第四章 第21話 人族言語レッスンで得た物は
時は少し巻き戻る
「イヌマサハミにコノゲツカソウをマゼレばイインダナ」
「ギョウブ違います。犬マサハミにこの月火草を混ぜれば良いんだな、です」
「ヌウゥ」
「私と話す時は人族の正しい発音で話して下さい」
ガイブはアブミの部屋の書物を解読をしていたものの自分の知識だけでは解読しきれなかった。そのためコルセイ同様ギブを訪れ知恵を借りていた。
「私の出した条件は二つ。貴方の父上が遺した知識を私へ開示する。人族の言語習得の協力。その二点です」
このやりとりをガイブとこなして数日。言葉は格段に成長している。それに比べてガイブの言葉はまだ未熟の範囲をでていない。
「貴方の父上と話したかった。武力に抜群、統率力はピカイチと聞いていました。この資料を読み解く限り知識人としてもコボルト族一番だと言わざる得ません」
「当たり前だトウチャンはスゴインダ」
「違います。父上は立派です。はい、言い直して下さい」
「グウゥゥ」
ガイブを苦しめていたのは戦闘能力ではなくギブの人族言語のレッスンだったようだ。
〜〜〜
「デキタ」
ギブの協力を経てやっとできた強化液はサラサラとしており、薄らとピンク色がついたものから、真っ赤な血液を思わせる液体まで三種。ガラス管の中にはピンク、紫色、赤が用意されている。
「とりあえず試作品ですのでピンクを少量たーー」
ギブが注意を促そうとする側からガイブは腕に針を刺し紫の液体を流し込んでいる。
「ちょっ! 何をやってるんですか?」
ガイブは全身の毛が逆立ち、血液が凄まじい勢いで巡る。今までに体感した事がない興奮を覚え、万能感に支配され身体を動かしたくてしょうがない気分になる。
「ウォォォォォォォン」
ガイブは通路に飛び出すと一気に廊下を駆け抜ける。疾風のように風を起こすと通路の塵を舞い上げ、縄梯子が設置されている縦穴まで来ると両脚に力を入れ力を解放する。
ブオンッ
風を切る音と共に空中を一気に駆け上がり、間欠泉のある崖まで走り込むと再び遠吠えをあげる。
「ウォォォォォォォン、ウォォォォォォォン、ウォォォォォォォ」
遠吠えが鳴り響く中しばらくするとギブが追い着いたようで崖を登って来る。
「ちょっと。勝手に薬を打たないでください。体にどんな影響が出るか分からないんですよ!」
「トウチャンがツクッタものだ。シンパイナイ」
「父上が作ったものだですよ。しかし、効果は覿面のようですね」
「ああ。コレナラスグにでも百足と戦える」
〜〜〜
「ウォォォォォォォ」
壁を駆け上り、勢いよく壁面を蹴り飛ばすと百足の目にショートソードを突き立てる。
シャァァァァァァ
今までに感じた事のない痛みを受けた化け百足がたまらずに奇声を上げる。ショートソードを突き刺した隙を狙いもう一匹の百足がガイブに口を開け遅いかかる。
「ヌん」
ショートソードを突き刺し体勢が崩れたガイブは身体を捻り百足を足場にすると襲いかかる百足の口を軽々と躱す。
ウバァァァ
片目を潰された化け百足はまだ生きてはいるようだが受けたダメージは大きい、戦力は大幅に削がれているようである。体を駆け巡る万能感、逆立った体毛が通常通りになると時間切れのようでガイブの身体を倦怠感が襲う。
(ウゴケナイワケデハナイガやはりハンドウがあるな)
ガイブが化け百足二匹と一時的に向かい合う形となる。ガイブが二本目のガラス管に手をかけると化け百足の背中を一匹のゴブリンが登って来る。ゴブリンは何も語らずにガイブの目をただ真っ直ぐに見据える。
(コイツが……)
やがてゴブリンが百足の背伝いに後方へ戻るとガイブは二本目のガラス管を首筋に刺し、剣を化け百足に向け腰を落とした。




