第四章 第9話 ガイブ錯乱する
ズズズズッズズズズッ
コボルトの戦士ガイブに引きずられているのはコルセイ。尋常ではない力に足がないコルセイでは抵抗できるはずがない。いや、しようと思えばできるのだろうが事態が好転するとは考えられず身を任せている。というのが正しい表現なのだろう。廊下から倉庫に入り、縄梯子を登ることなくガイブの太い片腕で持ちあげられ運ばれる。
(ここは?)
やがてたどり着いたのはブリザーブドドラゴンが鎮座する扉の前である。二人の部下のコボルトもトンボ帰りのガイブに驚いている様子だ。
(てっきり決闘でも挑まれるのかとおもったんだけど)
ガイブはコルセイを雑に放り投げると。両足を開き、腕を両脇に添えるとそのまま顔を大きく上げ雄叫びを上げる。ガイブの体はみるみる肥大化し腕と脚の太さは倍に、革の鎧からははち切れんばかり腕と脚。ガイブはそのまま四つん這いに近い体勢となるとコルセイに目を合わせる。
「オレハオクビョウデハナイ!」
(臆病ではない? というか言葉喋れたのかよ)
ガイブは扉に座るブリザーブドドラゴンの腹に腕を入れると腰を落とし力を込める。
「グルルルル!」
コボルト数人で運べなかったブリザーブドドラゴンの巨体が少しずつ宙に浮かぶ。
「お、おい。まじか!」
ガイブはさらに力を込めると体をブリザーブドドラゴンの下にもぐらせ、腕を使ってそのままドラゴンの巨体を横倒しにする。
ドッ!
横倒しになったドラゴンを見てガイブは自慢げに顔を向ける。ガイブの力が凄まじい事はわかった。しかし、何とかしてガイブを落ち着かせたい。コルセイはこの後にガイブがしようとしている事を想像して身震いする。
「ミテイロ」
ドラゴンの巨体が無くなり露わになった扉。ガイブは両腕に力を込めるとコルセイが苦労して開けられなかった扉を難なく開ける。再び得意顔をこちらに向けるとガイブは躊躇いなく扉の下に飛び降りた。
「ワオォォォォォン」
みるみるうちに五叉路のある下層に飛び降り見えなくなるガイブ。
「おいぃぃぃ。何やってるんだよ!」
コルセイはブリザーブドドラゴンに魔力を流すと横倒しになったドラゴンを起き上がらせ、急いで自分も駆け降りる。クールそうに見えてとんでもないイカれ野郎である。しかし、共に戦うとと決めたばかりのガイブを放っておく訳にはいかない。コルセイも意を決して五叉路にブリザーブドラゴンごとダイブする。
ドスッ!
何とか着地は上手くいった。コボルト兵が機転を利かせ上層より松明と剣を投げ込んでくれる。おかげで武装と最低限の視界は確保できる。
「ワオォォォォォ、ワオォォォォォン」
あのイカれコボルトは何を考えているのだろうか? 雄叫びを上げ、敵に自分の位置を知らせている。ドラゴンで足速に駆けつけると急いでガイブを止める。
「落ち着け、落ち着け! どうしたんだ一体?」
「オレハオクビョウモノデハナイ!」
「わかった! そもそも俺はガイブの事を臆病者だなんて思っていない。早くここを出て行かないと」
必死に落ち着かせようとするが、ガイブが耳を貸す事はない。再び雄叫びをあげると敵を呼び寄せようとする。
トトトトトトットトトトトッ
遅かったようだ。杭を打ち込む音が響き、化け物百足が近づいて来ている。ガイブが雄叫びをあげるのをやめ、先程までが嘘のように落ち着いた様子である。戦闘態勢をとり、化け物百足を真っ直ぐに見据え静かに腰の剣を抜こうとする。
「クソッ! 戦うしかないのか」
感情の整理がまだつかないコルセイ。しかし、この危機的状況である。コルセイも無理くり気持ちを奮い立たせると再びドラゴンに騎乗し、百足がこちらに来るのを待ち構える。
「オレハ、モウ、オクビョウモノデハナイ」
静かに言葉を放つと、ガイブは化け百足に走りだした。




