第一章 第14話 うつろいの森 前半
うつろいの森
ヒエルナ北部に位置するラマダン大森林、通称うつろいの森。地脈より噴出した魔力の影響を受けた植物群落により、国内に大森林が形成されてしまう。やがて、魔力に惹き寄せられた魔物が頻繁に現れるようになると、ラマダン周辺には人が立ち入れなくなり、人々は姿を消していった。
その後、ヒエルナよりラマダン滅亡の詳しい原因を探る為、幾度となく調査隊が派遣されたが、ラマダン城まで辿り着いて戻ってくる調査隊は未だにいないなかった。
大森林形成後のうつろいの森では整備された道などはなく、あるのは獣道のみである。道中、枯れ木に紛れたレッサートレント、生い茂った木々の陰から手長魔猿などの魔物も出現した。しかし、うつろいの森固有種の魔物はアヤカが予めしらべており、また、オルタナの探知能力も相まってか探索は難なく進んでいった。残されたコルセイといえば大した活躍もなく、重傷を負った魔物にとどめを刺すだけであり、探索の課題の魔物の使役は成果を上げていなかった。
大森林も深くなると獣道さえも見つける事も出来ない、アヤカの案内がなければ遭難するのは間違いなかったであろう。オルタナを先頭に小刀や鉈で草木を薙ぎ払いながらの行進となり、先ほどから異常に育ったシダ植物をバッサバッサとなぎ倒している。
「コルセイ、一つ確認です。先程から何体か魔物を倒しましたが、あの魔物は使役することははできないんですか?」
「う~ん、動かせないんですよね。俺にもこの能力がよく分からないんですが、始めてゴブリンを動かした時も、こう、なんだろう、グッとくるものがあったんですよね。さっきの魔物も何匹か使役できるか試してみたのですが、特にそういうのは感じなかったんです」
「……コルセイは感覚派なのですね。色々と解明するのが大変そうです」
「それにしてもこの荒れよう酷いですね。アヤカさん、本当にこの森には誰もいないんですか?」
「私が調べた限りでは、ラマダンの貴族がクーデターを起こし、王族から国民を巻き込む大規模の内乱になり、次々に起きる争いで国の維持に関わるほどの死者が出た。しかも、その後の大森林の形成がとどめとなり、国としてどうしようもなくなるとラマダンは滅亡した。
ヒエルナに避難した一部のラマダン人はおりましたが、その後のラマダン調査でも生き残りがいたような記録はありません。ちなみに、その生き残りなんですがラマダンの優れた魔力制御の技術をヒエルナに伝え、その功績が認められて今はその子孫が貴族となっています。ワルクーレって名前聞いた事ないですか?」
「ワルクーレ? あの悪名高いワルクーレの事ですか?」
「はい。因みにこの話題は本国では絶対話さないように。ワルクーレの権力を考えれば何をされるかわかったもんじゃありません」
過去の国の滅亡を聞いて、わずかながら気分が落ち込むコルセイ。そんなコルセイの気持ちなどは関係なく、前方を警戒していた、オルタナより注意を促がされる。
「そろそろ注意深く歩いてくれ。この奥はどうやら陽もあまり差し込まないようだ。霧もかかって視界も悪い。魔物が出るにはうってつけの場所だ」
更に奥に進むこと数時間。陽が落ち、辺りは薄っすらと暗くなり始める。森の奥には少し開けた場所があるが、常に陽が射差ないのか地面の植物は極端に背が低い木と色の薄い草ばかりが生えている。
コルセイ達が開けた場所の中心に移動すると、そこには回りを囲うように大きめの石が立てられている。雨風でかなり劣化が見られるが墓石のようだ。コルセイが気にせずに先に進もうとすると、オルタナが手を前に出し制止を促す。
「今の時間に最も会いたくない奴等のお出ましだ。前方からニ体、更に複数の足跡も聞こえる。このままだと囲まれる。急ごう! アヤカ砦の方向はわかるか?」
「オルタナの右斜め方向に」
アヤカが簡潔に応え、コルセイも戦闘態勢をとると、辺りを見回す。
「俺が突破するからアヤカは援護。コルセイは俺が捌き切れない敵を頼む。どうやらスケルトンがメインのようだ打撃での攻撃を頼むぜ」
間も無くアヤカが瓶に入った液体を振りまく。液体は落ちる事なく三人の周りに固定されると、同時にオルタナが走り出し、二人が後に続く。
オルタナは素早く腰から出した紐状のスリングで前方のスケルトンの顔面に石を命中させ、そのままもう一体のスケルトンに身体ごと突っ込む。スケルトンはオルタナに固定されている水滴に触れると激しく煙を上げ、スケルトンはそのまま後ろに勢いよく倒れ込む。そのまま三人はスケルトンを踏みつけると、そのまま後ろを振り向くことなく全力で森を走り抜けた。




