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第五章 第13話 キャンプ地にて

 

 簡易キャンプ場


 山での設営は素早く行うのが鉄則である。体力を維持するために休息時間を多くとり、さらに質の高いものとしなくてはならない。初心者の登山ではそれがかなり難しい。


 しかし、コルセイが引き連れるゴブリンはその敷居を大きく下げる事が可能だ。二匹のゴブリンメイジが《グモルド》により地ならしを《グモード》により土壁を作り上げ、早々に簡易的な建物を作り上げる。建物の外には竈門も作られナンナとランドルフは既に食事の用意に取り掛かっている。


「コルセイ。ゴブリンの魔法、上達したのではないか?」


 ガイブは魔法で取り除けない岩をどかしたり、砕いたりしている。


「暇な時にずっと魔法の訓練をしてたからね。出力は上げられないけれど精製の速度や形成の応用なんかは上手くなったかな。補助的な役割であれば戦闘でも使えそうだよ」


 少し自慢げなコルセイにガイブは微笑ましくなる。仲間と合流してからコルセイの表情が豊になった気がする。やはり彼等はそれだけ大切な者達だったのだろう。


「ガイブちゃーん。ちょっと味見してくれる? っていうか食べられない物はない?……玉葱とか」


 ガイブがランドルフに呼ばれ竈門に向かう。ガイブも種族の枠組みを超えそれなりに上手くやっているようだ。キャンプの準備が一通り済んだところでコルセイはアヤカに呼び止められる。


「凄いですねコルセイ。本当に人間ですか? ゴブリン族の親玉といった方が説得力がありそうですよ」


「ちょ、やめてくれよ。この間も人離れしてるってオリビアに言われたんだから。でも、愛着が湧き始めてるからゴブリンの悪口は言わないで」


「はぁ。相変わらずですね。それよりもコルセイ聞きましたよ。どういう事ですか?」


 一体何の事だろうか? 思い当たる節がありすぎてどう反応していいか迷う。そんなコルセイを見てアヤカはもう一度大きなため息をつく。


「ナンナに父さんって呼ばせてるのあれは一体何なんですか?」


「あっ!」


 血の気が引いていく。あっという間にコルセイの顔色は白くなっていく。


「ち、違うんだ! それには訳があって」


 ダンジョンでの一部始終を話すと今日三度目のため息を吐くアヤカ。


「後でオリビアとランドルフにも説明した方が良いですよ。皆、変な想像をしてもおかしくありません」


「そうだね。後でちゃんと言っとくよ。ありがとうアヤカ」


「どう致しまして。さぁ、そろそろ食事の用意ができるはずです。食べに行きましょう」


 土をベースにしたドーム状の建物が三つ。入口には布が掛けられている。三つの建物の中心には焚き火が炊かれ、鍋が掛けられている。食事は干し肉を水で戻し野菜と煮込んだスープ。ランドルフとナンナが作った食事だ。それぞれに黒パンを片手にスープを啜る。


「う、美味!」


 コルセイは久方ぶりの人間の食事を涙を流しながら食べる。勢いよく食べる姿に若干引き気味の者もいる。


「そ、そう? スープでこんなに喜んでくれるなんて嬉しいわ! あ、ナンナちゃんも手伝ってくれたのよ!」


「ナンナうまいぞ。よくやったな!」


 表情を綻ばせるガイブに皆の気持ちが温かくなる。微笑みながらスープを啜るオリビアがコルセイを見る。


「そういえばコルセイ、ダンジョンではなにを食べていた?」


「うーん。基本は保存食とかだけどコボルト族に振る舞って貰ったモグラは美味しかったかなぁ」


「「モグラ!」」


 驚きの声が一斉に上がる。確かにロザリアやヒエルナではモグラを食べる習慣は無い。美味い不味いの前に食べれるのか? と言った疑問の声であろう。


「ほ、本当に美味しいの?」


「今度食べてみてよ! ガイブ、ナンナ。モグラ美味いよな?」


「わ、私、モグラ好きジャナイ」


「ほら、やっぱり好きなのはコルセイだけ見たいよ」


 炎を囲む一同に笑いが起きる。会話は弾み、時間はあっという間に過ぎる。炎が少し弱まったところでアヤカがおもむろに立ち上がると布袋を持ち皆に何かを渡し始める。


 どうやら砂糖細工のお菓子のようだが……。


「朝になったらこれを朝食がわりにして下さい。高山病を防ぐ効果が期待できます。本当は徐々に体を慣らしていくのが良いのですが私達は旅を急ぎます。この薬剤入りの砂糖細工に頼りたいと思います」


 ナンナが砂糖に惹かれこっそりと味見しようとしたところにアヤカの厳しい声が飛ぶ。


「登山中に虫歯になった場合はランドルフさんかガイブさんに歯を抜いて貰う事になりますよ!」


 ビクッと体を震わすとナンナは包み紙に砂糖菓子をそっと戻す。一瞬の間を置き再び一同に笑いが起きた。


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