第三章 第34話 高級レストランオウンズモール
高級レストラン オウンズモール
いつもの殺風景で殺気溢れる部屋に通されると思いきや、ナースミルはコルセイ一行を連れ、ナスウェルで一番の高級レストランオウンズモールに招待してくれた。
オリビアやアヤカは突然の招待に服装や身だしなみが用意できない、ドレスコードがあーだ、こーだとこだわっていたが《問題無い》というナースミルの圧力に負け、二人は渋々いつもの装いでオウンズモールへと向かうことになった。
「こ、ここですか? やはり服買いに行っていいですか? この服では恥をかきます」
ドレスコードを頑なに心配するアヤカとオリビア。マドリアスと戻る戻らないと押し問答をしている。確かにこの建物に平服で入るのは気がひける。淡い紅色石を使った建物など、ナスウェルはもちろん故郷のヒエルナでも見たことがない。広々とした敷地に計算し尽くされた庭園は紅色石の淡い赤色と交わり幻想的な雰囲気を醸し出している。
「問題無いと言ってるんだし、まあいいんじゃ無いかな? とりあえず入ってみようよ」
ランドルフに肩を貸して貰いながら扉を開けようとするが、コルセイが触れる事なく扉は内側から勝手に開く。
ドアの内側の二人の執事は笑顔で出迎えてくれる。奥を見れば開放的な空間に白で統一された調度品の数々。そして室内には働く者以外誰一人いない空間が広がっていた。
「貸切だ。楽しんで言ってくれ」
……一体いくらかかっているのだろうか? 確かに貸切であれば服装を気にする必要はない。オリビアとアヤカは豪勢な雰囲気に多少気圧されしているが、ハドリスとランドルフは見慣れているのだろう。いつもの様子と変わりない。一同は王宮にでもあろう長テーブルに案内されるとナースミルも同席する。
「コルセイ調子はどうだ? 戻れて良かったな」
「そうですね。俺は約束は守ります」
「ああ、こちらも約束の品を用意してある。いや、もう千枚か。帰りに部下から渡させよう」
オリビアが報告してくれた通り……もう千枚?聞き間違えたであろうか?
「しかしコルセイ。本当に旅は続けるのか? 脚がなくなってはまともに歩く事もできないだろう?」
自分の考えに集中していて質問するタイミングを逃す。冗談のつもりだろうか? あまり笑う事はできない。先程まで笑顔だったアヤカは険しい顔をしている。
「あれぇ。ナースミルさんには脚がないように見えるんですか?」
「何?」
お祝いのムードから一転、剣呑な雰囲気となる。
コルセイは椅子を少し引くと道具袋からもう片方の靴を出す。そしてかつてあった足の部分に靴を置くと小さく何かを唱える。
コルセイの左脚は確かになかったはずだ。しかし、革のパンツの左脚の部分には何やら一本筋が通り、コルセイは両足でゆっくりと椅子を立ち上がる。
「なっ」
これにはナースミルを始め、何も知らされていない仲間も驚きを隠せない。コルセイはぎこちなく二歩三歩と歩くとゆっくりと椅子に座った。
「まだぎこちないですけど。歩く分には問題ありませんよ」
「なっ。どういうーー」
「秘密です」
数々の修羅場を潜ってきたナースミルも流石に驚いたようである。しかし今日のナースミルはご機嫌である。《一本取られたな》と話すとその後は和やかに食事が始まった。
一同はコルセイが復帰した安心感とブリザーブドドラゴンを倒した解放感からか、食事会は大いに盛り上がる。そんな中ハドリスが立ち上がると四人の前に向かってくる。
「どうしたのハドリスちゃん?」
「今回のブリザーブドドラゴンとの戦いありがとうございました。デーク、バク、ウーランの敵も取れました。私だけでは、とてもではありませんがあのドラゴンとは戦えませんでした」
「ハドリスさん……」
ハドリスにとって今回の戦いは犠牲も大きかった。結果的にブリザーブドドラゴンを退治できたのは唯一の救いであろう。
「コルセイさんも目を覚ました。私は仲間を国に戻してあげたい、そろそろ騎士団に戻ろうと思います」
短い期間とはいえ死線を超えてきた仲間である。コルセイ達一同も寂しげな表情を浮かべる。
「ランドルフさん!」
「はい!」
ハドリスの突然の大声に思わずランドルフも声を上げてしまう。
「僕はランドルフさんに相応しい人物ではありません。考えも、身体も、戦いもまだまだ未熟です。僕は必ずランドルフさんに相応しい人物になります。その時は」
アヤカとオリビアがウキウキしているように見えるのは気のせいだろうか。
「その時は貴方を僕の伴侶として迎えに来ます!」
一瞬の沈黙後に、ランドルフは笑顔で応える。ハドリスもそれで了承したようだ。あの笑顔にはどういう意味があるのだろうか? とりあえずハドリスは満足しているようである。二人を目の前にしてコルセイの傍からは「キャー」と黄色い声も聞こえる。
「おい、おまえ。ちょっと言いたいこと事がある。顔を貸せ!」
突如乱入してきたのは顔を真っ赤に染めたマドリアスである。コルセイの首に腕をかけると酒臭い息を吐きかけてくる。いつぞやの恨言かそれともコルセイが気に入ら無いのか。コルセイはめんどくさそうにランドルフの影に隠れる。そんなマドリアスの胸ぐらをオリビアが掴み鉄拳制裁を下す。
その夜、皆は飲み潰れるまで酒を飲み、夜がふけるまで宴会は続いた。




