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仲良し3人娘の怪談

入ったら出られないトンネル

作者: ウォーカー
掲載日:2020/07/20

 これは、温泉旅行にやってきた、仲良し3人組の女子生徒たちの話。


 「入ったら出られないトンネル?」

「そう。

 この旅館の近所にあるらしいんだけど、

 そのトンネルは、入ったら出てこられない。

 という噂なんだって。

 中に半魚人が住んでいて、入ってきた人をさらうらしいよ。

 今日、地元の子たちと話す機会があって、そこで聞いたの。」

「半魚人なんて、まさか~。」


 地方にある、こじんまりとした温泉旅館。

そこに、仲良し3人組の女子生徒たちが、旅行にやってきていた。

黒くて長い髪の女子生徒。

髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。

おかっぱ頭の女子生徒。

これが、その3人。

その3人は、学校の内でも外でも、いつも一緒。

怪談や噂話が大好きで、

今日も温泉旅行にやってきた先で、

地元に伝わる怪談を聞きつけたのだった。


 湯煙漂う、温泉の大浴場。

その3人は、そこで湯船に浸かりながら、

この辺りの地元に伝わる、怪談の話をしていた。

怪談とは、入ったら出られないトンネルの話。

その中では、半魚人が現れて人をさらうという。

さっき話をしていた通りの内容だった。

ツインテールの女子が、

湯船の中で足をバタバタさせながら、話を続ける。

「明日、そのトンネルを見に行ってみない?

 入ったら出られないトンネルなんて、あたし興味がある。」

長い髪の女子が、湯船に浸かって肩の凝りをほぐしながら応える。

「入ったら出られないトンネルはともかく、

 半魚人なんて、私はいないと思うわ。」

おかっぱ頭の女子が、もじもじと胸を隠しながら続く。

「わたしは、半魚人なんていない方がいいな。

 だって、本当にいたらこわいから。」

その3人は、そのままのんびりと温泉に浸かって、話を続けた。

入ったら出られないトンネルや、半魚人なんて、

本当に存在するとは思えない。

とは言うものの、怪談好きの血が騒ぐのは抑えられなかった。

「ずっと温泉に浸かるだけでは退屈なのも事実ね。

 いいわよ。

 明日、そのトンネルを見に行ってみましょう。」

長い髪の女子が、話を締めくくった。


 次の日。

その3人は、怪談の舞台である、

入ったら出られないトンネルの前までやってきた。

そのトンネルは、山を少し登った先、

人や車はあまり通らない場所にあった。

ツインテールの女子が、目の上に手の平を掲げて辺りを見渡す。

「やっと着いた。

 このトンネルが噂の、入ったら出られないトンネルのはず。」

「ずいぶんと古いトンネルみたいね。

 あちこちボロボロだわ。」

「でも、

 怪談の舞台が真新しいものだったら、

 それはそれで不自然じゃないかな。」

そのトンネルは、

高さが、大人2人分程度、

幅は、車2台がすれ違うのに苦労する程度、

そんな、小さなトンネルだった。

古びれていて、周りはボロボロ。

壁には蔦が這い回っていた。

「あそこ、何か書いてあるよ。」

その小さなトンネルに入る前に。

おかっぱ頭の女子が、何かを見つけたようだ。

トンネルの入口の脇まで行って、壁を撫でながら言った。

「何だろう、これ。

 このトンネルの案内板かな。」

その小さなトンネルの入口の脇には、案内板のようなものが設置されていた。

そこには、トンネルの名前や工法などが書かれているようだ。

しかし、汚れや痛みが激しく、トンネルの名前などは確認できなかった。

「このトンネルの名前は読み取れないけど、

 これ、入口って書いてあるのかしら。」

長い髪の女子が言う通り、

そこには確かに、

入口。

と書かれているのが読み取れた。

どうやら、こちら側がこのトンネルの入口のようだ。

その小さなトンネルの入口から、中を覗いてみる。

中は照明も無く真っ暗。

向こう側の出口から差し込む光だけが、その先に見えていた。

でも、トンネルの長さ自体は、大したことがなく、

数分も歩けば、向こう側から出てこられそうだ。

「中は真っ暗だよ。

 それでも、中に入って調べてみるの?」

真っ暗な内部を指差して、おかっぱ頭の女子が問いかける。

その問いに、

ツインテールの女子が、腰に手を当てて自信満々に頷く。

「もちろん。

 ここまで来たのに、黙って帰ったりしないよ。」

長い髪の女子がそれに続く。

「そうね。

 せっかくここまで来たのだから、

 トンネルの向こう側まで通り抜けてみましょうか。」

2人の応えを聞いて、

おかっぱ頭の女子は、眉毛を八の字にして言葉を返す。

「でも、噂では、

 入ったら出られないトンネルなんでしょう。

 それに、半魚人も出るって言うし。

 もしも噂が本当だったら、どうなるかわからないんだよ。

 中に入るのは、止めた方がいいんじゃないかな。」

そんな情けない声に、呆れ顔の2人が応える。

「そんな噂、本当なわけがないよ。

 ちょっと肝試しをするだけ。」

「そうね。

 肝試しにもならないと思うけど、

 噂の原因くらいは調べてみたいわ。」

長い髪の女子とツインテールの女子は、各々動機は違うが、

その小さなトンネルの中に入りたがっているのは同じだった。

長い髪の女子が、おかっぱ頭の女子を見据えて言う。

「一緒に来るのが怖かったら、

 あなたはここで待っていてもいいわよ。

 私たち2人で中に入って、調べ終わったらここに戻ってくるから。」

そう言い残して、

長い髪の女子とツインテールの女子は、

スタスタと軽い足取りで、その小さなトンネルの中に入っていってしまう。

おかっぱ頭の女子は、オロオロとそれを見ていたが、

数メートルも離れない内に、小走りに2人を追いかけ始めた。

「ま、待ってよ~。

 こんなところで1人で待ってるのは嫌だよ~。

 半魚人がどこから出てくるかわからないんだから。

 わたしも一緒に行く~。」

そうして、その3人は、

その小さなトンネルの中に足を踏み入れた。


 その3人は、その小さなトンネルの中に入った。

縦一列に並ぶようにして、ゆっくりと歩みを進めていく。

その小さなトンネルの中は真っ暗。

少し先にある、向こう側の出口。

そこから差し込む日光を道しるべにして、その3人は進んでいく。

先頭を歩いているツインテールの女子が、胸を踊らせて言う。

「気をつけて。

 その辺から急に、半魚人が出てくるかも。」

「気をつけるって、何を気をつければいいのよ。」

「半魚人が出てくるんだったら、

 足音・・・とか?」

その3人は、

暗闇から半魚人が出てくるのではないかと、

おっかなびっくり進んでいった。

しかし、

暗闇に目が慣れるかどうか、というくらいの時間が過ぎたところで、

向こう側の出口に、あっけなくたどり着いてしまった。

「・・・案外簡単に、向こう側にたどり着いちゃったね。」

「そうね。

 残念ながら、半魚人はいなかったし、

 簡単に通り抜けられちゃったわね。」

「通り抜けられちゃった。

 じゃなくて、

 わたしたち3人とも、無事で良かったんだよ。」

その3人は拍子抜けして、

背後にある、今通り抜けてきたばかりの、

その小さなトンネルの方に向き直った。

こちら側にも同じように、

ボロボロになった案内板のようなものが設置してあった。

ツインテールの女子が、案内板の汚れを手で拭って確かめる。

そこにもやはり、

トンネルの名前と工法などが書かれているようだが、

汚れや痛みで文字を読み取ることが出来ない。

しかしその中で、

入口。

という文字だけは、かろうじて読み取ることが出来た。

案内板を見ているツインテールの女子の横から、

長い髪の女子が、顔を覗かせて言う。

「さっき入ってきた入口にあったものと、

 書いてあることは同じみたいね。

 特に気になることは無いように思うわ。」

それに対して、ツインテールの女子は、

頭の上に電球を点灯させたような顔になった。

「・・・あ。」

「どうしたの?」

長い髪の女子が、怪訝そうに尋ねる。

ツインテールの女子が、にんまりと笑顔になって応えた。

「あたし、

 入ったら出られないトンネルの秘密、分かっちゃったかも。」

「何?どういうこと?」

おかっぱ頭の女子も、近くに寄ってきて案内板を覗き込んだ。

ツインテールの女子が、案内板を指差しながら説明を始めた。

「この案内板を見て。

 ここに、トンネル入口って書いてあるよね。」

「ええ、そうね。」

「じゃあ、さっきトンネルに入ってきた側、

 トンネルの向こう側にあった案内板には、

 なんて書いてあったか覚えてる?」

「・・・あっ。」

おかっぱ頭の女子が、小さく声を上げた。

ツインテールの女子は、頷いて話を続ける。

「そう。

 さっきトンネルに入った側の案内板にも、入口って書いてあったの。」

そこまで言われて、長い髪の女子にも話が分かったようだ。

「そうか。

 つまり、このトンネルは、

 両側が入口で、出口がないって事か。」

「そう。

 だから、入ったら出られないトンネル。」

「な~んだ、そういうことだったんだ。

 怖がって損しちゃった。」

入ったら出られないトンネルの謎が分かって、

その3人は、ほっと胸をなでおろした。

入ったら出られないトンネル。

それは、両側に入口と書かれたトンネルのことだったのだ。

だがすぐに、長い髪の女子が疑問を口にした。

「待って。

 入ったら出られないトンネルの噂の理由は分かったわ。

 けれど、それじゃあ、半魚人が出るって噂は?

 トンネルの両側の案内板に入口って書いてあるだけでは、

 半魚人が出るなんて話にはならないと思うわ。」

「それは、何かの見間違いとか。」

おかっぱ頭の女子が、考えながら応える。

しかし、長い髪の女子は納得しない。

「見間違いなら見間違いで、

 何か元になったものがあるはずよ。」

「あんた、中々頑固ね。」

ツインテールの女子が、半目になって茶々を入れた。

「私がこういう性格なのは、あなたもよく知ってるでしょう。

 疑問が残ってる限り、私は納得しないわ。」

「でも、じゃあどうするの。

 もう一回トンネルの中に入って、調べてみる?」

「真っ暗なトンネルの中に、闇雲に入っていっても、

 何かを見つけるのは難しいでしょうね。

 手がかりが欲しいわ。

 事情を知ってる人に、話を聞くことはできないかしら。」

ツインテールの女子が、髪の毛をくるくると触りながら応える。

「それだったら、

 この道を下った先に役場があるから、

 そこで話を聞いてみようよ。

 元々この噂話も、そこで遭った子に聞いたから。」

そうしてその3人は、

半魚人が出るという噂を調べるために、

役場に向かった。


 それから程なくして、その3人は小さな役場にたどり着いた。

出入り口のドアを開けて、中に入る。

役場の中は、訪れた人たちと役場の人たちで賑わっていた。

「小さな役場だけど、人は結構いるみたいね。

 怪談のことについて聞きたいなんて言ったら、ご迷惑かしら。」

「迷惑というより、追い返されるかも。」

「何か適当な理由を言って、聞いてみるよ。」

早速、その3人は、

受付であろう若い女に話しかけた。

「あの~、すみません。」

「はい、なんでしょう。」

受付の若い女は、にこやかに応じる。

ツインテールの女子が、さも自然な表情で話す。

「えっと、

 こちらの地方の風土や歴史について、聞きたいんですが。」

「あら、学生さん?

 学校の課題かしら。」

「はい、そうなんです。」

もちろん出任せだが、ツインテールの女子は努めて自然に振る舞う。

それに対して、受付の若い女は、嬉しそうに応対する。

「この地方に興味を持ってくれて、嬉しいわ。

 そういうことなら、郷土課で話をしてもらえるかしら。

 向こうの窓口で対応するから、その前で待っていてね。」

受付の若い女は、対応する人を呼びに行ってしまった。

その3人が、言われた窓口の前で待つこと数分。

眼鏡をかけた中年の男が、応対に現れた。


 「どうも、お待たせしました。」

応対に現れた眼鏡の男が、ずり下がった眼鏡を上げながら言った。

少し神経質そうだが、誠実そうな男だった。

「早速ですが、どのようなご用件でしょうか。

 こちらの風土や歴史について、興味がおありだとか。」

ここからは、交渉事に一番秀でているということで、

長い髪の女子が代表して話をすることになった。

「私たち、山の上のトンネルの噂を聞いて来ました。」

「・・・ほぅ、噂話ですか。

 風土や歴史と関係するのかは分かりませんが、話を伺いましょう。」

「はい。ありがとうございます。

 こちらの地元の子たちに聞いたんです。

 あのトンネルは、入ったら出られないトンネルなんだとか。

 それで私たち、調べました。

 そして、その噂の原因が分かったと思います。」

「入ったら出られないトンネルの噂の原因、ですか?」

「はい、そうです。」

長い髪の女子は、乾いた唇を湿らせて話を続ける。

「あのトンネルには、

 両側の口に、案内板のようなものが設置されています。

 そして、その両側の案内板には、

 入口。

 と、そのように書いてありました。

 そのことについては、ご存知でしたか?」

「いいえ。

 少なくとも私は、存じ上げません。

 この役場の他の者たちも、同様に知らないと思います。

 話題に上ったこともないですから。」

眼鏡の男の返事に、長い髪の女子は話を続ける。

「つまり、あのトンネルは、

 両側が入口で、出口が無いんです。

 だから、あのトンネルは、

 入ったら出られないトンネルになったんだと思います。」

「なるほど、よく観察していますね。」

眼鏡の男が、称賛の声をあげる。

褒められて悪い気はしない。

長い髪の女子は、ちょっと得意げになった。

しかし、その横で、

ツインテールの女子は、ちょっと口を尖らせている。

「あのトンネルの両側が入口だって気がついたのは、あたしなのに。」

小声でそんなことを呟いた。

それには誰も気が付かず、長い髪の女子は話を続ける。

「なぜ、あのトンネルは、両側が入口なんですか?」

「なるほど。

 それについてお答えする前に、

 まず、トンネルの入口出口は、どのように決まるかご存知ですか?」

眼鏡の男の問いに、その3人は首を横に振る。

手の指を組んで、眼鏡の男は説明を続けた。

「トンネルには通常、入口と出口が設定されています。

 起点側を入口、終点側を出口にするんです。

 起点というのは、

 大雑把に言えば、都会側ですかね。

 色々と条件がありますが、

 今回の場合は、それで良いでしょう。」

眼鏡の男は、

ずり下がった眼鏡を上げて、話を続ける。

「あのトンネルですが、

 実は、元々は別々の、2つのトンネルだったんです。

 入口は別々、出口は同じ、二股のトンネルでした。

 それが後に、

 その2つのトンネルの入口同士が、繋げられたのです。

 だから、あのトンネルは、両側が入口になりました。」

「では、

 トンネルの出口は別にあった、

 ということですか。」

「そうです。

 あのトンネルが通っている山の下に、

 かつては小さな村がありまして。

 2つのトンネルの出口は、

 その村の方に繋がっていたんです。

 ですが、その出口が使われなくなって、

 残った2つのトンネルの入口同士が繋がれて、

 今のトンネルになりました。」

「なるほど。

 それで、入口が2つで出口が1つのトンネルになったんですね。」

入ったら出られないトンネル。

その噂の理由は、両側が入口になっているから。

両側が入口になった理由は、

かつては別々のトンネルで、出口は別にあったものを繋いだから。

真相を聞いてみれば、怪談でもなんでもない話だった。

しかし、まだ疑問は残っている。

ツインテールの女子が、横からつい口を挟んでしまう。

「じゃあ、半魚人は?

 半魚人はどこから来たの。」

「半魚人?」

眼鏡の男が、怪訝そうな顔になってしまった。

両側が入口のトンネルはともかく、

半魚人の話など、役場でする話とも思えない。

しかし、せっかくここまで来たのだ。

長い髪の女子は、ちょっと言い辛そうに話を引き継いだ。

「あのトンネルには、もうひとつの噂があるんです。」

「それが半魚人、ですか?」

「はい。

 ちょっと突飛な話なのは分かっています。

 でも、あのトンネルには、

 半魚人が出るって噂があるんです。

 トンネルから出られないのは、

 その半魚人に、さらわれるからだって。」

眼鏡の男は、困惑の表情を浮かべている。

半魚人が出る、などと言われては、皆そう反応するだろう。

「それは、ちょっとわかりませんね。

 半魚人が出るなんて話、聞いたこともないです。

 子供はともかく、

 大人がそんな話をしているとは、聞いたことがない。」

「そうですか・・そうですよね。

 変なことを伺ってしまって、すみません。」

長い髪の女子が頭を下げた。

役場で話を聞いてみて。

入ったら出られないトンネルの理由は分かったが、

半魚人の噂については、その理由は分からずじまいだった。


 せっかく役場に来たが、半魚人の噂の原因は分からなかった。

分かったことは、

あの小さなトンネルは、かつて、

別々のふたつのトンネルで、出口は山の下の村に繋がっていた。

その出口が使われなくなって、入口同士が繋がれて今のトンネルになった。

ということだった。

入ったら出られないトンネルの理由は分かったが、

半魚人が出る噂については、手がかりがなくなってしまった。

「困ったわね、手がかりがなくなってしまったわ。」

「入ったら出られないトンネルの方は、謎が解けたんだし、

 これで解決ってことじゃだめかな。」

長い髪の女子とツインテールの女子が、腕を組んで唸っている。

その横から、おかっぱ頭の女子が、眼鏡の男に話しかけた。

「あの・・、

 トンネルの出口と、

 トンネルの出口に繋がっているっていう、

 その村は、今どうなっているんですか?」

その問いに対して、眼鏡の男は言いにくそうに応えた。

「トンネルの出口は、今もあると思います。

 使われていないので、閉じられているかもしれませんが。

 村の方ですが、今は誰も住んでいないと思います。

 古い話になりますので、

 私より、他の者の方が詳しいでしょう。

 私は、ここに来てそんなに長くないですから。」

「では、他の方からお話は伺えないですか。」

「急にはちょっと難しいかもしれませんね。

 今すぐ話を聞ける相手だと、誰かいるかな。」

眼鏡の男が、役場の窓口の内部を見渡す。

そして、丁度近くを通りがかった、

中高年の女を呼び止めて、話を聞く。

「山の下の村の話、ですか?

 私の口からはちょっと・・・。」

知っているのか知らないのか、不明瞭な応えしか返ってこない。

隣の窓口の中年の女にも話を聞く。

「ごめんなさい。

 あの村のことは、

 あまり思い出したくないんです。」

誰に聞いても、明確な応えは返ってこない。

逆に、眼鏡の男が、上司らしい人に呼ばれて、

何か小言のようなものを言われてしまった。

それから、眼鏡の男が、すまなそうな顔で戻ってきた。

「すみませんね。

 どうもみんな、話をしたがらないようで。

 山の下の村がかつてどうだったか、ちょっとわからないですね。

 書類によれば、

 今もトンネルの出口は、山の下の村に繋がっているはずですが。」

「いえ、急に伺ってしまって、すみませんでした。」

その3人は、眼鏡の男に頭を下げた。

村の話をあれこれしていたら、役場の中でずいぶんと目立ってしまったようだ。

役場の人たちの視線が刺さるのを感じる。

その3人は、居心地の悪さを感じて、

役場から早々に出ていったのだった。


 役場から逃げるように出てきて。

その3人は、役場の脇の駐車場で、輪になって相談を始めた。

「最初は詳しい話が聞けたのに、

 村の話をし始めたら、急に居心地が悪くなっちゃったわね。

 それとも、忙しかったのかしら。」

「というよりは、

 何か話したくない内容だったような感じだよ。」

「山の下の村で、何かあったのかな。」

その3人は、う~んと頭を捻っている。

あの小さなトンネルが、入ったら出られないトンネルになった理由、

それは分かったが、

半魚人が出るという噂については、分からずじまいだ。

「どうする?

 もう諦めて、旅館に戻る?」

ツインテールの女子が、2人に尋ねる。

しかし、その応えはもう決まっていたようだ。

「私は、途中で止めるのは嫌よ。」

「う、うん。

 こうなったら、乗りかかった舟だよ。」

「そうだね。

 じゃあ、出来る限りのことをしてみようか。

 そうと決まれば、手がかりはひとつしかない。

 もう一度、あのトンネルに行ってみよう。」

そうして、その3人は、

再び、あの小さなトンネルに向かった。


 その3人は、あの小さなトンネルまで戻ってくると、

その中に再び足を踏み入れた。

今度は、通り過ぎるだけではなく、ゆっくり中を調べていく。

「さっき通った時には、

 何も見つからなかったけれど・・・。」

「役場のおじさんの話の通りなら、

 このトンネルには、他に出口があるはずだよ。」

「他の出口なんて、

 そんなのあったかなぁ。」

その3人は、トンネルの壁に手をついて、

一歩一歩確かめながら進んでいく。

しばらくそうしていると、おかっぱ頭の女子の歩みが止まった。

「・・・あれ?

 ここの壁、触り心地が違う気がするよ。」

「どこの壁?」

長い髪の女子とツインテールの女子が近付いてくる。

ガサゴソと3人で壁を撫で回す。

そうしていると、壁の一部がガタッと外れてしまった。

「わわっ!

 何か壊しちゃったかな。」

「慌てないでいいわよ。

 どうも、そうじゃないみたい。」

「うん、壊れたんじゃないよ。

 ここの壁は、板が立てかけられてただけみたいだ。」

ツインテールの女子が、壁の板を持ってパカッと外した。

その壁には、ベニヤ板のような薄い板が立てかけられていて、

その裏からは、側道のような通路が現れた。

「こんなところに通路があったなんて。」

「トンネルの中は真っ暗だし、板で塞がれてたから、

 さっき通った時は見逃してたのね。」

「わぁ、この中も真っ暗だよ。」

おかっぱ頭の女子が、恐る恐る通路の中を覗く。

その側道は、小さなトンネルの本道よりも更に狭い。

横に逸れているから、入口からの光もあまり届かない。

「役場のおじさんが言っていた出口って、この先なのかな。」

「ここに入る前に、

 他の場所を、先に調べておきましょうか。」

側道は一先ず置いて、その3人は、その小さなトンネルの本道を調べた。

しかし、その側道以外に、おかしな場所は見当たらない。

その3人は、側道の前まで戻ってきた。

「やっぱり、出口はこの通路の先みたいね。」

「でも、中は真っ暗だよ。

 本当に、この中に入るの?」

「当然。

 ここまで来たんだから。」

ツインテールの女子は、臆すること無く、その側道に体を滑り込ませていく。

それを見ながら、長い髪の女子が頬に手を当てて話す。

「気が進まないのなら、

 あなたはここで待っていてもいいけれど・・・。

 とはいえ、こんな真っ暗なトンネルの中で、1人で待つのは嫌よね。」

トンネルに入る前と同じやり取りだった。

おかっぱ頭の女子が、長い髪の女子の腕に、ひしっとしがみつく。

「うん。

 こんなところで1人で待つなんて、余計に怖いよ。

 わたしも行く。」

「そうよね。

 じゃあ、一緒に行きましょう。」

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は、体を寄せ合うと、

暗くて狭い側道の中に入っていった。


 その小さなトンネルの側道は、ほとんど真っ暗で、

ぐねぐねと曲がりくねっていた。

曲がりくねった通路の先からは、ほんの少しの明かりと風を感じるが、

それも定かではない。

真っ暗で曲がりくねった通路を歩いていると、

自分が立っている場所も見失いそうになる。

先に立って歩いているツインテールの女子が、

振り返らずに後ろに向かって話しかける。

「先は見えないけど、この先に出口がありそう。

 前から風が吹いてきてるし、

 少しずつ明るくなってる気がするから。」

しかし、後に続く2人は、先よりも周りが気になる。

「足元、気をつけてね。」

「足元だけじゃなくて、左右もね。

 どうもこの通路、出口に向かうにしたがって、

 少しずつ狭くなってるみたいだから。」

長い髪の女子の言う通り、

その側道は、出口に向かうにしたがって、

徐々に狭くなる、下り道になっていた。

歩いているだけで、周りから岩壁が迫ってくるような圧迫感を感じる。

風が吹いているといっても微風程度で、なんだか息苦しい。

そうして、狭くなっていった側道が、

大人一人がなんとか通れる程度まで狭まった頃。

目の前に、薄暗い出口が見えてきた。

「あそこ!

 出口が見えたよ。」

そうして、その3人は、側道の出口にたどり着いた。

そこが、入ったら出られないトンネルの、出口だった。


 小さなトンネルの、側道の先。

入ったら出られないトンネルの出口に、たどり着いた。

そこは、三方を岩壁に囲まれた、海沿いの場所だった。

目の前には海岸、左右と後ろは、高い岩壁に囲まれている。

海岸には穏やかな波が打ち寄せ、やさしい波の音が耳に届く。

「うわぁ、きれいな場所ねぇ。」

目の前の海岸は、人に踏み荒らされていない、無垢な海岸だった。

その3人は、目の前に広がる光景をうっとりと眺めた。

そのまましばらくして。

「きれいだけど、何か忘れてないかな。」

「おっとっと、そうだった。」

本来の目的を思い出す。

ここには、景色を見に来たのではなかった。

ツインテールの女子は、トンネルの出口に向かって振り返った。

蔦が絡まっていてわかりにくかったが、

そこにも案内板のようなものが設置されていた。

汚れや痛みはあるが、そこには、

出口。

という言葉が読み取れた。

「出口、って書いてあるね。」

「ということは、

 ここがトンネルの出口で間違いないわけね。」

「わたしたち、やっとトンネルの出口を見つけられたんだ。」

その3人は、トンネルの出口を見つけた達成感を感じて、

お互いに顔を見合わせて笑顔になった。

それもつかの間、次の目標に向かって動き始める。

「さて次は、この辺りにあるっていう村を探しましょうか。」

「あっ、あれ、人じゃないかな。」

おかっぱ頭の女子が、海岸の方を指差した。

その3人がいる場所から、少し離れた場所。

そこには、日焼けした男が立っていた。

その男は、ボロ布のような粗末な衣服を身に着けていて、

手には釣り竿と立派な魚を持っているように見える。

その日焼けした男の方も、その3人に気がついたようで、

大きく手を振りながら声を上げた。

「あんれまぁ~!

 お前さんたち、上の人たちかぁ?

 外の人が来るのは、久しぶりだよ。」

その日焼けした男が、走り寄ってきた。

今しがた釣り上げたのか、やはり手には立派な魚を持っていた。

ツインテールの女子が、その魚を見て楽しそうに話しかける。

「わっ、すごい。

 それ、釣ったんですか?」

その日焼けした男は、鼻高々という感じで応える。

「そうだよ。

 うちの村は漁師の村だからなぁ。

 みんな釣りは得意だよ。

 釣った魚を、たまに上の町に売りに行ったりもするんだよ。

 それよりも、お前さんたち、

 どうしてこんなところに来たんだ?」

それには、長い髪の女子が一歩前に出て応える。

「私たち、そこのトンネルを通って来たんです。

 トンネルの両側が入口であることに気がついて、

 出口を探していたんです。

 あのトンネルに入口が2つあることは、ご存知でしたか?」

「そんな小難しいこと、俺は気が付かなかったなぁ。

 それよりも、せっかくここまで来たんだ。

 ぜひとも、うちの村に寄っていってくれよ。

 きっとみんな、歓迎するから。」

「まだ村はあるんですね。

 役場で、

 村には誰も住んでいないから、

 トンネルの出口ももう使われていない、

 って聞いたんですけど。」

「うちらは、あんまり上には行かないからなぁ。

 上の町の人達は、知らなかったかもしれないな。

 とにかく、こんなところで立ち話もなんだ。

 村まで案内するから、俺に着いてきな。」

そうしてその3人は、その日焼けした男に連れられて、

村まで案内してもらうことになった。


 その日焼けした男が先に立って、後ろをその3人が続いて歩く。

前を歩くその日焼けした男は、

肩に、釣り竿と立派な魚を担いで歩いている。

その姿を見て、

おかっぱ頭の女子が、ヒソヒソと話し始めた。

「ねぇ、あの男の人の姿を見て、何か気が付かないかな?」

「何かって、何?」

ツインテールの女子が、聞き返す。

おかっぱ頭の女子が、嬉しそうに説明を始める。

「ほら、あの男の人。

 肩に、頭くらいの大きさの魚を担いで歩いてるでしょう?」

「それがどうしたの。」

「それはね、ちょっと待ってね。

 念の為に、確認してみるから。」

おかっぱ頭の女子が早足になって、その日焼けした男に追いついて話しかける。

「あの~、すみません。

 ちょっと聞きたいんですけど。」

「なんだ?」

その日焼けした男が、歩きながら首を後ろに向ける。

おかっぱ頭の女子は、にこにこと楽しそうに話を続ける。

「ここの村の人たちは、漁師さんが多くて、

 釣った魚を、上の町に売りに行くこともあるんでしたよね。」

「そうだよ。」

「もしかして、上の町に魚を売りに行く時も、

 そうやって肩に魚を担いで持っていったりしますか?」

その日焼けした男は、顎の無精髭をいじりながら応える。

「ああ、そうだな。

 涼しい日は、こうして魚を手で持っていくこともあるよ。」

その応えを聞いて、おかっぱ頭の女子は確信したようだ。

後ろに戻ってきてから、

長い髪の女子とツインテールの女子に向かって、自分の考えを説明する。

「やっぱり、そうだよ。」

「どういうことかしら?」

「あのトンネルの中って、暗いでしょ?

 人がいても、その姿が見え難いくらいの暗闇。

 もしそこに、大きな魚を担いだ人がいたら。」

「・・・あっ。」

長い髪の女子とツインテールの女子が、同時に声を出した。

その反応を見て、おかっぱ頭の女子は首を縦に振った。

「そう。

 トンネルの暗闇の中で、肩に大きな魚を担いだ人がいたら、

 それは、人の身体に魚の頭がついてる姿に見えるかも。」

「じゃあ、

 半魚人の噂の原因は、

 下の村の漁師が、肩に魚を担いでトンネルを通っている姿を見られたから?」

「確認を取るのは難しいから、確実にそうだとは言えないけど。

 わたしは、多分そうじゃないかと思うの。」

「確かに、それで間違いないかもしれないわね。」

半魚人の正体が分かって、その3人は歩きながらクスクスと笑った。


 程なくして。

その3人は、村がある場所にたどり着いた。

その村の人たちは、その3人の姿を見るやいなや、大喜びで迎えた。

村の人たちが、その3人のところにやってきて、大声でまくしたてる。

「あんれまぁ~!

 あんたたち、外の人たちかい?」

「おなごだぁ!

 おなごが、村に来てくれたよ!」

迎えに出てきた人たちは、男ばかり。

周りを見渡すが、女子供の姿は見当たらない。

その3人は、村の人たちに聞こえないように、

頭を寄せ合ってヒソヒソと話している。

「みんな、男の人たちばかりね。

 この村には、女の人はいないのかしら。」

「そういうの、過疎とか、何とか集落って言うんだっけ。

 学校で習ったことがあるよね。」

「そうそう。

 きっとそのせいで、女が少ないんだよ。」

その3人は、村に女の姿が無いことを、その時はあまり深く考えなかった。

しかし、それが迂闊だったことを、すぐに実感することになる。


 その3人は、村の大きな家に案内された。

そこは、村の集会所になっているようで、

すぐに村人たちが集まってきた。

しかし、集まってきたのはやはり男ばかりだった。

集まってきた村の男たちが、

その3人を、やんややんやと持て囃す。

「あんたたち、よく来てくれたなぁ。」

「お前さんたち、旦那はいるのか?」

そんな質問に、長い髪の女子が顔を赤くして反論する。

「旦那なんて、い、いるわけ無いでしょ!

 私たち、まだ学生です。」

「じゃあ、うちに嫁に来てくれよ!」

「外のおなごは貴重だからな。

 この村なら、婿探しには困らないよ。」

「あ、あたしたち、トンネルの出口を調べに来ただけ!」

「そんな遠慮しないで、今日はお祝いだ!」

大騒ぎの男たちに、もみくちゃにされていく。

「私たち、すぐにお暇しますから。

 お構いなく。」

長い髪の女子が、引きつった笑みで応対する。

しかし、何度断っても、

次から次へと別の男に求婚される。

長い髪の女子が、必死にそれを断りながら、助けを求めて横を見る。

そこでは、ツインテールの女子が、

まとわりつく村の男たちを振り払うために、

叩いたり蹴ったりしていた。

「・・・お互い、助ける余裕はなさそうね。」

長い髪の女子の顔に、たらーっと嫌な汗が流れた。

ふと、さらにその向こうの光景が目に入った。

そこでは、おかっぱ頭の女子が、立派な座布団の上に座っていた。

内気なおかっぱ頭の女子は、されるがまま。

白無垢のような衣装を羽織らされて、

立派な酒坏に、口をつけようとしているところだった。

それを見て、長い髪の女子とツインテールの女子が、血相を変える。

「ちょっと待ったー!」

「私たち、たまたまここに来ただけですから!

 まだ未成年なので、お酒もお婿さんも、いりません!」

長い髪の女子が、大声で取り巻きの男たちを散らす。

ツインテールの女子が、

おかっぱ頭の女子の隣に座っていた男を蹴飛ばして引き剥がした。

そうして、なんとか、おかっぱ頭の女子を救出することができた。

「ちょっと、大丈夫?

 あなた、まさか飲んでないでしょうね?」

「う、うん。

 まだ、口もつけてなかったよ。」

おかっぱ頭の女子が、頭を振って応える。

引き剥がされた男は、目を白黒させている。

「み、みせいねん?

 あんたら、十分大人だろう。」

「失礼な!

 あたしたち、そんなに老けてないわよ!」

ツインテールの女子が、頬を膨らませて男に肘鉄を食らわせた。

それから、2人に向かって叫ぶ。

「ねえ!

 もう、ここに用は無いんじゃない?」

長い髪の女子も、大声で返事をする。

「そうね。

 あのトンネルの出口も確認出来たし、

 半魚人の正体も分かった。

 調べはついたのだから、さっさと帰りましょ!」

「う、うん!」

その3人は、まとわりつく村の男たちを何とか振り払って、集会所の外に出た。

そのまま立ち止まること無く、走って村を出ていく。

「待ってくれよー!」

「俺の嫁さんが、逃げていったぞ!」

後ろからは、村の男たちが追いかけてくる。

しかし、村の男たちは酒が入っていて、その足は速くはない。

その3人は、振り返ること無く、全力疾走する。

「捕まったら、お嫁さんにされる!」

「早く逃げるわよ!」

「あのトンネルに逃げよう!」

そうして、その3人は、

砂浜に足を取られながらも、

なんとかあのトンネルの中に逃げ込むことができた。


 その3人は、真っ暗なトンネルの中に飛び込んだ。

後ろからは、村の男たちが何人も追いかけて来ている。

その3人がトンネルの中に入ったのを見て、

村の男たちも、トンネルの中に入ってこようとする。

しかし、

そのトンネルは狭く、

小柄な女子生徒ならともかく、

大の大人の男が入ってくるのは、大変そうだ。

体を横に向けたり、腹を引っ込めたり。

中々入ることが出来ない。

そうして先頭の1人が引っかかっている間、後ろの男たちは通れない。

村の男たちがトンネルに引っかかっている間に。

その3人は、トンネルの側道を抜け、

トンネルの本道にまで戻ってきた。

振り返って側道の様子を探ると、

村の男たちは、やっとトンネルの側道に入ったようだ。

追いかけてくる足音が、側道を上がって近付いてくる。

「どうしよう。

 このままじゃ、村の人たち、すぐにここまで来ちゃうよ。

最後に側道を出たおかっぱ頭の女子が、

肩で息をしながら苦しそうに言う。

しばらく休まないと、これ以上は走れそうもなかった。

「気休めだけど、立て掛けてあった板を戻しておこう。」

ツインテールの女子が、立て掛けてあった板で側道を塞いだ。

それからしばらくして、

その板の向こう側に、人の気配が近付いてきた。

村の男たちが、板の向こう側のすぐそこまでたどり着いたようだ。

しかし、その人の気配は、

側道から先までは追いかけてくるつもりがないようだ。

足音は止まり、立て掛けてある板をどかす気配も無い。

その代わりに、板の向こう側から、

あの日焼けした男の声が聞こえてきた。

「あんたたち、怖がらせてしまったかなぁ。

 もしそうなら、すまなかったなぁ。

 俺たち、おなごに逢うのは、久しぶりだったからなぁ。

 ちょっと悪乗りが過ぎたみたいだ。」

男の声は穏やかで、恐縮してる感じが伝わってきた。

話は続く。

「村のもんたちには、

 俺が後でよく言って聞かせるから。

 どうか、許してくれ。」

頭を下げているのだろう。

ごそごそと気配が動く音が聞こえた。

さらに、男がごそごそと動いて言った。

「これ、些細なものだけど、よかったら貰ってくれ。

 お詫びの品というか、お土産だ。

 ここに置いておくから、後で持っていってくれ。

 じゃあ、俺は帰るから。

 本当に、すまなかった。」

そう言い残して、板の向こうから人の気配が消えた。

気配が消えたのを察して、その3人が小声で話をする。

「あの人たち、もう追いかけて来てない?」

「多分。

 もう声は聞こえないし、足音もしないわ。」

「わたし、こわかったよぅ。」

その3人は、トンネルの中で腰を抜かして尻もちをついた。

おかっぱ頭の女子は、泣きべそをかいている。

そのまましばらくして。

息が整ってから、ツインテールの女子が口を開いた。

「役場の人たちが、

 下の村のことを話したがらなかった理由。

 それが今、わかったよ。」

「どういうこと?」

隣りに座っていた長い髪の女子が、顔を傾けて尋ねる。

ツインテールの女子は、やれやれという感じで説明した。

「あの村の男たち、

 女とみれば、誰でも構わずお嫁さんにしようとするんだもの。

 きっと、役場の女の人たちも、

 あたしたちと同じ目に遭ったんじゃないかな。

 だからみんな、村の話をしたがらなかったんだよ。

 覚えてる?

 あの時に話を聞こうとした相手、たまたま全員女の人だった。

 だから、話を聞くのを断られたんだよ、きっと。」

「・・・確かにそうね。

 あやうくお嫁さんにされかかったなんて、他人に説明したくないわね。」

そう言ってから、

長い髪の女子は、ギョッとしてツインテールの女子の顔を見た。

へとへとになったツインテールの女子。

その頭が、左右あべこべになっていた。

長い髪の女子が、ツインテールの女子の頭を指差して言う。

「あなた、

 ツインテールが片方、ほどけちゃってるわよ。」

ツインテールの女子は、頭を触って確認する。

「・・・ほんとだ。

 ヘアゴム、どこかに落としちゃったみたい。」

仕方がなく、髪の毛を結わえておく。

それを見て、長い髪の女子が尋ねる。

「・・・取りに戻る?」

「止めておく。

 今度こそ、帰って来られなくなりそうだから。」

「わたしも、もうあの村には戻りたくないかも・・・。」

おかっぱ頭の女子が、やっと息を整えて会話に参加した。

その様子を見て、長い髪の女子が2人に言う。

「もう夕方よ。

 あなたたちも疲れたでしょう。

 そろそろ旅館に戻りましょう。」

「うん、そうだね。」

「あっ。

 でもその前に、お土産を貰っていこう。」

懲りもせず、ツインテールの女子が、わくわくと立ち上がる。

そして、側道を塞いだ板の前に立って、ごくりと喉を鳴らした。

「・・・もしかして、罠だったりして。」

「もう人の気配は無いし、大丈夫だと思う。」

おかっぱ頭の女子が、頭を横に振って応えた。

ツインテールの女子が、立て掛けていた板を慎重に外す。

誰もいないのを確認して、中を覗く。

側道に入った、すぐそこの地面。

そこには、

きれいな青色をした、巻き貝の貝殻が3つ、置いてあった。

それを拾って手の平に乗せて、2人にも見せる。

「見て、こんなのが置いてあったよ。」

「きれいな貝殻ね。」

「わぁ、素敵。」

長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は、

目を輝かせてその青い貝殻を手に取った。

ツインテールの女子も、

残った貝殻を手にとって、鼻でため息をついた。

「あんなに迷惑させられた詫びが、きれいな貝殻だなんて。

 ずいぶんとかわいい迷惑料だこと。

 でも、素直に謝ったことと、

 この貝殻のきれいさに免じて、許してあげる。」

そうして、その3人は、

青い貝殻を手に、旅館に戻った。


 その後。

温泉旅行はつつがなく終わり、その3人は自宅に戻った。

それからしばらく経って。

日常生活に戻り、温泉旅行の気分も抜けた頃。

その3人は、いつもどおり、

放課後の学校に居残って、おしゃべりをしようとしていた。

それは、その3人の日課みたいなもの。

しかし、今日の話題は、いつもとは違っていた。

長い髪の女子が、深刻そうな顔で話し始める。

「今日は、2人に話があるの。」

「話?」

「深刻な顔になって、どうしたの?」

長い髪の女子は、2人の問いには応えず、

鞄から大きなファイルを取り出した。

バサッとそれを開いてみせる。

中身は、新聞の切り抜きを集めたスクラップブックだった。

「何、それ。」

「新聞の切り抜き、かな?」

ツインテールの女子と、おかっぱ頭の女子が、スクラップブックを覗き込む。

長い髪の女子は、スクラップブックのページを捲りながら、話を続ける。

「ええ、そうよ。

 これは、新聞の切り抜きを集めた、スクラップブック。

 ところで2人とも、

 温泉旅行で行った、トンネルの先の村のことを覚えてる?」

その問いに、ツインテールの女子が嫌そうな顔で応える。

「覚えてるも何も、思い出させないでよ。

 せっかく忘れてたのに。」

おかっぱ頭の女子も、あまり愉快な表情はしていない。

「わたしも、あんまり思い出さないようにしてた。

 男の人たちに囲まれたり追いかけられたりして、すごく怖かったから。

 あの村の人たちには悪いけど。」

長い髪の女子の話は続く。

「実は私、

 あれから、あの村のことについて調べてたの。

 そうしたら、見つけたのよ。

 図書館でこれを。」

「見つけたって、何を。」

「これ。

 この新聞記事。

 2人とも、ちょっと見てみてよ。」

「どれどれ・・・」

3人でスクラップブックを覗き込む。

そのページには、新聞記事の切り抜きが綴じられていた。

その新聞記事の切り抜きは、

災害被害についての記事だった。


 その新聞記事には、

少しだけ昔に起きた、ある災害について書かれていた。


 ある地方の、ある村。

その村は、三方を岩壁に囲まれた、海岸に面した場所にあった。

それが、突然の災害に襲われた。

ある日の晩。

その村に突然、大波が何度も押し寄せたのだ。

特異な立地の影響もあって、

村はあっという間に大波に飲まれてしまった。

村人たちは、大波が来ることを知らず、

また、皆が寝静まっていた時間帯だったのもあって、

多数の人が大波にさらわれてしまった。

また、なんとか流されずに済んだ人たちの避難も、困難を極めた。

その村から外部に通じる道は、岩壁に作られた小さなトンネルだけだった。

その小さなトンネルは非常に狭く、一度に通れるのは大人一人が精一杯。

再び大波が来るまでに、避難しなければならない。

しかし、時間までにその小さなトンネルの中に逃げられる人数は限られる。

そこで、村の男たちは協力して、先に小柄な女子供をトンネルの中に逃した。

そして、老人たちをトンネルの中に逃したところで、大波が押し寄せた。

村の男たちは、トンネルの中に入るのも間に合わず、

大波に飲み込まれてしまった。

結果として、村の男たちは全滅。

遺体すら回収出来なかった者も大勢いた。

その後。

村は放棄され、逃げ延びた女子供と老人たちは、

トンネルの先、山の上にある町で暮らすようになったという。


 そこまで読んで、おかっぱ頭の女子が口を開いた。

「小さなトンネルで外部と繋がった、

 岩壁に囲まれた海岸に面した村?

 それってまさか・・・」

ツインテールの女子が、呆然として言う。

「大波で、村の男たちは全滅って。

 じゃあ、あたしたちが遭ったあの人たちは・・・」

「村に繋がるトンネルの出口が使われなくなったのも、

 上の町の人たちが、事情を話したがらなかったのも、

 全て分かったような気がするわね。」

その3人は呆然と新聞記事を見ていた。

それから、ぼそぼそと口を開き始める。

「そういえば、あの村、

 男の人たちばっかりで、

 女の人や子供は見かけなかったね。」

「村の男たちが、あたしたちにご執心だったのは、

 逃げ延びた女の人たちの姿が被って見えたから?」

「どちらにしろ、悪気は無かったのかもしれないね。

 それなのに逃げてきちゃって、

 わたしたち、悪いことをしちゃったかな。」

「あの村まで、謝りに行ってみる?」

「ううん。

 多分、もう行かないほうがいいと思う。」

「そうだよね。

 何が起こるか、分かんないし。」

その3人は、しゅんとしてしまった。

そのまま、誰も口を開かなくなった。

夕暮れの教室で、遠くの生徒たちの声が響いてくる。

しばらして、

ツインテールの女子が、思い出したように顔を上げた。

「そうだ。

 あたし、あの時に貰った青い貝殻を、持ち歩いてたんだ。」

「私も、鞄に入れてあったかも。」

「わたしも。」

ごそごそと荷物の中を探すと、

3人とも、あの時に貰った、青い貝殻が見つかった。

その3人は、青い貝殻を手にとって、身を寄せ合う。

青い貝殻を耳に当てて、目を閉じる。

そうして、静かに耳を澄ましていると、

青い貝殻から、

あのトンネルの出口の先で聞いた、

穏やかな波の音が聞こえてきたのだった。



終わり。


 トンネルをテーマに話を書こうと思って、この話を作りました。

トンネルには入口と出口が設定されているということで、

もしも両側が入口のトンネルがあったら、それはどういう事情からか、

ということを考えながら、話を作っていきました。


お読み頂きありがとうございました。


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