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第一章 第10話 お呼ばれ


 ヒエルナ中央広場時計台前


「ランドルフさんこっちです!」


 非番に男二人でどこに向かうかといえば、我らが隊長のご自宅にお招きされているのである。


 中央広場から城に向かう途中に貴族向けの閑静な住宅街があり、その中でも一際大きい邸宅がカルディナ・ディ・ヒエルナ邸である。城に近付くにつれ、坂を登る街並みになっており、日差しが強いせいかやや汗ばんでくる。


「そういえばランドルフさんこの服おかしくないですかね? 俺、ちゃんとした服持ってないからオルタナに見繕って貰ったんです」


 ハンカチで汗を拭いつつ、ランドルフに着こなしの意見を求める。落ち着いた色のジャケットに、テーパードパンツで上品な雰囲気を演出してる。しかし着慣れない服のせいか動きは少しぎこちない。


「似合ってる! レディのご自宅に向かうのに良い心掛けよ。ただ自信を持って歩きなさい。いい男が台無しよ」


 ランドルフは黒に薄手のストライプが入った上下揃いのスーツ。肩幅が広い肉体はスーツが良く似合っている。


「ありがとうございます。ランドルフさんもお似合いです」


「うふっ。ありがとう。でも本当はラブリーな服が着たいんだけどね!」


「あ、それは遠慮しときます」


 カルディナ邸の門に着く。天使と獅子の石像に見下ろされる形となっており、その先には延々とポプラ並木が続き、その先に建物は見えない。進んでみると道がわずかに孤を描いて作られているようであり、外から敵に攻められた時を想定して作られているようだ。


 進んでいる途中に不安になり、後ろを振り向いてみるが、ライオンと天使像はもう見えない。やがて開けた場所に出ると、今度はしっかりと手入れのされたバラのアーチが延々と続く。コルセイは次元の違う金持ちの庭園に思わず口を開け、呆けてしまう。少しの間を置き背後よりランドルフに声をかけられる。


「コルセイ今日の服、本当に素敵だわ。でも残念……」


「どういぅ。えっ! えぇぇぇ! うご。うううぅ」


 ランドルフが素早い動きで、ずた袋をコルセイの顔に被せる。驚きで体が固まっているのもあるが、腕と脚がしっかりと拘束されていて身動きをとることができない。やがて猛烈な眠気が襲ってくるとコルセイは抵抗することなくその場に崩れ落ちる。


「服汚れなければいいけど」


 ※※※


 ???


「うぅん。この感覚は……。気を失ってたのか?」


 蝋燭の灯りにかび臭い部屋。石畳の部屋はかなり広いようで、部屋の端まで光が届かず、壁際はぼんやりと暗い。よく見ると部屋の隅に血の染みのような黒ずみが見えるが、コルセイは見なかった事にする。


「期待を裏切って悪かったわね」


 声は超絶可愛いが、悪いと思っていないのが丸わかりである。コルセイの正面には椅子に座るカルディナ。椅子に深く座り、足を組んでいる。この部屋の雰囲気も相まって実はマフィアのボスですと言われてもおかしくない貫禄である。そして、その横には申し訳なさそうにランドルフが立っている。


「ごめんね。コルセイちゃん」


 ランドルフの表情からまたカルディナに振り回されている背景が分かる。


「隊長これはどういう事ですか?」


「壁に耳あり、障子に目ありってね。これからの事見られたりすると面倒だからね」


「はっ?」


 俺はパーティに来たつもりだ……どうしてこうなったんだろうか?


「アヤカ来てくれる」


 暗闇から足音も立てずにそのアヤカと呼ばれた人物が現れる。黒い司祭服にマスク、全体的に黒を基調としたフォルム。口元がギリギリ見えるので女とわかる。しかし顔を隠しているあの異様な鳥頭の仮面はとても表の世界で生きている人間とは思えない。


「こんにちは」


「こ、こんにちは」


「カルディナ様、本当にこちらの方で宜しいのですか? 魔力等の特別な力は特に感じませんが」


「神殿騎士団に入る際も特にこれといった特徴はなかったわ。でも何かある。先日の事件の時に何があったか調べて欲しいの」


「承知しました」


 アヤカと言われる女性はコルセイのことなど構うことなく背後に立つと、首筋に両手を置く。ひんやりした女性の手は少し心地よい。


「カ、カルディナ様、こ、この方」


「何かわかった!?」


「私に劣情を抱いてますわ」

「最低」

「ダメよ。コルセイちゃん」


 一斉に冷たい視線が向けられる。


「いやいやいや、拉致したのそっちじゃないですか。なんか俺が悪いみたいになってません? ただ、手が冷んやりしていて気持ちいいなって思っただけですよ」


 カルディナは露骨に嫌な顔を、ランドルフは眉根をさげ口元を抑えている。


「ところでここは何処なんですか? そしてこの後ろの方誰です?」


「後ろの子は私の知り合いのアヤカ。ここは私の家よ。地下だけど――」


 カルディナはさも当然だという具合に淡々と話す。


「嘘をついた事は謝るわ。でもここでの出来事はあまり大っぴらにはしたくないの。それに貴方もあの時なんで生きていられたか知りたいでしょ?」


「え、あれは隊長が助けてくれたんじゃ……」


「あっ」


 カルディナは失言に顔を歪ませる。が、一瞬で元の表情に戻る。


「あまりにも特異な状況だったから私が助けたと言っただけよ」


 一瞬にして事の経緯を理解する。やがて感情にスイッチが入ったコルセイは怒声をあげる。


「こ、このあまぁっっ!」


 俺のあの時の気持ちを返して欲しい。怒りに任せて椅子を立ち上がろうとするが力が入らない。


「お静かに。隊長に失礼な事を言わないで下さい」


「いやっ! 許せっ――」


「お静かにと言ったたはずです」


 首筋から下を氷の中につけられたような感覚。一瞬にして自分の首から下を制圧される。強制的に感情を抑えられ、怒る事もできない。


 色々言いたい事はあったが、暴れて隊長の怪力で殴られるわけにもいかない。コルセイは渋々この話を聞く事にした。


「さて、そもそもの話ではありますが、私達の身の回りには魔法といういうものがあります。しかし、一般的には神官職や冒険者の極一部が使えるだけで、ほとんどの人間は魔法を使えません」


「流石にそれくらいは俺も知ってますよ。でも、隊長やランドルフさんは明らかにおかしい力使ってますよね? あれは魔法じゃないんですか?」


「答えとしては正解であり不正解です」


 回りくどい言い方にイラっとする。


「結論を急ぐ男はモテませんよ」


「ぬっ。大きなお世話です」


「そもそも全ての人間は魔法を使える可能性を秘めています。そう魔力を持っているからです。ランドルフさんやカルディナ様は魔法という形では使えませんが、魔力を限定的に使う事ができます。それがあの通常ではありえない身体能力につながります」


「では、貴方はどうか? 魔法はもちろん使えません。かと言って身体能力は一般的な成人男子です。しかし、貴方の記憶を遡ると限定的ではありますが魔力が使われた痕跡が窺えます」


 自分の内情を知られたようで気分が悪い、このアヤカの能力も魔力を使ったのものなのだろうか?


「はい。詳しい事は申し上げられませんが」


「うっ」


「そうですね。早く終わらせましょう。私も見たくて見ているわけではありませんから」


 このイラつく気持ちさえ見透かされるのはなんとも言えない苦痛である。


「それではランドルフさんお願いします」


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