第五章 第4話 ゴブリン盗賊団との戦い
本格的な冬までは時間があるとはいえ外の風は冷たい。数日もすれば外套無しでは歩けないだろう。戦支度をしたマフィアメンバーと三人はただ一人を除いて無言のまま道中を進んで行く。
「ハッハッハッ。また会えて嬉しいぞ! どうだ気は変わらないか? お前らならいつでも我がギルドに歓迎するぞ」
莫大な利益をもたらした三人にナースミルはとことん甘い。ギルドにとは言っているが、加入する場合はもちろんマフィアに所属することになる。ナースミルのありがたい誘いをかわすとタイミングを見計らってマドリアスが質問を投げかけてくる。
「コルセイさんがいないみたいですが別行動なのですか?」
「はい。コルセイには資材の調達に向かってもらってます」
「そうですか。また彼に会いたかったのですが……」
マドリアスはコルセイのせいでブリザーブドドラゴンに追いかけられたことがあると聞いている。言葉通りに受け取らない方が良いだろう。そんな話をしているともうすぐ盗賊団が出るといわれている場所まで近付く。
「マドリアス! どれくらいで目的の場所に着くのだ? 奴らめ、今度という今度は許さんぞ。お前達も気合を入れてゴブリンどもを殺せ。しくじったら私がお前達を殺す」
今までと打って変わって機嫌が悪くなる。真夏の豪雨のような気性の荒さである。もしも、この盗賊団にコルセイが関わっていた場合非常にまずい。この怒りと恨みがこちらに変換されてしまう。ランドルフがオリビアとアヤカに視線を送ると二人も同じように考えたのか険しい表情をしている。
「姉御! 林の中にゴブリンが見えました」
ナースミルの部下が声を荒げる。ナースミルは荷車に置いてあった槍を構え、部下を展開させる。てっきりランドルフ達が戦うのを物見遊山気分で来ているのかと考えていたが本格的に戦闘に参加するようである。この状況はますますまずい。
「私が行く!」
ナースミルの部下に混じりオリビアが林の中に走って行く。残されたのはアヤカ、ランドルフにマドリアス、ナースミルである。コルセイがいる場合は何とかしてコンタクトを取りたい。林の中にコルセイが現れた場合はオリビアが何とかしてくれるだろう。
ゴッ!! ドンッ!
荷車が大破するとそこに現れたのは顔を黒布で隠した大男である。しかし男には通常ない口吻があり布で顔を隠しているコボルトなのがバレバレである。
「私はこの地にいると言われる冒険者ランドルフとの立ち合いを所望する。この戦士の中にランドルフはいるか?」
「えっ。私?」
あまりの棒読みな台詞回しに一瞬自分が呼ばれたことが理解できなかった。ランドルフの名前を叫ぶという事はやはり関係者の可能性が高い。戦闘の勢いで何とか誤魔化せているがこのまま会話続けるのは危険である。さっさと乱戦に持ち込んでこの場を離れたい。
「お主がランドルフか。待ち望んでいたぞ! その他のものには要はない食料を置き、この場を去れ!」
間違いない。このコボルトはコルセイと何か関係があるのだ。ランドルフが剣を構えると横からマドリアスが前に出る。
「そうはいきません。お前に面子を潰されてきた私たちが今更一対一でなんか戦う訳ないじゃないですか。ここにいる全員で相手にをさせてもらいますよ!」
「ヌウ」
コボルトより間の抜けた声が漏れる。このコボルトは戦闘特化で知恵は回らないのかもしれない。
「そ、その通りよ! みんなでかからせて貰うわ」
「ヌッ」
動揺したランドルフが台詞を噛んだと同時にワラワラと現れるゴブリン。皆異民族が被るような仮面を被り異様な装いである。
「オォォォ!」
ランドルフが剣をコボルトに振り下ろす、コボルトは剣の間合いを強引に詰めるとランドルフの持ち手を掴み、そのまま体を器用に捻るとランドルフを林の中に蹴り飛ばす。
「クッ!」
場にはワラワラと群がるゴブリン。そんなゴブリンをナースミルが槍で薙ぐとゴブリンが一掃される。しかしゴブリンはスモールシールドでしっかりと身を隠しており、大きな損傷を負うことなく再びナースミルへと迫る。
「煩わしい!」
ナースミルとゴブリンの戦いが膠着状態の中。いつのまにかいなくなるアヤカ。マドリアスが舌打ちをするとマドリアスもショートソード片手にゴブリンに斬りかかる。ゴブリンは数でマドリアスを囲むと盾でタコ殴りにし、マドリアスはショートソードを落とすとそのままゴブリンに連れ去られてしまう。
「マドリアス! くそ、使えない」




