第四章 第49話 赤鎧の最後
発射された《土の刃》は二本。コルセイとガイブに向かい真っ直ぐに飛んで行く。速度は黒鎧の発射速度と変わらない、ガイブは足を使い余裕をもって避けるがコルセイの足では難しい、リュケスを全面に出し何とか《土の刃》を防ぐ。
「コルセイ先に行くぞ!」
ガイブはガラス管の薬剤を再度打ち直すと一瞬体を震わせて赤鎧へと突進する。
「ウォォォォォォォ」
ガイブが強く踏み込み、剛腕を振り下ろそうとしたその瞬間《土壁》が目の前に現れガイブの行手を阻む。
「ぬぅ」
ガイブは床を蹴り直すと再び赤鎧へと攻撃を試みるが赤鎧は既に正面に待ち構えており攻撃は不発に終わる。しかも、ガイブがその場を離れようと上体を反らすと剣が降り下ろされ腕に浅い傷つける。
「くっ」
一方、コルセイもガイブの援護に向かうべく距離を詰めようとするが定期的に飛んでくる《土の刃》に阻まれ中々前に進む事ができなかった。
(威力のある《土の刃》のせいでリュケスのダメージもかなり蓄積している。このままだと危ない!)
ゴッッ!
リュケスがバランスを崩し膝をつく。
ダメージの蓄積が考えていた以上に溜まっているようで、土の刃をさばくのにいっぱいいっぱいでリュケスはなかなか立ち上がる事ができない。コルセイは全ゴブリンを自分とリュケスの前に集めると進むのを一時的に諦め防御に徹する。
「すまないガイブ。少しの間耐えてくれ」
※※※
赤鎧の剣と魔法を使う多角的な攻撃によりガイブは苦戦を強いられている。しかも戦い始めたばかりの時はコルセイとガイブに一発ずつ撃ち込まれる程度の《土の刃》の発射頻度だったものが、今は数瞬の間を置いて次々に発射されるまでに頻度を上げている。
(クソ! どういう事だ。どんどん強くなっているぞ)
ガイブはダメージ覚悟で前に出ると一瞬の隙をつき強引に赤鎧の脇腹に蹴りを入れる。一瞬よろけた赤鎧が背中を見せると先程までと大きく変わった姿を確認する。
「あ、あれは。背中に上半身が」
先程までコルセイが戦っていた黒鎧が赤鎧の背中より顔と手を出している。黒鎧はぐったりと項垂れていて、手の先には先程まで黒鎧が持っていたロッドを持っており、そのロッドが一瞬輝くとまたガイブに向かい《土の刃》が発射される。ガイブは赤鎧の背中に咄嗟に抱きつくような形を取ると赤鎧を拘束し、コルセイがこちらが来るまでの時間を稼ぐ。
「コルセイ!」
ガイブの声が響く。《土の刃》が飛んでこなくなったのを見るとガイブが一時的に敵を抑えているのだろう。コルセイは再び前進しようとする。
しかし、リュケスの鎧は大破し、太い骨には傷や欠けが多く見られ深いダメージが窺える。ゴブリンも先程までの戦いでほとんどが戦闘を離脱し、コルセイの回りに残り二匹を残すのみとなっていり。
「大幅に戦力ダウンだ。これでガイブと一緒に戦えるのか?」
コルセイが足を進めると足の先に何やら大きな硬いものが当たる。
「んっ? これは!」
※※※
赤鎧の背中に抱きつくような形で《土の刃》を凌いでいたガイブ。時間が経つにつれ黒鎧の姿が徐々にはっきりしてきている。
ブオッッ
《土の刃》がガイブの頬を鋭く傷つける。そろそろこの距離感も限界と判断したガイブは背中から距離を取ると赤鎧と真正面から向き合う。赤鎧は下段に剣を構え、肩越しには《土の刃》が形成されていく。
(薬を使い過ぎた。これ以上使うと今後戦えなくなってしまう。剣を避ければ魔法が魔法を避ければ剣がどちらをくらっても重傷になるのは間違いない)
【骸の道】
リュケスの低い声がガイブの耳に届く。ガイブに集中していた赤鎧は暗闇から突如現れた骸に全身を絡め取られ身動きを止める。
《土の刃》もあらぬ方向を向き、焦った赤鎧は《土の刃》を誤射してしまう。好機と判断したガイブは足を大きく開くと勢いよく振りかぶった剛腕を赤鎧の顔面へとぶち当てる。
ゴォォン
金属が力強く打たれる音が鳴り響く。赤鎧の重厚な兜が凄まじい速度で身体から離れると、頭がなくなった首の上から華麗に飛び跳ねたデュラハンが剣を突き立てる。赤鎧は電流が流れたように体を震わせると両膝を前に折り、そのまま前に倒れた。




