第五章 第9話 自己紹介
馬車を降り、走り込んでくるナンナ。ガイブは腰を落として手を広げるとナンナは躊躇なくガイブの胸に飛び込む。
人生のほとんどの時間をガイブと過ごしたのだ、短い間とはいえ、離れるのはやはり寂しいのだろう。そしてコルセイの胸にもオリビアが飛び込んで来る……ことはない。オリビアは馬車を降りると淡々と荷物を馬車に運び入れている。
(ちょっとだけ期待してたんだけどな。まあオリビアのキャラではないか)
ドッ!
コルセイがよそ見をしていると横からやってきたランドルフがコルセイを羽交い締めにする。抱きしめるというよりは抱き殺すという表現が正しいだろう。コルセイの目の前が僅かに暗くなり始めてくる。
「無事で嬉しいわぁ。みんな心配してたんだから!」
「あ、ありがとうございます。俺もみんなに会えて嬉しいです」
「おっと。今は少しでも急がなくてはいけないわね! コボルトさん後でしっかりと自己紹介させてもらうわ。今は急いで荷物を積み込みましょう!」
荷物があらかた積み終わる。その場に残るのはマドリアスである。コルセイが飲ませた薬によりマドリアスは酩酊状態であり、コルセイが見た顔の中で今までで一番幸せそうな顔をしている。
この状態でコルセイ達のことを聞き出すの難しい、それにここにいればナースミルと合流できるだろう。
問題は解決したように見えた。しかし、コルセイは両腕を抱え難しい表情を浮かべている。
「私が教えた薬はよく効いているようですね。んっ? どうしたんですか?」
アヤカが荷台に手をかけコルセイに早く馬車に乗るように促す。
「いや、このままだと魔物とかに襲われないかなと思ってさ」
「たしかに、気付きませんでした。ここまでしてマドリアスが死んだら今までの苦労が水の泡になります」
「水の泡にって。そういうことではないんだけどな……」
二人のやりとりを見ていたガイブが麻袋を持ちながら荷台から降りる。
「また、これを使えばいいじゃないか」
麻袋の中には先日ダンジョンの川下りで使った魔物避けの香が入っている。確かにこれを使えばマドリアスが仲間と合流するまで魔物に襲われることはないだろう。しかしこの香は時間をかけて匂いを出すものである。今からその作業をやる時間はない。
(まぁいいか。ここで使い切ってしまおう)
コルセイが匂いの原液を全てマドリアスにぶちまける。液体は地面や服に染み込むと液体は霧状になりその辺り一帯を凄まじい匂いが立ち込める。
「ちょっ! 何をやってるんですか!」
「いや、時間ないから原液を、うっ! これは!」
「く、臭い! 原液をぶち撒けるなんて信じられないです! は、早く乗って! 出発しますよ!」
勢いよく二人は馬車に乗り込むと急いで馬車を走らせる。ちなみにガイブはコルセイが匂いの元をぶち撒ける前に遥か前方に逃げていたので影響はなかった。
※※※
山頂近くに着くまでは馬車での旅となる。時折、馬車は揺れるものの、荷台の上ではお互いの自己紹介が行われていた。ちなみにお互いのことを理解しているコルセイは御者台で手綱を握っている。
そもそもガイブがパーティに入るのをコルセイが仲間に了承を取るのが筋だ。ましてやガイブはコボルト、魔物である。ランドルフが音頭をとってくれているが仲間から反対の意見が出るかもしれない。コルセイは不安の面持ちで前を見る。
「俺はガイブと言う。こっちはナンナだ。突然で申し訳ないが一緒に旅をさせて貰う。宜しく頼む」
「ガウ!」
二人は揃って頭を下げる。するとランドルフ、オリビア、アヤカもそれぞれ自己紹介を始め、意外にも荷台の上からは穏やかな雰囲気が伝わってくる。
(ランドルフさんありがとう。本当はその役を俺がやらなくてはいけないのに……)
最悪のシナリオは無事に回避できたようだ。馬車に乗ってしばらくすると中の様子が気になったコルセイは再び荷台に耳を傾けてみる。すると何やら不穏な話が聞こえてくる。
「それで、私たちに何も言わずにダンジョンに勝手に行ってしまった!」
「何っ? それは仲間に対して配慮がタリンナ」
話はコルセイがダンジョンに潜る前の話をしているらしい。その後、ガイブよりコルセイのギブに対する話をすると女性陣三人よりコルセイに対する非難の声が上がる。
(団結するのは良いのだけど、俺の心象がーー)
コルセイを除く全員の団結は上手くいったようである。しかし、コルセイの評判は旅前に比べだいぶ下がったようだ。ランドルフもコルセイにお灸を据える意味も兼ねて信頼を結ぶためのダシとして使ったのだろう。コルセイはキリキリと痛む胃を優しくさすると御車台の手綱を再び強く握り返した。




