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第四章 第56話 唸る

 

 コルセイとガイブにより絶え間なく運ばれる荷物。主に運んでいる物は麻の布と乾いた木材。白筋肉や白い何かをあしらいつつ十六階と十四階を往復している。ナンナとルセインはウッドハウスに残りコルセイに指示された物を作成する。


「コルセイ。そろそろ俺にも何をしようとしているか教えてくれ?」


「あれ? 言ってなかったか? 俺たちは、空を飛ぶ!」


「空を飛ぶ? コルセイ正気か!?」


「正確に言えば空をではなくダンジョンを飛ぶが正しいかな。ガイブ、落下傘って知ってるか?」


 厳密にはまだ間違っている。ダンジョン内をゆっくり降下するが一番正しい表現だろう。幸い、街にはかつて住人が水路で使っていたでボートがあったため、そのボートに落下傘を取り付ける準備をしている。ちなみに、肝心の落下傘はルセインとナンナにより作成中である。


「ナンナの手先が器用で助かったよ。本当に助かる」


「そうだろ、そうだろ。俺の妹は凄いぞ」


 ナンナを褒められたのが嬉しかったようでガイブの口元が緩む。


 アヤカ百科事典に落下傘の記載があり、当初はコルセイだけで作っていたが、ルセインの設計図を読み解く力とナンナの手先の器用さによって落下傘作成作業は二人にまかせられることになった。


「このペースなら十日もかからずに完成しそうだな」


「コルセイ、久しぶりに嬉しそうだな」


「地上に戻れる可能性が出てきたからな」


 嬉しそうなコルセイに対してガイブは心なしか表情が暗い。


「なぁガイブ。二十一階に行って入口を復活させた後、もしよければ一緒にーー」


 コルセイが言葉を全て言い終える前にガイブが急に歩みを止める。


「コルセイ。俺はコボルト族最強の戦士だ。戦士は皆を守らなくてはならない」


「……そうだな。今は無事に二十一階にたどり着くことを考えよう」


 ※※※


 当初は十日以上かかると予想されていた工程が僅か七日で終了する。街にベースとなる小舟があったのとナンナの働きが大きかったようだ。


「よし、明日出発だ。休んで明日に備えよう」


 コルセイとガイブは部屋に分かれ明日への準備へと入る。コルセイが武器とデュケスのボディのメンテに集中していると突然建物に獣の鳴き声が響く。


 一瞬、魔物が攻めてきたのかとコルセイは警戒したがよく声を聞いてみればナンナの声である。どうやらガイブとナンナでやりあっているようだ。コルセイは悩んだ末に廊下に出て様子を窺う。するとルセインも同じようなことを考えたようで遠くから顔を覗かせている。


「ガイブ君はナンナちゃんをここに置いて行くみたいだ」


 コボルト族の言語が分かるルセインはナンナとガイブの話を聞いてしまったようだ。


「別に盗み聞きするつもりはなかったんだがね」


 ばつが悪そうな顔をするルセイン。しかし、あれだけの大きな声でやり合っていればルセインが盗み聞きを気にするのはおかしな話だ。確かに明日からの探索は命の危険を伴う。安全が確保されているならここに残るのが正しい選択である。


 ※※※


「やだ、やだ、やだ。私はお兄ちゃんと一緒に行きたい!」


「ナンナ、我儘を言うな。ルセインはここに居てくれて良いと言っている。俺が戻ってくるまでの辛抱だ」


「今までだって大丈夫だった! 今度だって大丈夫だよ」


 いつもはナンナに言いくるめられてしまうガイブも今日はナンナに対して武人の表情で応じている。ナンナがいくら着いていくと言い張っても今日のガイブは頑として折れない。ナンナはこれ以上ごねる言葉が見つからず黙りこくる。


「ナンナ。俺はお前が唯一の家族だ。お前に何かあったら俺はこの先、生きてはいけない」


「……ずるい。そんな事言ったらこれ以上何も言えないじゃん」


「今回ばかりは俺も首を縦に振ってやれない」


「……分かった。じゃあお願いを一つ聞いて! それを聞いてくれたら私も言う事を聞く。ちょっとこっち来てお兄ちゃん」


 ガイブが不安そうな顔をしてナンナの元へと向かう。ナンナはガイブの耳元に小さな声で条件を告げる。


「なっ! それは」


「これが守れるなら私はここの残る」


「……ヌゥ。分かった約束しよう」


 ※※※


 翌日。ナンナは笑顔でコルセイとガイブに手を振る。昨日の剣幕を見ていたコルセイはよくここまで話を持っていけたなとガイブに感心していた。正直コルセイに知恵を求めてくるくらいはありえるだろうと踏んでいたのだが、良い意味で裏切られた。しばらく二人とも無言で進むと手を振り続けていたナンナとルセインが見えなくなる。


「ガイブ。ナンナはよく納得してくれたな」


「ウム」


「また言いくるめられてしまうのではないかと心配していたんだ」


「ウヌ。約束したからな」


「歯切れが悪いな」


「いや、何でもない。先を急ごう」


 下層に向かう階段が見えてくる。コルセイの進む足取りの軽さに対し、ガイブの足取りは鎖をつけられたかのように重い。ガイブは十七階に着くまでの間、口を開く事なくずっと唸り続けていた。


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