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第四章 第12話 二号

 

 コボルト居住エリア 牢内


 またもやこの牢に入るとは思ってなかった。ギョウブの制止を受け流しつつ、コルセイは目的の為に拘束したゴブリンと牢の中に二人きりにしてもらう。コルセイから感じるただならぬ雰囲気に対しゴブリンが威嚇をしている。怯えからくる威嚇であるのは明白で、牢の扉が開けば真っ先に逃げ去っていくだろう。


「上手くいけば良いんだけど」


 コルセイは予め用意してもらったゴブに魔力を流すとゴブ越しに捕えられたゴブリンに声をかけてみる。


「ギャギャギャ」


「!」


 今まで動くことがなかった死体が動きだし喋り始める。捕らえられたゴブリンの動揺は限界に達する。ゴブリンの足は震え、歯はカタカタと震えている。どうか助けて欲しいと今にも喋りそうな勢いである。


「やはり難しいか。ゴブを通せば話しができるかなと考えたけど。……俺がベースになっているからやはり無理なんだな。じゃあ、もう一つの実験試してみましょうか。ギョウブさんお願いします」


「本当にやるのですか?」


「はい。どうせ処刑するんです。試せる事は試そうと思います」


 牢屋のコルセイにナイフが二本渡される。コルセイはまじまじと二本のナイフを見るとそのうちの一本をゴブに渡す。拘束されているゴブリンはこれから自分の身におこる地獄を勝手に想像し腰を抜かしてい地面に座り込んでいる。


「ゴブリン、君を救う事はできない。ただし条件付きなら解放出来るかもしれない」


 コルセイはゴブリンの縄を切ると距離をとりナイフを山なりに投げる。ゴブリンは咄嗟の事に驚いているようだが落ちたナイフを拾うとすぐさまコルセイとゴブに向かいナイフを向けた。


「戦闘に慣れているね。さっき言った条件だけど俺とゴブを殺すことができれば約束通り君を解放してくれる」


「コルセイさん万が一の事もございます。今からでも……」


 牢の外のギョウブは今からでもこの馬鹿げた決闘を止めて欲しいと思っているようだ。


「何を言ってるんですかギョウブさん。これからあの百足と戦うのです。ゴブリン一匹に怯んでいたら何もできませんよ」


 先程までの楽しそうに岩モグラを食べていたコルセイではない。溢れ出るオーラから禍々さえも感じる。ギョウブは唾を飲み、それ以上言葉を紡ぐのを止める。


「ただ、ゴブは負けないよ」


 コルセイの言葉をきっかけにゴブリンがゴブに斬りかかる。ゴブは寸前まで相手を惹きつけると足で相手の手を蹴り上げる。強く握られたナイフは一瞬で天井に突き刺さるとゴブのナイフが相手の喉を掻っ切っる。


 ドスッ


 ゴブリンが血を流して倒れる。コルセイはゴブリンが死んだのを確認するとギョウブに再び話しかける。


「ギョウブさんこれからが本番です。打ち合わせ通り何かありましたら俺の事宜しくお願いします」


 コルセイはゴブリンに魔力を流すと掌をナイフで傷つけ、続いてナイフを地面に突き立てる。


「礎に血と肉を 深淵の闇の先の沼地の王に従え 死者よ眷属となれ」


 コルセイの魔力がナイフ伝いに地面へと流れ込む。一瞬、コルセイ達が紫紺の光に輝くと何事もなかったようにゴブとコルセイが話を始める。


「ゴブ頼むよ」


 ゴブに意識を向けるとコルセイの魔力がゴブをつたって死体となったゴブリンへと注がれる。コルセイがゴブに大まかな指示を与えるとゴブより鼠算式に今死んだばかりのゴブリンに命令が入る。結果として間接的ではあるがゴブリンはコルセイの指示に従うこととなる。


「よしっ! 上手く言いった」


 コルセイは初めての眷属化に見事成功しゴブリン二号を手に入れる。以前スケルトンをまとめて眷属にしようとした際に、大失敗し避けていた眷属化であったが、実は暇な時に原因を考えていた。以前と大きく違う事は三点。


※敵を殺害以降に術をかける

※同族のみで術をかける

※規模を小さくする


一番の原因は規模の問題な気もするが、この状況にありつけたのは僥倖であった。


「さて、これから二号君の仕上げをしようと思います。ギョウブさん申し訳ないんですが俺の道具一式、大きめの皮袋と水をたくさんを部下の方にお願いしても宜しいでしょうか?」


「仕上げと申しますとどのような?」


「いや、言葉にすると凄惨さが増す気がします……。解体という言葉が正しいのでしょうか?」


「か、解体ですか」


 ギョウブは少し狼狽えながら部下に指示を出す。牢の中にはテーブルとコルセイが頼んだ一式の道具が揃えられた。


「では始めます。ご覧になりたくない方は退出された方が良いかもしれません」


 部屋に響くのは骨を砕き、肉を千切り、肉を再び縫い合わせる音である。最初はコルセイの作業を見ていた者も、飛び散る血飛沫に吐き気に耐え切れなくなったようで、皆、走り出し牢の外へと逃げて行く。作業終了時に牢の部屋に残っていたのはごく僅かなコボルトだけであった。


「よし、出来た」


 作業は数時間に渡った。血抜きに防腐処理、可動域の調整を加えられたゴブ二号は早速ゴブと一緒に部屋の片付けをしている。部屋の内外のグッタリとしたコボルト達をかき分けギョウブとギブがやって来る。


「お、終わりましたかな?」


「はい、この通りです。ご協力ありがとうございました」


「それは良かった。コルセイさんお疲れのところ申し訳無いのですがこちらに来て貰えますかな? ガイブより話があるそうです。あ、そこの君。コルセイさんから処分するものを受け取ってもらえるかな?」


「もちろんです。あ、すいません宜しくお願いします」


 大きな革袋を兵のコボルトに手渡し、ギョウブに続き部屋を後にするコルセイ。兵のコボルトは嫌な予感がしつつ袋の中を覗き込む。


「ワオォォォォォン」


この日以降、違う意味でコルセイとコボルトの心の距離に溝ができたのは間違いはない。


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