第四章 第15話 ゴブリンを捕獲せよ
嫌だ、嫌だ。と言いながら解体の手順をしっかりと覚えるギブ。人間でもここまで割り切って物事をやる者は中々いない。一通りの説明を終えるとギブは泣きながら準備に向かう。そんなギブを申し訳なさそうな表情で見送ると続いてコルセイはガイブに向き合う。
「ちょっといいか?」
「ナンデモおれ様にマカセロ!」
「やって貰いたい事を説明する前に一つ質問に答えてくれないか?」
ギブとは対照的にガイブは嬉しそうに首を振る。背後にある尾がブンブンと激しく振られている。
「お前の瞬足はどれくらいの時間動けるんだ? 或いは時間ではなく回数とかなのか?」
「ワカラナイ。アノムカデとタタカッタジカンはウゴケルゾ」
決まった時間という事だろうか? 体感だと一分程の気がする。やはり通常の戦力と考えると汎用性にはかなり欠ける。
「その時間どうにか延ばせないか?」
「ウ、ウーン。ソレハワカラナイ」
やはり難しいか。できるならあそこで百足を仕留めているだろう。コルセイが眉を寄せているとギョウブより助け船が出される。
「もしかしたら、できるかもしれません」
「ホントウカ!」
コルセイも驚くがそれ以上にガイブが驚いている。すかさずコルセイが疑問を投げかける。
「ギョウブさん何か知ってるんですか?」
「奴の、ガイブの父アブミと同じように力を使えるようにすればいけるはずです。アブミはガイブと同じ能力でした。戦闘を行なっている時間も十分は超えていたと思います。そして、私はそのきっかけを伝えることができると思います」
(十分! あのガイブの力を十分間も維持できるのなら間違いなく勝てる)
コルセイは頭の中でガイブの戦闘時間を引き伸ばし化けムカデとガイブの戦闘シュミレーションを試みる。
「ガイブ。俊足で五分戦えれば十分に作戦に組み込める。お願いできるか?」
「トウチャンの……マカセロ」
ガイブは承諾してくれた。後はギョウブさんにお願いすれば良いだろう。
「では、早速準備にかかります。俺は一時間後に隠し通路前に向かいますので準備をお願いします!」
「分かりました。見張りの兵に話を通しておきます」
予想通りに進む物事に笑みを浮かべるとコルセイのゴブリン捕獲作戦が始まった。
※※※
隠し通路入り口
土で埋まった通路を少し掘り進めるとその先には小さな木造の板がある。どうやら二号はここから来たらしい。
板の先に進むゴブは煌々と光を放つ松明をもち、体には蛍光弾で使う塗料が塗布されている。敵方のゴブリンとしては明らかに怪しいがコルセイの同調使役では暗い中で視界が確保できないため、どうしても処置が必要となる。
「よし行こう!」
待機しているコボルトに合図を出す。勢いよく板が外され二号が先頭、続いてゴブが通路を進む。コルセイは入口の前に座り、ゴブから送られてくる視覚だけを頼りに指示を出す。
通路は少し登った後にすぐに短い階段へとつながる。土だけをくり抜いた簡単な作りで、つい最近に即席で作られたものだと判断できる。階段を降り切るとそのすぐ先には通路の出口。両端には二人の革鎧を来たゴブリンが立っている。幸いそれ以上のゴブリンはいなさそうである。
(このまま馬鹿正直に出ていくわけにも行かないか)
二号に石を投げさせると聞こえるか聞こえないか程度の声で声を出す。
「ギャ?」
敵方のゴブリンの一人が反応を示すと通路に向けて歩き出す。通路を突き当たりまで歩きゴブリンが階段を登る。階段の先にはうずくまっている二号。
「ギャギャギャ!」
鎧のゴブリンが二号の様子を確認しに来る。
しかし、うずくまる二号の姿に違和感を感じる鎧のゴブリン。二号の表情は生気がなく、まるで人形のようだ。異常を察知し背を向けたところへ後方より走り込んできたゴブが鎧ゴブリンの首元にナイフを突き立てる。
「ガッハ」
数秒で絶命する革鎧のゴブリン。急いで革鎧を剥ぎゴブが着替えるとその場にうずくまる。すかさずに二号は革鎧のゴブリンの死体を背負い入口まで駆け上がる。
「よし、上手くいった。コボルトさんよろしくお願いします」
首筋から血を流すゴブリンの死体を見て一瞬怯むコボルト兵。しかし覚悟を決めすぐさまギブのいる処置室へと死体を運ぶ。二号はすかさずゴブのうずくまる場所へと戻る。
(入り口の革鎧のゴブリンはまだ来てないな)
二号と合流するとゴブは廊下を下り、もう一匹の革鎧のゴブリンの元へと向かう。顔を下げ、暗闇に紛れながら革鎧のゴブリンへと近づく。
「ギャギャ」
こちらに向かって来る革鎧のゴブを見ると声をかけてくる。しかし、ゴブが返事をする事はない。革鎧のゴブリンは不振に思い槍に力を入れる。しかし、暗闇から放たれる投石により頭を強打し気絶する。暗闇からは倒れるゴブリンを凝視し、スリングを手にしたゴブが現れる。
ドッ!
気を失ったゴブリンにとどめを刺すゴブ。その後方の暗闇より再び現れた二号は鎧ゴブリンを担ぎ階段を駆け登る。
コルセイはゴブの視界を通して辺りを確認する。
(コボルトの棲家につながる入口は見張りが二人いるだけ。部屋は物置きとしても使われているのか?)
奥に扉がもう一つある。ゴブは扉に耳を当てる。外からは複数のゴブリンが騒ぐ声が聞こえ、食器の当たるような音や陽気に騒ぐ声も聞こえる。この先は兵の詰所かもしれない。
(先程の見張りの革鎧の兵士に必ず交代の兵士が来るはずだ。それまでにギブの処理と使役が済めば良いが……)
※※※
二時間後
見張りの兵が二人入ってくる。見張りの革鎧の兵は二人で顔を寄せ合い何やら話をしている。代わりのゴブリン二匹は見張りを交代する為、扉を閉める。
「ギャギャ! ギャ?」
交代だ! とでも言っているのだろうか? しかし二人革鎧ははこちらに振り向こうとはしない。見張りの兵士がゴブリン兵の一人の肩に手をかけ振り向かせようとする。
その僅かな合間を縫い、唐突に現れたのは見たこともないゴブリン。ゴブリンは手にしたショートソードを素早く振ると見張りのゴブリンを一瞬で殺す。異常をやっと察し武器を構えたもう一人の見張りのゴブリン。しかしすでに時は遅く、喉元に剣を突きててられ一瞬で絶命する。
コルセイは笑みを浮かべる。
「これで、四匹確保! ドンドン行こう」
調子の良さにコルセイが声を上げると近くに待機するコボルト兵が微妙な表情を浮かべた。




