リュオくんは英雄になりたい
小説のような何かを書きます。
読んでもらえると嬉しいです。
尚、遅筆です。 あと、直ぐに何かと修正入れます、多分。
ーー僕は英雄になりたいんだ。
この一言が始まりだった。
「英雄? 勇者じゃなくて?」
「そう、英雄。 勇者じゃ魔王と戦うしか選択肢が無さそうだ。」
「どっちも同じな気もするけどねー。」
「救国の英雄、とは言っても 救国の勇者、とは言わないじゃんか。 勇者って言うのは 個の武勇で大いなる敵を破った時に与えられる称号だよ。魔王の暗殺を成し遂げるのが勇者の行いだと言うんなら僕は勇者になろうとは思わないよ。」
「そうね。そう言うのは貴方には似合わないわね。英雄もどうかしら とは思うけど。」
「酷いな」
そう言って。彼は笑った。
「仕方無いわねー。私が手伝ってあげる。貴方だけじゃ心配だわ。」
ーーーーーー
「ミレニお姉ちゃん おはよう!」
「はい、リュオくん おはようございます。」
人懐っこい感じの黒髪黒い瞳の少年と 腰までの銀髪を緩く一本のみつ編みに纏めたエルフの少女が挨拶を交わす。
「朝の牛の世話は終わったの?」
「うん! 見張りはモ"ーさんがしてくれてるよ!」
ーーここはリフェリル王国の都から西南へ駅馬車で20日の位置にある、王国領の最果ての村 ノギス。
そんな、人口100人にも満たない小さな村の 更に南の外れにある数件の集落には とても細やかな神殿がある。
一応は神殿らしく階が付いた高床になってはいるが、それでも広さは精々5m四方ほど。4m平方あるかどうかの祭殿があるのみで その周囲を濡縁のような廻廊が一周している。
これは昔からなのだが、ノギス村の子供は8歳になると この神殿で読み書きや簡単な計算などを習う様になる。とは言っても辺境の寒村のこと、子供も家族の重要な労働力であり ここに通うのは週のうち1日か2日ほどの場合が殆どだ。
この様な状態であるから、半年や1年の間通って 一応の読み書きと簡単な計算がある程度出来る様になると 段々と皆通わなくなる。
そんな理由で、今ここに通っているのは 主に牧畜で生計を立てる南集落の子供であるリュオの一人きり。
「リュオくん、今日は何のお勉強したいとか ある?」
「えーっとね…お話! 悪いオーガをやっつけるやつ!」
「じゃあ、九九の暗唱の後に とても小さな騎士様がオーガに拐われたお姫様を助ける話 というのをしようかな…。」
実際の所、リュオもすでに読み書きと計算は出来るので通う必要は無いのだが ミレニが語る様々な話を聴きたくて 10歳に成ろうかと言うのに未だ通っているのである。
中でも、リュオのお気に入りは様々な英雄譚。
「ーーーという訳で、騎士イッスンはお姫様と幸せに暮らしましたとさ。メデタシメデタシ。」
語り終えたミレニに リュオは目を輝かせてこう言った。
「お姉ちゃん、僕も騎士様や英雄様みたいになれるかな。」
「えーとね、それはー…。」
ミレニは内心で「うわ、とうとうはじまったかー」と嘆息しつつ瞑目する。
リュオのこの問掛けは今突然に始まった事では無く、手習い教室に通い始める前からのもの。 が、ここ2年ほどは治まっていたのだが、思い出したかのように再発した。
まあ、以前これが治まったのもミレニが「10歳になってまだ英雄に成りたいなら考えるから、それまでは家のお仕事をしっかり手伝って 手習いも頑張りなさい。」と言ったからであって、飽きたとか諦めたとかでは無かったのだから当然と言えば当然なのだが。
これは幼子特有の あの嫌がらせの様な執っこさを、2年もあれば自然に忘れるか 諦めるか、してくれる事を期待をして こういう往なし方で治めた そんなミレニを責めるのは流石に可哀そうかも知れない。
兎も角、忘れた頃にやって来た天災 −問題を先送りにしたツケとも言う− の到来に覚悟を決め、目を開き背筋を伸ばし 対面を取り繕うべく極上の笑顔で固め方策を練る。
もう直ぐ10歳になるリュオに もう以前と同じ手は使えないし、だがしかし 気軽に「成れるよ」などとも言えない。
やがて15歳になれば一人前の大人、それが一般の認識であり 労働の対価や背負う責任も大人扱いとなるのだ。
あと数年でその年齢に達する、しかも将来は跡を継ぐであろう農家の子供に対して 将来を左右しかねない迂闊な軽口は大いに問題がある。
「リュオくんはどんな職業を目指せるよ。これはリュオくんだけじゃない、誰でも同じ。でもねーー」
ミレニは何時に無く真剣な表情になった。
「ーー目指しても、必ずそうなれるとは限らない。本当に頑張って目標を目指して努力すれば、神様からその職業への祝福を授かるよ。でもね、その祝福に見合った数々の試練も用意されるの。 すっごく大変なの!」
英雄になる努力の大変さを前面に押し出して諦めさせようとしたのだが、それ程大した苦労などした事のない子供にそんな物言いが通じる訳がない。
「で、お姉ちゃん 英雄になる努力って何をしたらいいの?」
ーーー
「ふぅ…リュオくんもかあ。」
リュオの居なくなった神殿で溜め息を漏らしつつ独り言ちる。
変化の乏しい辺境の村の子供の楽しみなんて、それ程ある訳でも無い。
精々、家業の手伝いの合間に友達と遊ぶ、年に数度の祭り、手習いの合間にミレニが語ってくれる英雄譚や様々な伝承伝説、神話の類。
当然の帰結として英雄譚に魅せられる子は多いし数年に1人や2人はリュオの様に英雄になりたいと言い出すのだ。
そして、少ないながらこれまでも幾人もの子供がリュオの様に食い下がって英雄の祝福を受けるべくミレニの出す課題に挑戦していた。それも特段ミレニに懐いている子供ばかりが。
「リュオくん「お姉ちゃんと結婚しゅりゅー」って、ちっちゃい頃から懐いてくれてたんだけどなー…。」
しかし、過去 英雄の祝福に挑戦した子供達は ミレニ自らが施す修練のあまりのキツさに耐えられず、その内に音を上げ、何故かそのままミレニを避けるようになるという結果に行き着くのを繰り返していた。
強引な程の運命の後ろ盾でも無い限り、英雄などという存在は決して幸せになれない。人種の中で永きを生きるエルフは長寿故に英雄と言う存在の負の面をよく知っている。
だからこそ諦めさせる前提に扱いているのだ。今までの子供たちの挫折は当然の結果である。
「ハァ…嫌われないと良いんだけど…きっと嫌われちゃうよね…。」
その時 ピキーン! と、閃いた。閃いちゃったのである。
「そうだ! モ"ーさんに頼もう!」
こうして今まで鉄壁を誇った祝福への挑戦、その黄金の挫折パターンに思いもよらない形で綻びが生まれる事になった。
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初夏月‐4日
ミレニお姉ちゃんから、「今日から日記を書きなさい」と言われました。読み書きの勉強です。
ミレニお姉ちゃんから読み書き計算のお勉強を教えてもらうのは今日が最後になりました。
明日からは、神様に英雄さまの祝福を貰うための努力をするからです。あと、たまにテストをするそうなので 自分の家で勉強も続けないといけません。なので、とても忙しいです。
12歳の誕生日の次のお祭りの時に、神様から祝福されるように頑張らないといけません。
10歳の誕生日の次のお祭りで領都の聖堂に行ってお目見えの儀式をします。
領都に行くのは初めてなのでとてもドキドキします。
神殿に住んでるミレニお姉ちゃんはエルフという種族です。
エルフは長生きだから物知りなのだと村長さんが言ってました。とても物知りなので大人の人たちがお願いして、昔から村の子に勉強を教えてもらってるそうです。
でも、そんなに大人には見えません。だって、来年大人になる近所のカヤちゃんの方が 背もおっぱいも大きいです。
前にそれをお姉ちゃんに言ったら「女性に対して胸の事を言うのは失礼だよ!」と言って、ほっぺたをギュウってひっぱられて痛かったです。
「じゃあ何歳なの?」と聞いたら「女性に年齢を聞くのはもっと駄目なの!」と言って、もっとギュウウってひっぱられました。
その時のミレニお姉ちゃんは、いつもみたいにニコニコしてたけど いつもと違ってなんだかとっても怖かったです。
お父さんにその事を言ったら「俺も子供の頃読み書きを習ったんだぞ。」と言いました。
ミレニお姉ちゃんは、本当はお姉ちゃんじゃなくてミレニお婆ちゃんかも知れないと思いました。でも怖いのでお姉ちゃんには言いません。
お姉ちゃんに言われた通り、明日からは家のお手伝いと体力づくりをしっかり頑張ろうと思います。
以前の作品の投稿してた頃に色々有りまして、創作活動復活が今になりました。
書きかけの作品もこっちがある程度進んだら再開の予定です。