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第四章 第62話 イケメンの正体

 

 扉の先にあったのは奥行きのある部屋であった。両壁には定間隔で絵画が飾られ、どの絵画も戦いをモチーフとしている。床には青い絨毯が引かれており、王族か貴族の貴賓室のように見える。


 そんな部屋の中央にいたのは若い青年。白髪で碧眼、ほっそりとした身体に王族が着るような礼服を身につけている。しかし、中心部分のボタンは幾つか外され堅苦しさは感じない、品の良さそうな温かみを感じる顔立ちであり、年頃の女がすれ違えば十人が十人この男に振り向くであろう。


「あれ。お前、何か見たことがあるぞ」


 イケメンである青年に対する僻みではない。しかし、心の中に湧き上がる何かがイケメンの青年に対しての口調を乱暴にしてしまう。


「酷い言い草じゃないか? 君の運命を握っているのは俺だということを覚えておいて欲しい」


 青年の声は甘く異性を惹きつける声だ。もしかすれば声だけでも何人かの女は落とせるかもしれない。


(誰だ? 絶対に会った事がある。あの目、あの声。そして気に入らないこの感情)


「さて、俺が何故ここにいるかというとお前たちがどうなるか見届けるためだ」


 考え込むコルセイを尻目にガイブが青年に顔を向ける。


「俺たちはここを脱出しに来た。お前にそれができるのか?」


「出してやることはできない、手助けだ。お前たちが望むなら手を貸してやる」


 ガイブが言葉の意味を考えているとコルセイが唐突に叫ぶ。


「分かった! お前ルセインだな。その髪、顔立ち。お前は若い頃のルセインだろ」


 ちなみにこの気にいらない感情はルセインがコルセイを騙したからであろう。コルセイは断じてイケメンに対する嫉妬ではないと自分に言い聞かせる。


「……ルセインではない。同じ人物がこの世にいる訳ないだろ? 生物としてのルセインの体、そういう意味では正解だ」


「何だ? まどろっこしいな。一体誰なんだ?」


「ルセインに聞いただろ? 俺は石下僕(ゴーレム)だよ。ダンジョンに再構成され元の精神を保ったルセイン。そしてルセインの精神と身体の情報を得て、新たに生まれ変わった石下僕(ゴーレム)が俺だ」


 別人であるのは間違いない。しかし、ルセインとこの青年の中身がどうも同じに感じられてしまう。


 いや、青年の正体は分かった。後はここを出られるのかそれが分かれば良い。


「そうか。お前があの石下僕(ゴーレム)か。同族を殺したのはお前か?」


 同族を殺された怒りからガイブは剣呑な雰囲気を醸し出す。きっかけさえあれば今すぐにでも戦闘を開始してしまいそうだ。


「おいおい。勘違いしないで欲しい。彼らは覚悟の上での戦闘だと考えている。ここでお前が一方的にこちらを恨むのはおかしな話だ」


 青年の言葉は一理ある。先程の話が本当なら、戦士として挑んだ先祖達の顔に泥を塗る行為となる。これ以上軽率な発言はできない。


「良し! 決めたぞ!」


 青年は何か良い事を思いついたらしく愉快な表情を浮かべコルセイを見る。


「コルセイ、君の横にいるガイブ君を君は信頼しているか?」


「ああ。今一番頼りのしている仲間だ」


「良いね。ガイブ君、君はコルセイの為なら何でもできるかい?」


「当たり前だ。コボルト族の恩人で仲間だ。コルセイのためなら何だってする」


「良いね。君達」


 青年は愉快そうに一頻り笑うと右腕を少し上げ指を鳴らす。絵画が掛けられている側面の壁がひっくり返るとそこに現れたのは一つの棺である。


「ダンジョンはルセインのような観測者を求めると共に番人である俺のような存在も作った。ダンジョンは自分を維持するために常に番人を求めている。その番人にガイブが勝てたならコルセイをここから出すよう掛け合ってあげよう」


「言ったな。約束は守れよ」


「これは約束ではない。契約だ。僕も契約は守らなければならない。この番人はダンジョンの意思を介さずに俺の意思で抱えている十人の戦士の内の一人だ。三人はルセインと共にここまで来た三人。


 僕の姿がまだ石くれだった頃に戦った最強の三人だ。ここ最近はダンジョンが取り込んだ者の中でお気に入りを自分で再構成して手元に置いている。意思はないが戦闘能力は抜群のはずだ。ではガイブ君、健闘を祈るよ」


 青年の話が終わるとガイブは予め最強の赤色のガラス管を首筋に打ち込んでいる。これがこの探索での最後の戦いになる、最初から全力で戦うという選択をとったようだ。


 扉が開くと棺より足が踏み出される。筋肉質な足に逞しい腕、身体の体毛は闘気で逆立っている。顔には石の面がつけられ表情は見えない。


「あ、あぁぁ」


 薬剤を投与し全身戦闘態勢に入っているガイブから間の抜けた声が上がる。棺から現れた個体は石仮面をしてはいるがコボルト族のように見える。


「ま、まさか」


「父ちゃん!」


 ガイブの声に反応はない。石仮面を被ったアブミは四肢を床につけ頭を丸める。


「父ちゃん。俺だガイブだ!」


「ウォォォォォン」


 アブミの遠吠えが部屋に響く。四肢と接する床にひびが入る。


 ゴッ!!


 音が響くのと同時にガイブの目の前は腕を振り上げ、石仮面をつけたアブミが目の前に迫っていた。


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