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第一章 第20話 巨大スケルトン

 

 時は少し遡る。


 砦手前の森の中、器用に組み立てた木材を使い、フォレストボアを担ぐコルセイとゴブ。フォレストボアの頭部には大きな凹み。コルセイがスリングを使って仕留めた獲物だ。


「夕食の集まりにこいつを持っていったら驚いてくれるかな? それにしてもスリングさまさまだな。まさかこんな大物を狩れるとは」


 一週間も経たずスリングを使いこなせるようになったコルセイは、ここ数日で小型の魔物を中心に狩りをしていた。今日はその中でも一番の大物となるフォレストボアを仕留めることに成功したのである。


 しかし、コルセイは気づいていない。フォレストボアを仕留める為に森に深入りしすぎたことを……。


「おっと危ない」


 足元を見ると丈の長い草に隠れていた小さな石碑。


「――これって、まさか、まさかだよな!」


 遠くから聞こえる地響き、そして続く鳥の羽ばたき。コルセイの背中はじっとりと汗に濡れる。


「やっちまったー!」


 あの音は間違いなく例の魔物だろう。獲物に気を取られ森の奥まで入りすぎたようだ。コルセイは巨大スケルトンより逃げる為、砦に向け全速力で走り始めた。


 ※※※


 気配を消して見下ろす先には先日の巨大スケルトン。穴の空いた頭蓋骨を右へ左へとコルセイを探している。骨だけになっているスケルトンはどこの感覚を使ってターゲットを探しているのだろうか? 


 砦に向けて走り始めたものの、明らかに時間が足りない事を悟り、意を決して戦う事にしたコルセイ。今は幹の太い常緑樹にゴブと二人で身を隠している。


(できればやり過ごしたいんだけど……難しいんだろうな)


 巨大スケルトンはコルセイを中心にウロウロと移動を繰り返しており、ある程度コルセイがどこにいるのかを把握しているようだった。


(ゴブ覚悟を決めたぞ! 最大限引きつけてからの攻撃開始だ)


 巨大スケルトンがこちらに方向をむける。コルセイは息を殺して限界まで気配を断ち、しばらくするとコルセイのいる木の下を巨大スケルトンが通過しようとする。


 ――その瞬間!


 バヂヂッ! バヂッ! バヂヂ


 小型の炸裂弾が巨大スケルトンの頭頂部に炸裂する。木の上からはゴブとコルセイの同時連続炸裂弾、スケルトンの頭上にはやや黒い煙が立ち込めている。アヤカの炸裂弾に比べて衝撃は弱い。しかし、一度に複数の炸裂弾をスリングにて発射、しかも二馬力で発射している為、スケルトンの頭上には絶え間無く炸裂弾が発射され続けている。コルセイが僅かに期待したのもつかの間、勢いを落とす事なく煙の中からスケルトンがこちらに腕を振り上げる。


「やっぱりダメだよね」


 ロープの先に(かぎ)がついた鉤縄を素早く回すと、少し離れた木に向かって飛び移る。もちろん、肩口にはしっかりゴブがついてついている。


 スケルトンは腕を振り下ろすが、姿を捉える頃にはコルセイは木から木へと飛び移り、再び姿を隠し終えていた。巨大スケルトンは気配を頼りに大雑把な位置まではコルセイを追うが再び炸裂弾の的となる。


 よく言えばヒットアンドアウェイ。悪く言えばハメ戦法である。炸裂弾を打ち尽くし、コルセイは木の上からの射撃をやめ、スケルトンと同じ地面の上に距離を置いて降り立つ。


 コルセイは踏ん張るような体勢で腰を低く落とし、右手には鉈を、ゴブは小さなお手製の木の盾を構え、巨大スケルトンと向き合う。コルセイの前には小さな窪地があり、ゴブリンの盾と少しの地の理を活かして正面から撃ち合うつもりなのだろうか?


 少しの間を置いてスケルトンがコルセイ達に襲いかかる。相変わらず下半身は引きずるだけの状態ではあるがスピードは馬を超える速さ、その圧倒的な質量からくる勢いは相手を怖気付かせるには十分である。まともに喰らえば一撃であの世行きは間違いない。


「怖くない。怖くない。怖くない。……よし。ゴブ!」


 スケルトンの腕がコルセイに届くその瞬間。ゴブはコルセイの背中に捕まり、コルセイは振り上げた鉈を自分の足元に振り下ろす。


 次の瞬間、凄まじい勢いでコルセイは上空に持ち上げられる。的を無くしたスケルトンの腕は空を切り体勢を保つことが出来ずそのまま横倒しとなる。


「行け! ゴブ!」


 倒れたスケルトンの頭上には空から降ってくるゴブ。盾を前面に構え、体重と落ちる勢いでスケルトンの頭上に直撃する。


 バギィッッ!


 スケルトンの頭半分が崩れ落ち。全身を支えていた骨はゆっくりと地面に落ち始める。と同時にコルセイも受け身を取れないまま地面に落ちる。


 ドスッ!


「痛っっっ!」


 かなりの痛みではある。しかし何とか動く事ができそうだ。近くを見ればゴブにも大きな傷はない。


「よしっっ! 即席の割には上手くいった。頭がダメだったらかなり厳しいかと思ったけどこれなら大丈夫そうだな」


 コルセイは痛む体をさすりながら地面を掴み体を起こす。地面には先程のスケルトンの骨が無数にあり体を起こす際に何気なく骨を拾ってしまう。


「んっ」


 手に持った骨に奇妙な抵抗感を感じる。嫌な予感を感じ、骨から手を放すと先ほどの骨が再びスケルトンの体を作り始める。


「やばい。甘かった」


 コルセイが後退る。背を向け走り出そうとするが、鋭い痛みが足に走る。興奮して気付かなかったようだが、着地でどうやら足を捻ったようだ。痛みに耐えきれず再び地面に倒れると、上半身だけでスケルトンを見上げる。


 頭半分を残し、コルセイを見下ろすスケルトン。


 ……


 …………


 ………………。


「あれっ?」


 体からはゴブリンを使役する時に感じるいつものあの感覚。コルセイは顔だけで辺りを見回すと先程まで起き上がっていたゴブが倒れているを確認する。


「まさかこれって」


 ゆっくりと意識を伸ばす。しばらくすると上半身をコルセイの前に降ろすスケルトン。残った上顎と下顎を使いコルセイを背中に乗せると、同様にゴブも背中へ乗せる。スカスカの背中の乗り心地は最悪だが、ゴブとコルセイを乗せたスケルトンは砦に向けて勢いよく走り始める。


「うおっ、すげぇ。まじかー! オルタナ、アヤカ待ってろよー!」


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