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第三章 最終話 コルセイは迷宮へ


 名もなき迷宮


 どうしてこうなった……。


 気付くと見知らぬ小部屋。いや、洞窟か。暗闇の中で視界が確保できるのは辺りを飛び回っている洞窟蛍がいるお陰だ。ナスウェルで寝泊まりしていた宿の部屋ほどの大きさで、自分の旅装一式と箱が三つ、大きな布が被せられた巨大な物体が一つ。それに加え、眠らされた間に握らされたと考えられる華美な封筒、封筒の中にはこれまた華美な便箋が三枚。ご丁寧に読む順番まで番号がふられている。


 ※※※


 コルセイ君へ


 弟子になってくれてありがとう。こんなに気持ちが踊ったのは何年ぶりだろうか? しかし、まだ君は未熟だ。戦闘面でも圧倒的に弱いし、術も何も扱えていない。このままのコルセイ君では私が教えるに値しない人物となってしまう。


 という事でダンジョンをクリアして下さい。ここはまだ人族に発見されていない迷宮で助けには誰も来ません。五十日経っても出てこないようだったら。君は死んだと仲間には伝えとくよ。じゃあ!


 ※※※


「じゃあ! じゃねーよ!」


 コルセイは便箋を思いっきり地面に叩きつける。


(一瞬でも信用した俺が馬鹿だった)


 コルセイはとぼとぼと道具袋の近くまで歩くと道具箱の中を確認し始めた。


 〜〜〜


 ナスウェル宿屋


「えーーっ! コルセイついていっちゃったんですか? しかもあの男について行くなんて不安しかないじゃないですか……」


 宿にアヤカの声が響き渡る。珍しく動揺しているようだ。


「アヤカ。その男の事知ってるの?」


「ランドルフさん、オリビアすみません。お話ししようとしてたんですが、事後報告になってしまいました」


 アヤカは落ちつかないのかウロウロと歩きながら経緯を説明し始める。


「ブリザーブドドラゴンを倒した翌日に登山の準備をしていたのですが、突然、街中で声をかけられました。相手は長身の女性で全身ローブ姿《怪しいものでは無い》と言っていましたが怪しさしか感じさせない方でした」


 オリビアが一瞬、不快な顔をしたのは気のせいだろうか? アヤカは少し気になったもののそのまま話を続ける。


「そんな方ではありましたが、正直このタイミングで私にピンポイントで話をしてくるのは気になります。人気の無いと所を避け、人通りの多い広場で話を聞くことにしました。ローブの女は広場に着くと《貴方達を応援したい、オリビア、コルセイと懇意にしているもだ》と伝えてきました。何故直接本人に言わないのか? 等と突っ込みどころは満載でしたがそのまま話を聞く事にしました」


「懇意? 言葉の意味を分かっているのか?」


 オリビアはあらぬ方向を向き暴言を吐いている。アヤカは自分に向けられている害意では無いと考えつつ、少しだけ話すのを躊躇う。


「十分ほど話したでしょうか? 気を張っていたにも関わらず不覚にも私のすぐ横にその男はいました」


「意識しているアヤカに気づかれる事なく近付くとは、その男中々やるじゃ無い」


 ランドルフが頬に手を当て感心する。


「はい。敵でなくて安心しました。その男はミドガーと名乗り、手には一枚の手紙。何も騙らずに《コルセイ君を宜しくお願いします》と一言だけ。手紙に気を取られていると二人の姿は見えなくなっていました。手紙の内容はテドロスが隠した物と思われる大きな袋のありかでした。マフィアは金と言っていましたがあれは魔芥子を精製したものではないかと思います」


「大きな袋に精製した魔芥子……末端価格はいくらになるのかしら? それなら即金で金貨千枚追加してくれるのも頷けわね」


「はい。ナースミルは大層機嫌が良くなっていました。そのあとすぐに皆さんに伝えようとしたのですが、コルセイが起き、あの宴会でしたので言いそびれてしまいました」


 三人は各々考えに耽っていたが、しばらくするとランドルフが手を叩く。


「まあ、コルセイちゃんなら大丈夫でしょ! 私たちは私たちのできる事をしましょう!」


 部屋に二人を残しランドルフは宿の扉を後にする。アヤカも荷物をまとめ外に出ようとするがその背中をオリビアが呼び止める。


「アヤカ……少し話せる?」


「……うん」


 コルセイパーティ、女二人の話が始まった。


 〜〜〜


 荷物の中身を一通り確認終わるコルセイ。普段持ち歩いている荷物の中身と変わりはないようだ。この荷物でダンジョンを出てこいという事なのだろう。そういえば箱の中身とこの布の下は何だろうか? まずはこの布から外してみる。大きな布をスルリと外してみると布の下には先日のブリザーブドドラゴン。


「おおっ! 久しぶり。元気そうだね!」


「…………」


 もちろん返事はない。しかしコルセイはすこぶる満足そうである。ドラゴンのあちらこちらを触り傷んでいるところがないか、欠損がないか念入りに探す。どうやら大きな問題は無さそうだ。


「という事は」


 コルセイは次々に箱を開ける。大きな箱にはリュケス、その一つ小さな箱には二股狼が入っていた。


「あれ、もう一箱ある」


 二股狼より一回り小さな箱。箱の中身が想像できない。ここにきてトラップという事は流石にないだろう。意を決して箱の中身を開ける。


「お、お前は!!」


 箱の中身を見てコルセイは思わず叫ばずにはいられなかった。


 

 ここまでご覧になって頂きありがとうございます。これにて三章が終了となります。次回より四章となりますが引き続きご覧になって頂ければ幸いです。

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