入ったら出られないトンネル
これは、温泉旅行にやってきた、仲良し3人組の女子生徒たちの話。
「入ったら出られないトンネル?」
「そう。
この旅館の近所にあるらしいんだけど、
そのトンネルは、入ったら出てこられない。
という噂なんだって。
中に半魚人が住んでいて、入ってきた人をさらうらしいよ。
今日、地元の子たちと話す機会があって、そこで聞いたの。」
「半魚人なんて、まさか~。」
地方にある、こじんまりとした温泉旅館。
そこに、仲良し3人組の女子生徒たちが、旅行にやってきていた。
黒くて長い髪の女子生徒。
髪を頭の左右に分けて結っている、ツインテールの女子生徒。
おかっぱ頭の女子生徒。
これが、その3人。
その3人は、学校の内でも外でも、いつも一緒。
怪談や噂話が大好きで、
今日も温泉旅行にやってきた先で、
地元に伝わる怪談を聞きつけたのだった。
湯煙漂う、温泉の大浴場。
その3人は、そこで湯船に浸かりながら、
この辺りの地元に伝わる、怪談の話をしていた。
怪談とは、入ったら出られないトンネルの話。
その中では、半魚人が現れて人をさらうという。
さっき話をしていた通りの内容だった。
ツインテールの女子が、
湯船の中で足をバタバタさせながら、話を続ける。
「明日、そのトンネルを見に行ってみない?
入ったら出られないトンネルなんて、あたし興味がある。」
長い髪の女子が、湯船に浸かって肩の凝りをほぐしながら応える。
「入ったら出られないトンネルはともかく、
半魚人なんて、私はいないと思うわ。」
おかっぱ頭の女子が、もじもじと胸を隠しながら続く。
「わたしは、半魚人なんていない方がいいな。
だって、本当にいたらこわいから。」
その3人は、そのままのんびりと温泉に浸かって、話を続けた。
入ったら出られないトンネルや、半魚人なんて、
本当に存在するとは思えない。
とは言うものの、怪談好きの血が騒ぐのは抑えられなかった。
「ずっと温泉に浸かるだけでは退屈なのも事実ね。
いいわよ。
明日、そのトンネルを見に行ってみましょう。」
長い髪の女子が、話を締めくくった。
次の日。
その3人は、怪談の舞台である、
入ったら出られないトンネルの前までやってきた。
そのトンネルは、山を少し登った先、
人や車はあまり通らない場所にあった。
ツインテールの女子が、目の上に手の平を掲げて辺りを見渡す。
「やっと着いた。
このトンネルが噂の、入ったら出られないトンネルのはず。」
「ずいぶんと古いトンネルみたいね。
あちこちボロボロだわ。」
「でも、
怪談の舞台が真新しいものだったら、
それはそれで不自然じゃないかな。」
そのトンネルは、
高さが、大人2人分程度、
幅は、車2台がすれ違うのに苦労する程度、
そんな、小さなトンネルだった。
古びれていて、周りはボロボロ。
壁には蔦が這い回っていた。
「あそこ、何か書いてあるよ。」
その小さなトンネルに入る前に。
おかっぱ頭の女子が、何かを見つけたようだ。
トンネルの入口の脇まで行って、壁を撫でながら言った。
「何だろう、これ。
このトンネルの案内板かな。」
その小さなトンネルの入口の脇には、案内板のようなものが設置されていた。
そこには、トンネルの名前や工法などが書かれているようだ。
しかし、汚れや痛みが激しく、トンネルの名前などは確認できなかった。
「このトンネルの名前は読み取れないけど、
これ、入口って書いてあるのかしら。」
長い髪の女子が言う通り、
そこには確かに、
入口。
と書かれているのが読み取れた。
どうやら、こちら側がこのトンネルの入口のようだ。
その小さなトンネルの入口から、中を覗いてみる。
中は照明も無く真っ暗。
向こう側の出口から差し込む光だけが、その先に見えていた。
でも、トンネルの長さ自体は、大したことがなく、
数分も歩けば、向こう側から出てこられそうだ。
「中は真っ暗だよ。
それでも、中に入って調べてみるの?」
真っ暗な内部を指差して、おかっぱ頭の女子が問いかける。
その問いに、
ツインテールの女子が、腰に手を当てて自信満々に頷く。
「もちろん。
ここまで来たのに、黙って帰ったりしないよ。」
長い髪の女子がそれに続く。
「そうね。
せっかくここまで来たのだから、
トンネルの向こう側まで通り抜けてみましょうか。」
2人の応えを聞いて、
おかっぱ頭の女子は、眉毛を八の字にして言葉を返す。
「でも、噂では、
入ったら出られないトンネルなんでしょう。
それに、半魚人も出るって言うし。
もしも噂が本当だったら、どうなるかわからないんだよ。
中に入るのは、止めた方がいいんじゃないかな。」
そんな情けない声に、呆れ顔の2人が応える。
「そんな噂、本当なわけがないよ。
ちょっと肝試しをするだけ。」
「そうね。
肝試しにもならないと思うけど、
噂の原因くらいは調べてみたいわ。」
長い髪の女子とツインテールの女子は、各々動機は違うが、
その小さなトンネルの中に入りたがっているのは同じだった。
長い髪の女子が、おかっぱ頭の女子を見据えて言う。
「一緒に来るのが怖かったら、
あなたはここで待っていてもいいわよ。
私たち2人で中に入って、調べ終わったらここに戻ってくるから。」
そう言い残して、
長い髪の女子とツインテールの女子は、
スタスタと軽い足取りで、その小さなトンネルの中に入っていってしまう。
おかっぱ頭の女子は、オロオロとそれを見ていたが、
数メートルも離れない内に、小走りに2人を追いかけ始めた。
「ま、待ってよ~。
こんなところで1人で待ってるのは嫌だよ~。
半魚人がどこから出てくるかわからないんだから。
わたしも一緒に行く~。」
そうして、その3人は、
その小さなトンネルの中に足を踏み入れた。
その3人は、その小さなトンネルの中に入った。
縦一列に並ぶようにして、ゆっくりと歩みを進めていく。
その小さなトンネルの中は真っ暗。
少し先にある、向こう側の出口。
そこから差し込む日光を道しるべにして、その3人は進んでいく。
先頭を歩いているツインテールの女子が、胸を踊らせて言う。
「気をつけて。
その辺から急に、半魚人が出てくるかも。」
「気をつけるって、何を気をつければいいのよ。」
「半魚人が出てくるんだったら、
足音・・・とか?」
その3人は、
暗闇から半魚人が出てくるのではないかと、
おっかなびっくり進んでいった。
しかし、
暗闇に目が慣れるかどうか、というくらいの時間が過ぎたところで、
向こう側の出口に、あっけなくたどり着いてしまった。
「・・・案外簡単に、向こう側にたどり着いちゃったね。」
「そうね。
残念ながら、半魚人はいなかったし、
簡単に通り抜けられちゃったわね。」
「通り抜けられちゃった。
じゃなくて、
わたしたち3人とも、無事で良かったんだよ。」
その3人は拍子抜けして、
背後にある、今通り抜けてきたばかりの、
その小さなトンネルの方に向き直った。
こちら側にも同じように、
ボロボロになった案内板のようなものが設置してあった。
ツインテールの女子が、案内板の汚れを手で拭って確かめる。
そこにもやはり、
トンネルの名前と工法などが書かれているようだが、
汚れや痛みで文字を読み取ることが出来ない。
しかしその中で、
入口。
という文字だけは、かろうじて読み取ることが出来た。
案内板を見ているツインテールの女子の横から、
長い髪の女子が、顔を覗かせて言う。
「さっき入ってきた入口にあったものと、
書いてあることは同じみたいね。
特に気になることは無いように思うわ。」
それに対して、ツインテールの女子は、
頭の上に電球を点灯させたような顔になった。
「・・・あ。」
「どうしたの?」
長い髪の女子が、怪訝そうに尋ねる。
ツインテールの女子が、にんまりと笑顔になって応えた。
「あたし、
入ったら出られないトンネルの秘密、分かっちゃったかも。」
「何?どういうこと?」
おかっぱ頭の女子も、近くに寄ってきて案内板を覗き込んだ。
ツインテールの女子が、案内板を指差しながら説明を始めた。
「この案内板を見て。
ここに、トンネル入口って書いてあるよね。」
「ええ、そうね。」
「じゃあ、さっきトンネルに入ってきた側、
トンネルの向こう側にあった案内板には、
なんて書いてあったか覚えてる?」
「・・・あっ。」
おかっぱ頭の女子が、小さく声を上げた。
ツインテールの女子は、頷いて話を続ける。
「そう。
さっきトンネルに入った側の案内板にも、入口って書いてあったの。」
そこまで言われて、長い髪の女子にも話が分かったようだ。
「そうか。
つまり、このトンネルは、
両側が入口で、出口がないって事か。」
「そう。
だから、入ったら出られないトンネル。」
「な~んだ、そういうことだったんだ。
怖がって損しちゃった。」
入ったら出られないトンネルの謎が分かって、
その3人は、ほっと胸をなでおろした。
入ったら出られないトンネル。
それは、両側に入口と書かれたトンネルのことだったのだ。
だがすぐに、長い髪の女子が疑問を口にした。
「待って。
入ったら出られないトンネルの噂の理由は分かったわ。
けれど、それじゃあ、半魚人が出るって噂は?
トンネルの両側の案内板に入口って書いてあるだけでは、
半魚人が出るなんて話にはならないと思うわ。」
「それは、何かの見間違いとか。」
おかっぱ頭の女子が、考えながら応える。
しかし、長い髪の女子は納得しない。
「見間違いなら見間違いで、
何か元になったものがあるはずよ。」
「あんた、中々頑固ね。」
ツインテールの女子が、半目になって茶々を入れた。
「私がこういう性格なのは、あなたもよく知ってるでしょう。
疑問が残ってる限り、私は納得しないわ。」
「でも、じゃあどうするの。
もう一回トンネルの中に入って、調べてみる?」
「真っ暗なトンネルの中に、闇雲に入っていっても、
何かを見つけるのは難しいでしょうね。
手がかりが欲しいわ。
事情を知ってる人に、話を聞くことはできないかしら。」
ツインテールの女子が、髪の毛をくるくると触りながら応える。
「それだったら、
この道を下った先に役場があるから、
そこで話を聞いてみようよ。
元々この噂話も、そこで遭った子に聞いたから。」
そうしてその3人は、
半魚人が出るという噂を調べるために、
役場に向かった。
それから程なくして、その3人は小さな役場にたどり着いた。
出入り口のドアを開けて、中に入る。
役場の中は、訪れた人たちと役場の人たちで賑わっていた。
「小さな役場だけど、人は結構いるみたいね。
怪談のことについて聞きたいなんて言ったら、ご迷惑かしら。」
「迷惑というより、追い返されるかも。」
「何か適当な理由を言って、聞いてみるよ。」
早速、その3人は、
受付であろう若い女に話しかけた。
「あの~、すみません。」
「はい、なんでしょう。」
受付の若い女は、にこやかに応じる。
ツインテールの女子が、さも自然な表情で話す。
「えっと、
こちらの地方の風土や歴史について、聞きたいんですが。」
「あら、学生さん?
学校の課題かしら。」
「はい、そうなんです。」
もちろん出任せだが、ツインテールの女子は努めて自然に振る舞う。
それに対して、受付の若い女は、嬉しそうに応対する。
「この地方に興味を持ってくれて、嬉しいわ。
そういうことなら、郷土課で話をしてもらえるかしら。
向こうの窓口で対応するから、その前で待っていてね。」
受付の若い女は、対応する人を呼びに行ってしまった。
その3人が、言われた窓口の前で待つこと数分。
眼鏡をかけた中年の男が、応対に現れた。
「どうも、お待たせしました。」
応対に現れた眼鏡の男が、ずり下がった眼鏡を上げながら言った。
少し神経質そうだが、誠実そうな男だった。
「早速ですが、どのようなご用件でしょうか。
こちらの風土や歴史について、興味がおありだとか。」
ここからは、交渉事に一番秀でているということで、
長い髪の女子が代表して話をすることになった。
「私たち、山の上のトンネルの噂を聞いて来ました。」
「・・・ほぅ、噂話ですか。
風土や歴史と関係するのかは分かりませんが、話を伺いましょう。」
「はい。ありがとうございます。
こちらの地元の子たちに聞いたんです。
あのトンネルは、入ったら出られないトンネルなんだとか。
それで私たち、調べました。
そして、その噂の原因が分かったと思います。」
「入ったら出られないトンネルの噂の原因、ですか?」
「はい、そうです。」
長い髪の女子は、乾いた唇を湿らせて話を続ける。
「あのトンネルには、
両側の口に、案内板のようなものが設置されています。
そして、その両側の案内板には、
入口。
と、そのように書いてありました。
そのことについては、ご存知でしたか?」
「いいえ。
少なくとも私は、存じ上げません。
この役場の他の者たちも、同様に知らないと思います。
話題に上ったこともないですから。」
眼鏡の男の返事に、長い髪の女子は話を続ける。
「つまり、あのトンネルは、
両側が入口で、出口が無いんです。
だから、あのトンネルは、
入ったら出られないトンネルになったんだと思います。」
「なるほど、よく観察していますね。」
眼鏡の男が、称賛の声をあげる。
褒められて悪い気はしない。
長い髪の女子は、ちょっと得意げになった。
しかし、その横で、
ツインテールの女子は、ちょっと口を尖らせている。
「あのトンネルの両側が入口だって気がついたのは、あたしなのに。」
小声でそんなことを呟いた。
それには誰も気が付かず、長い髪の女子は話を続ける。
「なぜ、あのトンネルは、両側が入口なんですか?」
「なるほど。
それについてお答えする前に、
まず、トンネルの入口出口は、どのように決まるかご存知ですか?」
眼鏡の男の問いに、その3人は首を横に振る。
手の指を組んで、眼鏡の男は説明を続けた。
「トンネルには通常、入口と出口が設定されています。
起点側を入口、終点側を出口にするんです。
起点というのは、
大雑把に言えば、都会側ですかね。
色々と条件がありますが、
今回の場合は、それで良いでしょう。」
眼鏡の男は、
ずり下がった眼鏡を上げて、話を続ける。
「あのトンネルですが、
実は、元々は別々の、2つのトンネルだったんです。
入口は別々、出口は同じ、二股のトンネルでした。
それが後に、
その2つのトンネルの入口同士が、繋げられたのです。
だから、あのトンネルは、両側が入口になりました。」
「では、
トンネルの出口は別にあった、
ということですか。」
「そうです。
あのトンネルが通っている山の下に、
かつては小さな村がありまして。
2つのトンネルの出口は、
その村の方に繋がっていたんです。
ですが、その出口が使われなくなって、
残った2つのトンネルの入口同士が繋がれて、
今のトンネルになりました。」
「なるほど。
それで、入口が2つで出口が1つのトンネルになったんですね。」
入ったら出られないトンネル。
その噂の理由は、両側が入口になっているから。
両側が入口になった理由は、
かつては別々のトンネルで、出口は別にあったものを繋いだから。
真相を聞いてみれば、怪談でもなんでもない話だった。
しかし、まだ疑問は残っている。
ツインテールの女子が、横からつい口を挟んでしまう。
「じゃあ、半魚人は?
半魚人はどこから来たの。」
「半魚人?」
眼鏡の男が、怪訝そうな顔になってしまった。
両側が入口のトンネルはともかく、
半魚人の話など、役場でする話とも思えない。
しかし、せっかくここまで来たのだ。
長い髪の女子は、ちょっと言い辛そうに話を引き継いだ。
「あのトンネルには、もうひとつの噂があるんです。」
「それが半魚人、ですか?」
「はい。
ちょっと突飛な話なのは分かっています。
でも、あのトンネルには、
半魚人が出るって噂があるんです。
トンネルから出られないのは、
その半魚人に、さらわれるからだって。」
眼鏡の男は、困惑の表情を浮かべている。
半魚人が出る、などと言われては、皆そう反応するだろう。
「それは、ちょっとわかりませんね。
半魚人が出るなんて話、聞いたこともないです。
子供はともかく、
大人がそんな話をしているとは、聞いたことがない。」
「そうですか・・そうですよね。
変なことを伺ってしまって、すみません。」
長い髪の女子が頭を下げた。
役場で話を聞いてみて。
入ったら出られないトンネルの理由は分かったが、
半魚人の噂については、その理由は分からずじまいだった。
せっかく役場に来たが、半魚人の噂の原因は分からなかった。
分かったことは、
あの小さなトンネルは、かつて、
別々のふたつのトンネルで、出口は山の下の村に繋がっていた。
その出口が使われなくなって、入口同士が繋がれて今のトンネルになった。
ということだった。
入ったら出られないトンネルの理由は分かったが、
半魚人が出る噂については、手がかりがなくなってしまった。
「困ったわね、手がかりがなくなってしまったわ。」
「入ったら出られないトンネルの方は、謎が解けたんだし、
これで解決ってことじゃだめかな。」
長い髪の女子とツインテールの女子が、腕を組んで唸っている。
その横から、おかっぱ頭の女子が、眼鏡の男に話しかけた。
「あの・・、
トンネルの出口と、
トンネルの出口に繋がっているっていう、
その村は、今どうなっているんですか?」
その問いに対して、眼鏡の男は言いにくそうに応えた。
「トンネルの出口は、今もあると思います。
使われていないので、閉じられているかもしれませんが。
村の方ですが、今は誰も住んでいないと思います。
古い話になりますので、
私より、他の者の方が詳しいでしょう。
私は、ここに来てそんなに長くないですから。」
「では、他の方からお話は伺えないですか。」
「急にはちょっと難しいかもしれませんね。
今すぐ話を聞ける相手だと、誰かいるかな。」
眼鏡の男が、役場の窓口の内部を見渡す。
そして、丁度近くを通りがかった、
中高年の女を呼び止めて、話を聞く。
「山の下の村の話、ですか?
私の口からはちょっと・・・。」
知っているのか知らないのか、不明瞭な応えしか返ってこない。
隣の窓口の中年の女にも話を聞く。
「ごめんなさい。
あの村のことは、
あまり思い出したくないんです。」
誰に聞いても、明確な応えは返ってこない。
逆に、眼鏡の男が、上司らしい人に呼ばれて、
何か小言のようなものを言われてしまった。
それから、眼鏡の男が、すまなそうな顔で戻ってきた。
「すみませんね。
どうもみんな、話をしたがらないようで。
山の下の村がかつてどうだったか、ちょっとわからないですね。
書類によれば、
今もトンネルの出口は、山の下の村に繋がっているはずですが。」
「いえ、急に伺ってしまって、すみませんでした。」
その3人は、眼鏡の男に頭を下げた。
村の話をあれこれしていたら、役場の中でずいぶんと目立ってしまったようだ。
役場の人たちの視線が刺さるのを感じる。
その3人は、居心地の悪さを感じて、
役場から早々に出ていったのだった。
役場から逃げるように出てきて。
その3人は、役場の脇の駐車場で、輪になって相談を始めた。
「最初は詳しい話が聞けたのに、
村の話をし始めたら、急に居心地が悪くなっちゃったわね。
それとも、忙しかったのかしら。」
「というよりは、
何か話したくない内容だったような感じだよ。」
「山の下の村で、何かあったのかな。」
その3人は、う~んと頭を捻っている。
あの小さなトンネルが、入ったら出られないトンネルになった理由、
それは分かったが、
半魚人が出るという噂については、分からずじまいだ。
「どうする?
もう諦めて、旅館に戻る?」
ツインテールの女子が、2人に尋ねる。
しかし、その応えはもう決まっていたようだ。
「私は、途中で止めるのは嫌よ。」
「う、うん。
こうなったら、乗りかかった舟だよ。」
「そうだね。
じゃあ、出来る限りのことをしてみようか。
そうと決まれば、手がかりはひとつしかない。
もう一度、あのトンネルに行ってみよう。」
そうして、その3人は、
再び、あの小さなトンネルに向かった。
その3人は、あの小さなトンネルまで戻ってくると、
その中に再び足を踏み入れた。
今度は、通り過ぎるだけではなく、ゆっくり中を調べていく。
「さっき通った時には、
何も見つからなかったけれど・・・。」
「役場のおじさんの話の通りなら、
このトンネルには、他に出口があるはずだよ。」
「他の出口なんて、
そんなのあったかなぁ。」
その3人は、トンネルの壁に手をついて、
一歩一歩確かめながら進んでいく。
しばらくそうしていると、おかっぱ頭の女子の歩みが止まった。
「・・・あれ?
ここの壁、触り心地が違う気がするよ。」
「どこの壁?」
長い髪の女子とツインテールの女子が近付いてくる。
ガサゴソと3人で壁を撫で回す。
そうしていると、壁の一部がガタッと外れてしまった。
「わわっ!
何か壊しちゃったかな。」
「慌てないでいいわよ。
どうも、そうじゃないみたい。」
「うん、壊れたんじゃないよ。
ここの壁は、板が立てかけられてただけみたいだ。」
ツインテールの女子が、壁の板を持ってパカッと外した。
その壁には、ベニヤ板のような薄い板が立てかけられていて、
その裏からは、側道のような通路が現れた。
「こんなところに通路があったなんて。」
「トンネルの中は真っ暗だし、板で塞がれてたから、
さっき通った時は見逃してたのね。」
「わぁ、この中も真っ暗だよ。」
おかっぱ頭の女子が、恐る恐る通路の中を覗く。
その側道は、小さなトンネルの本道よりも更に狭い。
横に逸れているから、入口からの光もあまり届かない。
「役場のおじさんが言っていた出口って、この先なのかな。」
「ここに入る前に、
他の場所を、先に調べておきましょうか。」
側道は一先ず置いて、その3人は、その小さなトンネルの本道を調べた。
しかし、その側道以外に、おかしな場所は見当たらない。
その3人は、側道の前まで戻ってきた。
「やっぱり、出口はこの通路の先みたいね。」
「でも、中は真っ暗だよ。
本当に、この中に入るの?」
「当然。
ここまで来たんだから。」
ツインテールの女子は、臆すること無く、その側道に体を滑り込ませていく。
それを見ながら、長い髪の女子が頬に手を当てて話す。
「気が進まないのなら、
あなたはここで待っていてもいいけれど・・・。
とはいえ、こんな真っ暗なトンネルの中で、1人で待つのは嫌よね。」
トンネルに入る前と同じやり取りだった。
おかっぱ頭の女子が、長い髪の女子の腕に、ひしっとしがみつく。
「うん。
こんなところで1人で待つなんて、余計に怖いよ。
わたしも行く。」
「そうよね。
じゃあ、一緒に行きましょう。」
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は、体を寄せ合うと、
暗くて狭い側道の中に入っていった。
その小さなトンネルの側道は、ほとんど真っ暗で、
ぐねぐねと曲がりくねっていた。
曲がりくねった通路の先からは、ほんの少しの明かりと風を感じるが、
それも定かではない。
真っ暗で曲がりくねった通路を歩いていると、
自分が立っている場所も見失いそうになる。
先に立って歩いているツインテールの女子が、
振り返らずに後ろに向かって話しかける。
「先は見えないけど、この先に出口がありそう。
前から風が吹いてきてるし、
少しずつ明るくなってる気がするから。」
しかし、後に続く2人は、先よりも周りが気になる。
「足元、気をつけてね。」
「足元だけじゃなくて、左右もね。
どうもこの通路、出口に向かうにしたがって、
少しずつ狭くなってるみたいだから。」
長い髪の女子の言う通り、
その側道は、出口に向かうにしたがって、
徐々に狭くなる、下り道になっていた。
歩いているだけで、周りから岩壁が迫ってくるような圧迫感を感じる。
風が吹いているといっても微風程度で、なんだか息苦しい。
そうして、狭くなっていった側道が、
大人一人がなんとか通れる程度まで狭まった頃。
目の前に、薄暗い出口が見えてきた。
「あそこ!
出口が見えたよ。」
そうして、その3人は、側道の出口にたどり着いた。
そこが、入ったら出られないトンネルの、出口だった。
小さなトンネルの、側道の先。
入ったら出られないトンネルの出口に、たどり着いた。
そこは、三方を岩壁に囲まれた、海沿いの場所だった。
目の前には海岸、左右と後ろは、高い岩壁に囲まれている。
海岸には穏やかな波が打ち寄せ、やさしい波の音が耳に届く。
「うわぁ、きれいな場所ねぇ。」
目の前の海岸は、人に踏み荒らされていない、無垢な海岸だった。
その3人は、目の前に広がる光景をうっとりと眺めた。
そのまましばらくして。
「きれいだけど、何か忘れてないかな。」
「おっとっと、そうだった。」
本来の目的を思い出す。
ここには、景色を見に来たのではなかった。
ツインテールの女子は、トンネルの出口に向かって振り返った。
蔦が絡まっていてわかりにくかったが、
そこにも案内板のようなものが設置されていた。
汚れや痛みはあるが、そこには、
出口。
という言葉が読み取れた。
「出口、って書いてあるね。」
「ということは、
ここがトンネルの出口で間違いないわけね。」
「わたしたち、やっとトンネルの出口を見つけられたんだ。」
その3人は、トンネルの出口を見つけた達成感を感じて、
お互いに顔を見合わせて笑顔になった。
それもつかの間、次の目標に向かって動き始める。
「さて次は、この辺りにあるっていう村を探しましょうか。」
「あっ、あれ、人じゃないかな。」
おかっぱ頭の女子が、海岸の方を指差した。
その3人がいる場所から、少し離れた場所。
そこには、日焼けした男が立っていた。
その男は、ボロ布のような粗末な衣服を身に着けていて、
手には釣り竿と立派な魚を持っているように見える。
その日焼けした男の方も、その3人に気がついたようで、
大きく手を振りながら声を上げた。
「あんれまぁ~!
お前さんたち、上の人たちかぁ?
外の人が来るのは、久しぶりだよ。」
その日焼けした男が、走り寄ってきた。
今しがた釣り上げたのか、やはり手には立派な魚を持っていた。
ツインテールの女子が、その魚を見て楽しそうに話しかける。
「わっ、すごい。
それ、釣ったんですか?」
その日焼けした男は、鼻高々という感じで応える。
「そうだよ。
うちの村は漁師の村だからなぁ。
みんな釣りは得意だよ。
釣った魚を、たまに上の町に売りに行ったりもするんだよ。
それよりも、お前さんたち、
どうしてこんなところに来たんだ?」
それには、長い髪の女子が一歩前に出て応える。
「私たち、そこのトンネルを通って来たんです。
トンネルの両側が入口であることに気がついて、
出口を探していたんです。
あのトンネルに入口が2つあることは、ご存知でしたか?」
「そんな小難しいこと、俺は気が付かなかったなぁ。
それよりも、せっかくここまで来たんだ。
ぜひとも、うちの村に寄っていってくれよ。
きっとみんな、歓迎するから。」
「まだ村はあるんですね。
役場で、
村には誰も住んでいないから、
トンネルの出口ももう使われていない、
って聞いたんですけど。」
「うちらは、あんまり上には行かないからなぁ。
上の町の人達は、知らなかったかもしれないな。
とにかく、こんなところで立ち話もなんだ。
村まで案内するから、俺に着いてきな。」
そうしてその3人は、その日焼けした男に連れられて、
村まで案内してもらうことになった。
その日焼けした男が先に立って、後ろをその3人が続いて歩く。
前を歩くその日焼けした男は、
肩に、釣り竿と立派な魚を担いで歩いている。
その姿を見て、
おかっぱ頭の女子が、ヒソヒソと話し始めた。
「ねぇ、あの男の人の姿を見て、何か気が付かないかな?」
「何かって、何?」
ツインテールの女子が、聞き返す。
おかっぱ頭の女子が、嬉しそうに説明を始める。
「ほら、あの男の人。
肩に、頭くらいの大きさの魚を担いで歩いてるでしょう?」
「それがどうしたの。」
「それはね、ちょっと待ってね。
念の為に、確認してみるから。」
おかっぱ頭の女子が早足になって、その日焼けした男に追いついて話しかける。
「あの~、すみません。
ちょっと聞きたいんですけど。」
「なんだ?」
その日焼けした男が、歩きながら首を後ろに向ける。
おかっぱ頭の女子は、にこにこと楽しそうに話を続ける。
「ここの村の人たちは、漁師さんが多くて、
釣った魚を、上の町に売りに行くこともあるんでしたよね。」
「そうだよ。」
「もしかして、上の町に魚を売りに行く時も、
そうやって肩に魚を担いで持っていったりしますか?」
その日焼けした男は、顎の無精髭をいじりながら応える。
「ああ、そうだな。
涼しい日は、こうして魚を手で持っていくこともあるよ。」
その応えを聞いて、おかっぱ頭の女子は確信したようだ。
後ろに戻ってきてから、
長い髪の女子とツインテールの女子に向かって、自分の考えを説明する。
「やっぱり、そうだよ。」
「どういうことかしら?」
「あのトンネルの中って、暗いでしょ?
人がいても、その姿が見え難いくらいの暗闇。
もしそこに、大きな魚を担いだ人がいたら。」
「・・・あっ。」
長い髪の女子とツインテールの女子が、同時に声を出した。
その反応を見て、おかっぱ頭の女子は首を縦に振った。
「そう。
トンネルの暗闇の中で、肩に大きな魚を担いだ人がいたら、
それは、人の身体に魚の頭がついてる姿に見えるかも。」
「じゃあ、
半魚人の噂の原因は、
下の村の漁師が、肩に魚を担いでトンネルを通っている姿を見られたから?」
「確認を取るのは難しいから、確実にそうだとは言えないけど。
わたしは、多分そうじゃないかと思うの。」
「確かに、それで間違いないかもしれないわね。」
半魚人の正体が分かって、その3人は歩きながらクスクスと笑った。
程なくして。
その3人は、村がある場所にたどり着いた。
その村の人たちは、その3人の姿を見るやいなや、大喜びで迎えた。
村の人たちが、その3人のところにやってきて、大声でまくしたてる。
「あんれまぁ~!
あんたたち、外の人たちかい?」
「おなごだぁ!
おなごが、村に来てくれたよ!」
迎えに出てきた人たちは、男ばかり。
周りを見渡すが、女子供の姿は見当たらない。
その3人は、村の人たちに聞こえないように、
頭を寄せ合ってヒソヒソと話している。
「みんな、男の人たちばかりね。
この村には、女の人はいないのかしら。」
「そういうの、過疎とか、何とか集落って言うんだっけ。
学校で習ったことがあるよね。」
「そうそう。
きっとそのせいで、女が少ないんだよ。」
その3人は、村に女の姿が無いことを、その時はあまり深く考えなかった。
しかし、それが迂闊だったことを、すぐに実感することになる。
その3人は、村の大きな家に案内された。
そこは、村の集会所になっているようで、
すぐに村人たちが集まってきた。
しかし、集まってきたのはやはり男ばかりだった。
集まってきた村の男たちが、
その3人を、やんややんやと持て囃す。
「あんたたち、よく来てくれたなぁ。」
「お前さんたち、旦那はいるのか?」
そんな質問に、長い髪の女子が顔を赤くして反論する。
「旦那なんて、い、いるわけ無いでしょ!
私たち、まだ学生です。」
「じゃあ、うちに嫁に来てくれよ!」
「外のおなごは貴重だからな。
この村なら、婿探しには困らないよ。」
「あ、あたしたち、トンネルの出口を調べに来ただけ!」
「そんな遠慮しないで、今日はお祝いだ!」
大騒ぎの男たちに、もみくちゃにされていく。
「私たち、すぐにお暇しますから。
お構いなく。」
長い髪の女子が、引きつった笑みで応対する。
しかし、何度断っても、
次から次へと別の男に求婚される。
長い髪の女子が、必死にそれを断りながら、助けを求めて横を見る。
そこでは、ツインテールの女子が、
まとわりつく村の男たちを振り払うために、
叩いたり蹴ったりしていた。
「・・・お互い、助ける余裕はなさそうね。」
長い髪の女子の顔に、たらーっと嫌な汗が流れた。
ふと、さらにその向こうの光景が目に入った。
そこでは、おかっぱ頭の女子が、立派な座布団の上に座っていた。
内気なおかっぱ頭の女子は、されるがまま。
白無垢のような衣装を羽織らされて、
立派な酒坏に、口をつけようとしているところだった。
それを見て、長い髪の女子とツインテールの女子が、血相を変える。
「ちょっと待ったー!」
「私たち、たまたまここに来ただけですから!
まだ未成年なので、お酒もお婿さんも、いりません!」
長い髪の女子が、大声で取り巻きの男たちを散らす。
ツインテールの女子が、
おかっぱ頭の女子の隣に座っていた男を蹴飛ばして引き剥がした。
そうして、なんとか、おかっぱ頭の女子を救出することができた。
「ちょっと、大丈夫?
あなた、まさか飲んでないでしょうね?」
「う、うん。
まだ、口もつけてなかったよ。」
おかっぱ頭の女子が、頭を振って応える。
引き剥がされた男は、目を白黒させている。
「み、みせいねん?
あんたら、十分大人だろう。」
「失礼な!
あたしたち、そんなに老けてないわよ!」
ツインテールの女子が、頬を膨らませて男に肘鉄を食らわせた。
それから、2人に向かって叫ぶ。
「ねえ!
もう、ここに用は無いんじゃない?」
長い髪の女子も、大声で返事をする。
「そうね。
あのトンネルの出口も確認出来たし、
半魚人の正体も分かった。
調べはついたのだから、さっさと帰りましょ!」
「う、うん!」
その3人は、まとわりつく村の男たちを何とか振り払って、集会所の外に出た。
そのまま立ち止まること無く、走って村を出ていく。
「待ってくれよー!」
「俺の嫁さんが、逃げていったぞ!」
後ろからは、村の男たちが追いかけてくる。
しかし、村の男たちは酒が入っていて、その足は速くはない。
その3人は、振り返ること無く、全力疾走する。
「捕まったら、お嫁さんにされる!」
「早く逃げるわよ!」
「あのトンネルに逃げよう!」
そうして、その3人は、
砂浜に足を取られながらも、
なんとかあのトンネルの中に逃げ込むことができた。
その3人は、真っ暗なトンネルの中に飛び込んだ。
後ろからは、村の男たちが何人も追いかけて来ている。
その3人がトンネルの中に入ったのを見て、
村の男たちも、トンネルの中に入ってこようとする。
しかし、
そのトンネルは狭く、
小柄な女子生徒ならともかく、
大の大人の男が入ってくるのは、大変そうだ。
体を横に向けたり、腹を引っ込めたり。
中々入ることが出来ない。
そうして先頭の1人が引っかかっている間、後ろの男たちは通れない。
村の男たちがトンネルに引っかかっている間に。
その3人は、トンネルの側道を抜け、
トンネルの本道にまで戻ってきた。
振り返って側道の様子を探ると、
村の男たちは、やっとトンネルの側道に入ったようだ。
追いかけてくる足音が、側道を上がって近付いてくる。
「どうしよう。
このままじゃ、村の人たち、すぐにここまで来ちゃうよ。
最後に側道を出たおかっぱ頭の女子が、
肩で息をしながら苦しそうに言う。
しばらく休まないと、これ以上は走れそうもなかった。
「気休めだけど、立て掛けてあった板を戻しておこう。」
ツインテールの女子が、立て掛けてあった板で側道を塞いだ。
それからしばらくして、
その板の向こう側に、人の気配が近付いてきた。
村の男たちが、板の向こう側のすぐそこまでたどり着いたようだ。
しかし、その人の気配は、
側道から先までは追いかけてくるつもりがないようだ。
足音は止まり、立て掛けてある板をどかす気配も無い。
その代わりに、板の向こう側から、
あの日焼けした男の声が聞こえてきた。
「あんたたち、怖がらせてしまったかなぁ。
もしそうなら、すまなかったなぁ。
俺たち、おなごに逢うのは、久しぶりだったからなぁ。
ちょっと悪乗りが過ぎたみたいだ。」
男の声は穏やかで、恐縮してる感じが伝わってきた。
話は続く。
「村のもんたちには、
俺が後でよく言って聞かせるから。
どうか、許してくれ。」
頭を下げているのだろう。
ごそごそと気配が動く音が聞こえた。
さらに、男がごそごそと動いて言った。
「これ、些細なものだけど、よかったら貰ってくれ。
お詫びの品というか、お土産だ。
ここに置いておくから、後で持っていってくれ。
じゃあ、俺は帰るから。
本当に、すまなかった。」
そう言い残して、板の向こうから人の気配が消えた。
気配が消えたのを察して、その3人が小声で話をする。
「あの人たち、もう追いかけて来てない?」
「多分。
もう声は聞こえないし、足音もしないわ。」
「わたし、こわかったよぅ。」
その3人は、トンネルの中で腰を抜かして尻もちをついた。
おかっぱ頭の女子は、泣きべそをかいている。
そのまましばらくして。
息が整ってから、ツインテールの女子が口を開いた。
「役場の人たちが、
下の村のことを話したがらなかった理由。
それが今、わかったよ。」
「どういうこと?」
隣りに座っていた長い髪の女子が、顔を傾けて尋ねる。
ツインテールの女子は、やれやれという感じで説明した。
「あの村の男たち、
女とみれば、誰でも構わずお嫁さんにしようとするんだもの。
きっと、役場の女の人たちも、
あたしたちと同じ目に遭ったんじゃないかな。
だからみんな、村の話をしたがらなかったんだよ。
覚えてる?
あの時に話を聞こうとした相手、たまたま全員女の人だった。
だから、話を聞くのを断られたんだよ、きっと。」
「・・・確かにそうね。
あやうくお嫁さんにされかかったなんて、他人に説明したくないわね。」
そう言ってから、
長い髪の女子は、ギョッとしてツインテールの女子の顔を見た。
へとへとになったツインテールの女子。
その頭が、左右あべこべになっていた。
長い髪の女子が、ツインテールの女子の頭を指差して言う。
「あなた、
ツインテールが片方、ほどけちゃってるわよ。」
ツインテールの女子は、頭を触って確認する。
「・・・ほんとだ。
ヘアゴム、どこかに落としちゃったみたい。」
仕方がなく、髪の毛を結わえておく。
それを見て、長い髪の女子が尋ねる。
「・・・取りに戻る?」
「止めておく。
今度こそ、帰って来られなくなりそうだから。」
「わたしも、もうあの村には戻りたくないかも・・・。」
おかっぱ頭の女子が、やっと息を整えて会話に参加した。
その様子を見て、長い髪の女子が2人に言う。
「もう夕方よ。
あなたたちも疲れたでしょう。
そろそろ旅館に戻りましょう。」
「うん、そうだね。」
「あっ。
でもその前に、お土産を貰っていこう。」
懲りもせず、ツインテールの女子が、わくわくと立ち上がる。
そして、側道を塞いだ板の前に立って、ごくりと喉を鳴らした。
「・・・もしかして、罠だったりして。」
「もう人の気配は無いし、大丈夫だと思う。」
おかっぱ頭の女子が、頭を横に振って応えた。
ツインテールの女子が、立て掛けていた板を慎重に外す。
誰もいないのを確認して、中を覗く。
側道に入った、すぐそこの地面。
そこには、
きれいな青色をした、巻き貝の貝殻が3つ、置いてあった。
それを拾って手の平に乗せて、2人にも見せる。
「見て、こんなのが置いてあったよ。」
「きれいな貝殻ね。」
「わぁ、素敵。」
長い髪の女子とおかっぱ頭の女子は、
目を輝かせてその青い貝殻を手に取った。
ツインテールの女子も、
残った貝殻を手にとって、鼻でため息をついた。
「あんなに迷惑させられた詫びが、きれいな貝殻だなんて。
ずいぶんとかわいい迷惑料だこと。
でも、素直に謝ったことと、
この貝殻のきれいさに免じて、許してあげる。」
そうして、その3人は、
青い貝殻を手に、旅館に戻った。
その後。
温泉旅行はつつがなく終わり、その3人は自宅に戻った。
それからしばらく経って。
日常生活に戻り、温泉旅行の気分も抜けた頃。
その3人は、いつもどおり、
放課後の学校に居残って、おしゃべりをしようとしていた。
それは、その3人の日課みたいなもの。
しかし、今日の話題は、いつもとは違っていた。
長い髪の女子が、深刻そうな顔で話し始める。
「今日は、2人に話があるの。」
「話?」
「深刻な顔になって、どうしたの?」
長い髪の女子は、2人の問いには応えず、
鞄から大きなファイルを取り出した。
バサッとそれを開いてみせる。
中身は、新聞の切り抜きを集めたスクラップブックだった。
「何、それ。」
「新聞の切り抜き、かな?」
ツインテールの女子と、おかっぱ頭の女子が、スクラップブックを覗き込む。
長い髪の女子は、スクラップブックのページを捲りながら、話を続ける。
「ええ、そうよ。
これは、新聞の切り抜きを集めた、スクラップブック。
ところで2人とも、
温泉旅行で行った、トンネルの先の村のことを覚えてる?」
その問いに、ツインテールの女子が嫌そうな顔で応える。
「覚えてるも何も、思い出させないでよ。
せっかく忘れてたのに。」
おかっぱ頭の女子も、あまり愉快な表情はしていない。
「わたしも、あんまり思い出さないようにしてた。
男の人たちに囲まれたり追いかけられたりして、すごく怖かったから。
あの村の人たちには悪いけど。」
長い髪の女子の話は続く。
「実は私、
あれから、あの村のことについて調べてたの。
そうしたら、見つけたのよ。
図書館でこれを。」
「見つけたって、何を。」
「これ。
この新聞記事。
2人とも、ちょっと見てみてよ。」
「どれどれ・・・」
3人でスクラップブックを覗き込む。
そのページには、新聞記事の切り抜きが綴じられていた。
その新聞記事の切り抜きは、
災害被害についての記事だった。
その新聞記事には、
少しだけ昔に起きた、ある災害について書かれていた。
ある地方の、ある村。
その村は、三方を岩壁に囲まれた、海岸に面した場所にあった。
それが、突然の災害に襲われた。
ある日の晩。
その村に突然、大波が何度も押し寄せたのだ。
特異な立地の影響もあって、
村はあっという間に大波に飲まれてしまった。
村人たちは、大波が来ることを知らず、
また、皆が寝静まっていた時間帯だったのもあって、
多数の人が大波にさらわれてしまった。
また、なんとか流されずに済んだ人たちの避難も、困難を極めた。
その村から外部に通じる道は、岩壁に作られた小さなトンネルだけだった。
その小さなトンネルは非常に狭く、一度に通れるのは大人一人が精一杯。
再び大波が来るまでに、避難しなければならない。
しかし、時間までにその小さなトンネルの中に逃げられる人数は限られる。
そこで、村の男たちは協力して、先に小柄な女子供をトンネルの中に逃した。
そして、老人たちをトンネルの中に逃したところで、大波が押し寄せた。
村の男たちは、トンネルの中に入るのも間に合わず、
大波に飲み込まれてしまった。
結果として、村の男たちは全滅。
遺体すら回収出来なかった者も大勢いた。
その後。
村は放棄され、逃げ延びた女子供と老人たちは、
トンネルの先、山の上にある町で暮らすようになったという。
そこまで読んで、おかっぱ頭の女子が口を開いた。
「小さなトンネルで外部と繋がった、
岩壁に囲まれた海岸に面した村?
それってまさか・・・」
ツインテールの女子が、呆然として言う。
「大波で、村の男たちは全滅って。
じゃあ、あたしたちが遭ったあの人たちは・・・」
「村に繋がるトンネルの出口が使われなくなったのも、
上の町の人たちが、事情を話したがらなかったのも、
全て分かったような気がするわね。」
その3人は呆然と新聞記事を見ていた。
それから、ぼそぼそと口を開き始める。
「そういえば、あの村、
男の人たちばっかりで、
女の人や子供は見かけなかったね。」
「村の男たちが、あたしたちにご執心だったのは、
逃げ延びた女の人たちの姿が被って見えたから?」
「どちらにしろ、悪気は無かったのかもしれないね。
それなのに逃げてきちゃって、
わたしたち、悪いことをしちゃったかな。」
「あの村まで、謝りに行ってみる?」
「ううん。
多分、もう行かないほうがいいと思う。」
「そうだよね。
何が起こるか、分かんないし。」
その3人は、しゅんとしてしまった。
そのまま、誰も口を開かなくなった。
夕暮れの教室で、遠くの生徒たちの声が響いてくる。
しばらして、
ツインテールの女子が、思い出したように顔を上げた。
「そうだ。
あたし、あの時に貰った青い貝殻を、持ち歩いてたんだ。」
「私も、鞄に入れてあったかも。」
「わたしも。」
ごそごそと荷物の中を探すと、
3人とも、あの時に貰った、青い貝殻が見つかった。
その3人は、青い貝殻を手にとって、身を寄せ合う。
青い貝殻を耳に当てて、目を閉じる。
そうして、静かに耳を澄ましていると、
青い貝殻から、
あのトンネルの出口の先で聞いた、
穏やかな波の音が聞こえてきたのだった。
終わり。
トンネルをテーマに話を書こうと思って、この話を作りました。
トンネルには入口と出口が設定されているということで、
もしも両側が入口のトンネルがあったら、それはどういう事情からか、
ということを考えながら、話を作っていきました。
お読み頂きありがとうございました。




