第三章 第22話 夜の街道
ナスウェル宿
「そちらの状況は把握しました。私の件はまだ話せるような段階ではありません。後日、話が進み次第お話しします」
アヤカとランドルフを交えブリーザブドドラゴンと消えた死体についてどうするか話し合う。
「ブリーザブドドラゴンの決着は消えた死体が解決次第取り掛かる。消えた死体については今夜現地に向かってみる。人選は俺、オリビア、ランドルフさんでいいかな?」
「それが良いわね。コルセイちゃん、消えた死体をクリアすればもしかしたらマフィアも監視付きで四人の行動を許してくれるかもしれない。あ、そういえばマドリアスちゃんがさっきだいぶ怒っていたわ。ちゃんと後で謝っといてね」
「はい」
(あ、あれは事故だったんだけどな)
「ところでコルセイちゃん。あの子はどうするの?」
そこにはベッドで小さく寝息を立てている剣士。先程まで泣いていたがやっと眠ったようだ。
「どうこうするつもりはありません。あのままだと死んでしまうので何となく助けてしまいました」
「人を助けるのは悪くない。ただ、状況は弁えて行動して自分の命を軽く扱わないで欲しい」
オリビアに釘を刺さされ、コルセイはバツが悪くなる。
「とりあえず今夜は私がここに残ります。この子が起きたら私が話を聞いておきましょう」
※※※
ナスウェルを出て街道を歩く。夜の街道は魔物や野盗が出るため三人以外の人通りはない。今宵は月も出ておらずランプだけの灯りが頼りだ。人間の目で感じ取れる能力はたかが知れておりできれば夜に出歩くのは避けたい。
しかし、今日は危険は承知で向かわなくてはならない。そんな中オリビアがとある疑問をぶつけてくる。
「コルセイ。スケさんを使役しているとき視界はどうなってる?」
「視界? ベースは俺みたいだから視界は良くないよ。暗闇の中ではランプの灯り以上はわからないかな」
「そう。それじゃあランプの灯は絶やさないようにしないと」
オリビアがランプを持つ手に力を入れる。
「そうだね。でも、今回はアヤカから秘密兵器を貰ったからね。戦闘になったら役に立つと思うよ」
街からもだいぶ歩いた。そろそろ以前戦闘のあった場所まで戻るはずだ。
「コルセイちゃん着いたわ」
すでに戦闘の合った形跡はもう無くなっている。ランドルフとオリビアが予め確認してなければ、今の場所も把握出来なかったであろう。ランドルフは街道脇の舗装してない部分に目を移す。
「あら? こんな跡あったかしら?」
街道脇の地面に何やら引きずったような跡を見つける。ランドルフは警戒を解くことなく何かが引きづられて跡を追い、そのすぐ後方にオリビアとコルセイが着く。
「どうやらここまでのようね。何も……ないかしら?」
街道から十メール程。周りには草が生えている程度でその他に何もない。
ボッ!
ランドルフの足元にニ本の腕が生える。腕はそのままランドルフの足を掴む。瞬く間に足を掴む手は増え、全部で八本の腕がランドルフの両足を拘束した。
「やだっ、何これ。気持ち悪い」
ランドルフが足を振り回し、オリビアとコルセイが武器で足元の腕を潰す。やっと解放されたランドルフの背中にはすでに盗賊の男と思われる者が張りいた。
「えっ? どういうこと。き、気持ち悪いわ」
男は武器で攻撃する訳ではなくランドルフの背中にガッチリとしがみついている。
「い、痛!」
ランドルフが声を上げるのと同時にオリビアが背中に張り付いている男を戦鎚で殴り飛ばす。男の首が吹き飛び、噴水のように血飛沫をあげる。
「えっ?」
首が吹き飛び、血飛沫が上げ続けてるにも関わらず男はまだその体をランドルフから離そうとしない。
「しつこい!」
ランドルフの低い声と共に男の腕は力任せに引っ張り上げられる。宙に浮いた男はそのまま地面に叩きつけられると熟れた果物が潰れるような音を立て弾け飛んだ。
「痛っ! コルセイちゃん見てくれる?」
背中には熊を仕留めるような大型のベアートラップがランドルフの背中にめり込んでいる。
「ベアートラップ?」
オリビアがランドルフの傷を治しに駆け寄ろうとすると目の前に火の粉が現れる。呆気に取られているとその火の粉は一瞬で炎の壁を作り上げる。
「こ、これは【炎の壁】?」
「オリビア!?」
幸いオリビアに直撃はしなかったようだ。しかし、【炎の壁】はまだメラメラと燃えている。
「こ、これは昼間の」
「コルセイちゃん気をつけて。弓兵もいるわ!」
敵はこちらに連携をさせないようにしているようだ。ランドルフを矢が襲い、合流させないように牽制している。
「こいつらは俺たちが見た……」
盗賊、魔術師、弓兵。ここ数日で戦って死んで行った者たちだ。コルセイは滲み出る脂汗を拭う。どういう事だ。何が起こっているのだろうか?




