが周囲を観察してなんとか逃げ道がないか探している。しかし、移動できる場所は狭い山道のみ。逃げ道を見つけることは難しいそうである。
「絶対絶命だな」
ドラックがボソリと声を出すとその後ろでガスが大きくバトルアックスを振り上げた。




