第四章 第40話 欄干が示す先には
「コルセイ! ちょっと来てくれ!」
コルセイが不完全燃焼感を漂わせていると書庫の外でガイブが叫ぶ。コルセイは何かあったのかと廊下顔を出すと廊下の突き当たりにガイブが立っており、ナンナを自分の肩に立たせて何やら天井を押している。
「何をやっているんだ?」
「ここの天井の上に隠し部屋がある。手伝ってくれないか?」
コルセイがゴブリンを数匹呼ぶとガイブの足元にゴブリン自身で階段を作る。ガイブはナンナを下ろすと、勢いよくコブリンの階段を駆け上がり一気に上へ飛び跳ねると瞬く間にガイブの足音が遠のいて行く。
「ガイブー、何かあったか?」
「いやーー。特に何もな……いや、今、そっちに行く。コルセイ、交代して確認してくれ!」
何か気になるものがあったのだろうか? ガイブが隠し部屋から降りて来ると、コルセイが交代し、隠し部屋へと駆け上がる。
天井裏の通路はわずかな距離しかなくコルセイがわずかに歩くとすぐ突き当たりへと到着する。その先には体がギリギリ通れる程の大きさの小さな扉。ガイブが開けたばかりのため、僅かに光が漏れている。小さなドアを開けコルセイは隙間から体をねじ込む。
「バルコニーか。特に変わった様子は無さそうだが」
ガイブは何故コルセイを呼んだのだろうか? バルコニーはこの街を一望できる作りになっており、バルコニーを囲むよう欄干が備え付けられている。
眺めはかなり良い。しかし、他人の気配がない街並みは寂しくも感じる。空がだいぶ暗くなり始めている。こ建物の探索が終わり次第休憩に入ることになるだろう。
(んっ)
冷たい風がコルセイの顔を撫でる。コルセイが思わず目を細めると欄干の一部が意図的に捻られているのに気づく。
(いや、あれは)
コルセイは欄干の捻られている場所に手を合わせる。指の一本一本を捻りに指を沿わせると体の向きが自然とおかしな方向を向く。その体の向きに合わせて体の角度を変え、街並みを眺めると今まで見えて来なかった一本の線が見えてくる。
(この角度でしか見えない通り道か! この道を通っていくと特徴的な高い建物がある。さっきの本が示していたのはこの建物じゃないのか?)
新たな発見を求め街並みを眺めていると後方よりガイブとナンナが小さな扉をくぐり抜けてくる。
「気付いたか?」
「ああ。あの欄干が示す街道の事だろ?」
「んっ? 何だそれは?」
「え、違うのか?」
コルセイは再び指を欄干に捻りに合わせると身体を不自然に捻る。ガイブも同じように身体を捻るとコルセイと同じ姿勢を取る。
「おっ! 何だこれは!」
ガイブは欄干の示す道を気付かなかったようである。ナンナに見てみろと欄干を掴ませている。
「これじゃないとすると一体何のために俺を呼んだんだ?」
「コルセイ気付かないのか? あそこをよく見てみろ」
ガイブが示す先を見るがよく分からない。特に何も無さそうに見えるが……。
「ギャウギャウ!」
ナンナが欄干の隙間より街の建物を指差す。その指し示す先をゆっくりと追ってみるとそこには建物の陰からうっすらと白い煙が上がっている。空が暗くなり始めていたためコルセイは見落としていたが獣人のナンナとコボルトのガイブにはハッキリと見えていたようだ。
「この煙は街の日常ではないはずだ。俺たちのような外からきた者が原因なんじゃないか?」
しかもこの煙の先には俺たちが目指す建物がすぐ近くにある。建物を破壊されたり中を荒らされてはまずい。せっかく掴んだ手がかりを失う訳にはいかない。
「ガイブ、空が暗くなり始めているがどうしてもあの建物に行来たい。一緒に来てくれないか?」
ガイブは即答しようとするが口を一度閉じる。ゆっくりと視線をナンナに向け悩み始める。辺りが暗くなれば白い何かや白筋肉が出るかもしれない。ガイブの気持ちを考えるなら無理をさせる訳にはいかない。コルセイは自分一人で向かうことをガイブに伝えようとする。
「ガウ!」
ガイブとコルセイが声の先を見る。
「ガウ!」
声の主はナンナである。ナンナはガイブの袖を引っ張ると煙の出た建物を指し決意を固めた表情をしている。
「ナンナ、しかし」
「ガウガウ!」
どうやらナンナは一緒に向かうと言っているようだ。何度も袖を引くナンナに促され遂にガイブも決心する。
「よし、行クゾ!」




