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第三章 第31話 スレイプニルナイト

 

 ドラゴン本体内側を撃ち破り甲冑部が現れる。乾いた薄い粘膜に覆われ、一枚皮を挟んですぐ裏には淀みなく体液が巡っている。


 今までドラゴン部分と一体化していた上半身に下半身が新たに作られており、八本の足を獲得している。一体化していたドラゴンは僅かに動くばかりである。間も無く命が尽きるのだろう。ドラゴンから産まれ直した八本足の騎士。スレイプニルナイトとでも呼んだらいいだろうか。


「私を前に出してちょうだい、コルセイちゃんリュケスを私のサポートにお願い」


 相手の強さを感じ取りランドルフが前に出る。ハドリスは咄嗟に何かを言おうとしたが新たな敵の異様さを感じ取ったのかそれ以上は言う事なく押し黙る。


(……進化したの?)


 ランドルフが剣を構える。腰を落とし、足を踏み出そうとした瞬間、ランドルフの剣速を超える突きがスレイプニルナイトより繰り出される。ランドルフは何とか剣で躱すがそのまま伸び続けた槍は後方のハドリスの腹部に突き刺さる。


「なっ!」


 衝撃をもろに受け地面を転がるハドリス。オリビアがすぐに駆けつけ回復をかけているが口元より吐血している。


「リュケス!!」


 リュケスが脚を大きく踏み込むと【骸の道(デスロード)】がスレイプニルナイトに走り足元を拘束する。一瞬の隙にランドルフが右肩から左下半身にかけて袈裟斬りにするが、僅かに傷が付いた程度である。


 スレイプニルナイトは足元の骸を踏み砕くとそのままリュケスに突進する。リュケスも負けじと迫りくるスレイプニルナイトに一撃を加えるがやはり浅い傷をつけるだけであり、スレイプニルナイトは勢いを落とす事なくそのままリュケスに体当たりをぶちかます。


「!?」


 リュケスは一瞬でバラバラになりその破片がそこら中に散らばる。


「リュケス!」


 コルセイは弾倉を再び装着するとスレイプニルナイトに向かい発射するが、硬い外殻に阻まれ矢は刺さる事なく地面に転がる。


 ビュオッ!


 風切り音に合わせコルセイに槍が繰り出される。コルセイが勘を頼りに槍を躱す事に成功する。すかさずにスレイプニルナイトに巨大な質量が放たれる。再び発射されたの大型弩砲(バリスタ)がスレイプニルナイトを捉える。


 ギャギャギャギャギャッ


 金属と金属が擦り合うような激しい音を響かせる。真正面から矢を受け止めたスレイプニルナイトは両手で掴んだ矢を投げ捨てる。腹部から出血が見られるものの致命傷は与えられなかったようだ。


「おおおおぉぉぉ!」


 脚を大きく踏み込みランドルフが追い討ちをかける、スレイプニルナイトは両腕クロスして受け止めるが全力の一撃はスレイプニルナイトをその場に留める事に成功する。


「もう一発行きます!」


 アヤカの声がして間も無く、凄まじい質量を持った矢がスレイプニルナイトを襲う。ゴツッッ! と重い鈍いを響かせスレイプニルナイトに直撃する。


「や、やったか」


 体を起こしたコルセイが声を上げる。胴体に矢が貫通し、身体からは夥しい量の体液が漏れ出す。しかし、スレイプニルナイトの動きは止められない。苦しんだ仕草を見せるがまだ戦闘能力は失われていないようだ。


「行くわ!!」


 チャンスとばかりにランドルフがトドメをさしに向かう。しかし、項垂れていた頭頂部を素早く上げるとスレイプニルナイトは渾身のブレスを吐き出す。ランドルフの動きは止まり、やがて風圧に耐えられなくなったランドルフは後方に倒れる。


 ビュオッ!


 再び大型弩砲(バリスタ)により大型の矢が発射される。しかし、誰も牽制をしていない状態で矢を躱すのは容易く、スレイプニルナイトは八本の脚を巧みに使い大型弩砲(バリスタ)の矢を難なく躱した。


「うっ。外した」


 スレイプニルナイトが静かにアヤカに向きを変える。しっかりとターゲットを確認したスレイプニルナイトは勢い良く駆け出すと数瞬でアヤカの射程以内に入り、右腕より凄まじい突きをアヤカに繰り出す。


「アヤカ!」


 ランドルフが声を上げる。しかし、唯一槍を受け止められるランドルフはそこにいない。アヤカに槍が迫る。槍の狙いは正確であり、あと一度瞬きをする間にアヤカの頭部は爆散するであろう。


 ドッッッ!


死を覚悟したはずのアヤカ。自分に何が起きたか分からない。アヤカの目の前には見慣れた血色の悪い顔がある。


「だ、大丈夫?」


 アヤカがゆっくりと顔を確認する。どうやらコルセイが槍の軌道からアヤカを救い出してくれたようだ。


「あ、ありがとうございます。コルセイはだ!?」


 無事を喜んだのも束の間、アヤカがコルセイの下半身に目を移すとそこには真っ直ぐに伸び、在るべきはずの左脚がない。


「よ、避けきれ無かった。でも、アヤカが無事でよかった」


「あああぁぁ。こ、コルセイ」


 事態を飲み込めず狼狽するアヤカ。脚からは凄まじい量の出血。コルセイは見る見るうちに血の気がなくなってゆく。


「オ、オリビアーーー! 早く! コルセイが!」


 静まり返った戦場にはアヤカの声だけが大きく響き渡った。


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