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第四章 第33話 十三階層での戦い

 

 ブォォン!


 虜囚が右腕を勢いよく振ると腕につけられた鎖がコルセイに向かい飛んでくる。丸い円盾を装備したゴブリン達がコルセイの前に盾を重ると鎖は勢いよく弾かれる。すぐさま虜囚が体勢を整え、左腕の鎖を繰り出そうとする。


 しかし、その鎖を繰り出す前にゴブリン達のスリングによる遠距離攻撃により虜囚がドッと鈍い音を鳴らし膝を突く。


「行け!」


 前衛の残りのゴブリンが虜囚の四肢を切り刻む。すかさずコルセイがガイブの援護に入ろうとするが、すでにガイブのダイナミック踵落としが処刑人の後頭部に落とされようとしていた。ガイブの踵が綺麗に入り、何かが割れる音がすると処刑人は前に崩れ落ちそのまま動きを止める。


「不気味な見た目ではあるが戦闘能力はてんでないな」


 ガイブはトドメの一撃で処刑人の頭を踏み抜くとそのまま死体を壁際に蹴り飛ばした。壁際に飛ばされた死体にコルセイが歩いて行くと腰を落とし敵の遺体を弄り始める。


「お、おい。コルセイ何をやっているんだ?」


 処刑人と虜囚それぞれからは黒い液体が流れ、身体を調べても特に反応はなく絶命しているようには見える。処刑人と虜囚のマスクを剥ぎ取り、コルセイは持ち物を調べる。


「ガイブ見てみろよ。こいつら顔がないぜ。体も人間のような作りではあるが何というか……作り物のような造りだな。人形の身体に人間の皮膚を縫いつけたようなそんな感じだ」


 興味深げに観察するコルセイに若干引き気味のガイブ。心なしか疲れているようにも見える。


「これ以上は特に何もなさそうだ」


 部屋の奥に進むと作業台の裏に下層へとつながる螺旋状の階段を見つける。底を覗いてみるが階段は深く、ここからでは底を確認する事が出来なさそうだ。


「行こう」


 松明に再び火をつけると前衛のゴブリンの数匹が先行して前に進む。


 ガサッ


 後方より何か音が聞こえる。コルセイが振り向くと先にガイブがショートソードを抜き警戒している。


「敵か?」


「いや、ポーターの麻袋の中身が荷物が崩れたんだろう」


 匂いや聴覚による索敵、警戒はコボルトに普通の人間が勝つことはできない。ゴブリンの複数使役により探索の利便性は大幅に向上しているがこの旅にガイブがいるのといないのでは生存率が大きく違うであろう。


 螺旋階段を降りる。たどり着いた小さな部屋に階段と扉以外は特に何もない。部屋の扉に手をかける。扉の先には開けた空間。大きな柱が所々にあり、松明がかけられている。


 しかし、灯りは所々を部分的に照らすだけで部屋全体には行き届いていない。全体的に石造りでできているようにも見えるが柱などの一部は岩や土が剥き出しである。


「コルセイ、気をつけろ。暗闇にかなりの数の気配がある」


 コルセイ達の物音を聞きつけて暗闇よりワラワラと現れたのは先程の処刑人と虜囚のコンビである。先程の二人と違う点といえば処刑人の持っている武器に大鎌やショートソードなどの武器の多様性がある事だろうか。中には狼を連れている者もおり、狼はガイブとコルセイに向けて威嚇をしている。ガイブがコルセイの横に並ぶとコルセイは壁を背にゴブリンで円陣を組む。


「敵に飛び道具が無さそうなのは幸いだな」


「ああ。でも、警戒はしておこう」


「犬はマカセロ」


 ガイブがピンク色のガラス管を身体に打ち込むと両腕を横に添え腰を落とす。


 グゥォォォォォォ!


 凄まじい声量のハウリング。敵は一瞬動きを止め、狼はビクッと身体を震わせると身体を地面に伏せ怯え始める。あの様子では猟犬としてもう使い物にならないだろう。


「コルセイ、イクゾ!」


 スリングの投石と共にガイブが前へ駆け抜ける。飛んでくる石に気を取られ虜囚も処刑人もガイブの動きを見失う。一度見失ってしまえば瞬足(スカンダ)で動くガイブを敵は追う事を出来ない。


ズサッ。ドッ! ズサッ


 ガイブの攻撃により戦闘能力の低い処刑人がバタバタと倒れていく。一方コルセイは虜囚による鎖の猛襲を十匹のゴブリンで受け流す。攻撃をいなし、スリングによる投石で虜囚を牽制、攻撃。隙を突き前衛のゴブリンが腕や足の腱を斬る。三十匹のゴブリンが同じ意識の元、まるで一つの生き物のように動くとゴブリンの集団は異常な強さを発揮する。


「ガイブどうだ!?」


 暗闇でガイブを見失ったコルセイが声を上げる。柱の陰からふらりと姿を現すガイブに一瞬ヒヤリとする。しかし、背後からショートソードで襲う処刑人の攻撃を躱す為であり、躱した体勢のまま流れるように処刑人の頭を蹴りで撃ち抜いた。


 ドッ


 ガイブが最後の一人を倒す。コルセイは念のため残党がいないか辺りを見回すが生き残りはいないようだ。処刑人と囚人はざっと二十体ほど。ガイブのハウリングで戦意を失った狼は大半は逃げたようであるが戦いに巻き込まれ何匹かは死体となり横たわっている。


「うーん」


 コルセイは横たわった狼を品定めし、二体ほど血抜きを始める。


「何をやっている? はぁ。持ち帰るのか? はぁはぁ」


「何をって。見ての通り血抜きだ。というかどうした。まさか! 傷を負ったのか?」


「あのような者達に遅れをとることはない。はぁ。はぁ。ただ……疲れた」


 ガイブはそのまま腰を落とすと荒い息を落ち着かせるため休み始める。


「おい。疲れた? お前があれだけの戦闘でか?」


 コルセイはガイブの元へ近づくと松明でガイブの身体を照らしてみる。身体からは溢れ出る汗。首筋から顔反面に浮かび上がる炎のような痣。毛で覆われているはずのガイブの顔に明確に痣を確認する事ができる。


「お、おい。何だこれ。ガイブ何があった? ガイブ? ガイブ!」


「はぁはぁ。わ……からな、い」


 言葉を最後まで言い終える事なく、ガイブはその場に横たわった。


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