第三章 第19話 緑竜騎士団vsブリーザブドドラゴン
ブリーザブドドラゴンのブレスを【炎の壁】で受ける魔導士。その傍らでは隙を見つけ矢を射る弓兵に、軽やかステップでブリーザブドドラゴンの首を切りつける剣士。剣士と弓兵に補助呪文をかけ続けているのは神官であろうか? バランスのとれてパーティであり、魔法使いをパーティーに二名も入れる豪華なパーティーでもある。
「お、戦っている! 魔法使いが二人。剣士と弓兵も強そうだ」
「当たり前ですよ。騎士団様ですからね」
「えっ! 騎士団」
四人はロザリア王国騎士団、緑龍騎士団紐付きの冒険者であり、正規のギルドの依頼でブリーザブドドラゴンを討伐に来たようである。
四人はドラゴンのブレスをコンビネーションで受け流しつつ、物理攻撃で倒すつもりのようだ。メンバーのコンビネーションは完璧で少しづつではあるがブリーザブドドラゴンを押しているように見える。
「あっ」
何がきっかけかは分からないが剣士に乱れが起きる。剣士はブリーザブドドラゴンの一撃を貰い、一時的に戦線を離脱。しかし、あの攻撃では致命傷にはならない。剣士が戦線に戻り事なきをえるかに見えた。
※※※
緑竜騎士団に使えて早三年。職務にも慣れ一人前に仕事をこなせるようになった。そんな時に討伐任務の白羽の矢が当たった。任務の内容は《名のある魔物を討伐し緑竜騎士団の名声を上げる》である。緑竜騎士団の名声を上げれば必然的に第一王子のシーエンス様の名声を上げる事につながるからだ。
命令のきっかけは恐らくこのようなものだろう。第二王子のサリウスに新たな騎士団が仕える。それをきっかけに王子による次期王への選抜が始まったのだ。この任務は王へのアピールのためであり、第一王子シーエンスのためでもあるのだ。緑竜騎士団が他の騎士団を出し抜くための第一歩を僕が任されたわけだ。
騎士団も本気だ。集まった四人の騎士も実力、人格共に申し分ない。魔術師二人に、優秀な弓兵一人に剣士の僕。フォーマンセルで理想とされる組み合わせ。逆に考えれば失敗してはならないとも考えられる。
ブリザーブドドラゴンの生態は熟知されているが、雪山という戦闘環境と群れをなすという習性から戦を仕掛けるのは難易度が高いとされてきた。
しかし、はぐれドラゴンが単独で、こちらは理想のフォーマンセル、負ける要素はない。
「デーク、バク、ウーラン宜しく頼む。貴方達のような優秀な人物と共に戦えて嬉しく思う」
メンバーも温かく迎えてくれる。皆、緑竜騎士団に貢献したいと考えているようだ。挨拶を終え、教会裏の山道を登る。ブリザーブドドラゴンが出るためか人通りが極端に少ない。索敵の為、先行している弓兵デークより報告がくる。
「隊長! ブリザーブドドラゴンを発見しました!」
順調だ。デークの索敵能力が優れている為、ブリーザブドドラゴンに対し先手を取る事に成功した。ここまで失敗はない。
「私が前に出る。サポートを頼む!」
ブリーザブドドラゴンに走り込む身体が軽くなる。後方の神官バクより補助の呪文がかけられたようだ。
デークの弓に気を取られているブリーザブドドラゴンの首筋に一太刀、反撃を躱し、去り際に一太刀。大したダメージは入っていないが手応えは感じる。体勢を整えたドラゴンがブレスを吐き出すが、これも後方の魔導士ウーランが放つ【炎の壁】に阻まれドラゴンはこちらに攻撃を当てられない。
(良し!)
また一太刀首筋に斬撃を与える。戦闘は長引くかもしれないが、焦らなければ勝てる戦いだ。弓兵デークが良いタイミングで牽制しているお陰でそちらに注意が逸れドラゴンの動きも正確性を欠いている。そしてまた一撃首元に元に入ろうとした時に視界に不吉な者を捉える。
(あいつは……死神か?)
不吉の象徴とも言える男が目に入る。
(あいつもブリーザブドドラゴンの討伐に来たのか? それにしてもあの)
一瞬の考え事で目の前にドラゴンの野太い尾が迫っていた。
「しまっーー」
注意が逸れた一瞬でドラゴンの尾が直撃する。致命傷にはならかったものの、衝撃で後方の花畑へと吹き飛ばされ戦線を一時的に離脱する。
「早く戻らなくては!」
魔術師ウーランが【炎の槍】で前線を維持しようとする。しかし私が戻らななくては前線が持たない。体を起こし再びブリーザブドドラゴンに走り込む。幸い【炎の槍】にドラゴンに怯んでおり、ドラゴンの巨体が残りのメンバーを蹂躙せず済んだ……ように見えた。
「ゴフッ。た、たい」
弓兵デークの体が宙に浮いている。体の真ん中には人間の胴程の槍が貫通している。弓兵デークは驚きの表情を浮かべ、なにかを伝えようとするが大量の吐血と共に絶命する。
「な、槍……だと?」
ブリーザブドドラゴンの胴体部分には上半身のみの甲冑が生えており、その片腕には極太のロングランスが握られている。槍は弓兵より抜き取られると、剣士に向け鋭い突きが繰り出された。




