2-1 新入部員
「おはよ」
「おはよ〜早いねノブ」
「サキには適わないけどな」
翌日俺はいつもの待ち合わせ場所でみんなを待っている。
今日も5分前に到着。我ながら素晴らしい出来だ。
「いよーす…早いねお二人さん」
「ヒデ。お前にしちゃ早いな」
「そりゃ寝なかったら遅刻しないだろ…」
「オールは健康に悪いよ〜?」
「俺だって寝たかったさ…でも……ニコチンの野郎が!!」
昨日事が落ち着いてからヒデに電話をかけたら
「お前のせいで変な奴に絡まれたんだぞ!!この疫病神!!死ぬところだったじゃねえか!!」
といきなりまくしたてられた。
何か相当キレてる。
「何でそんなにイライラしてんだ?」
「はぁ!?これがイライラせずにいられるか!!俺のプライドが傷ついた上に勢いで禁煙するって言っちゃったんだよ!!だからニコチンが足りなくてイライラしてんだよ!!」
「あ…なんかスマン」
「謝るならニコレットくれ」
なんだよそれ…
そういうわけで禁煙始めたっぽい。
つーか依存症って不眠作用あんのか?まぁ禁煙するのはいいことだけど。見つかって謹慎とかになったら面白くないしな。
「ごめん!遅れた!」
ミナも来たことだし行くか。
チャリに乗って4人揃ってゆっくり登校する。平和だねぇ。
「「セーフ!」」
何これ?デジャブ?
余裕だと思っていたら案外ギリギリで教室に入れた。
…のはミナとサキだけ。
「アウト!ヒデ君は2日連続じゃない!もっと急がないと!」
案の定白石先生は大層ご立腹のようで。
「いや…あの先生…ものすごい逆風が…」
ヒデが必死に言い訳する。頑張れ。
「今日はほぼ無風だけど?」
「それがですね…俺にだけすごい逆風が吹いてですね…」
「人生の逆風の間違いじゃないの?」
「そ…そんなこと言わなくてもいいじゃないですか…そうですよどうせ俺は神様に嫌われてるんですよ…こんな俺なんか産まれてこなければよかったんだ…母ちゃんのお腹に戻りたい…ブツブツ…」
なんかすごい負のオーラを発しているぞヒデよ。
「わかったなら早く職員室行きなさい」
「うぃーす。ほら、行くぞ」
「逝く?そうか…よく頑張ったよ俺…もう疲れたよ…なんだかとても眠いんだ…パトリオット」
「どこの愛国者だ」
「ブツブツ…」
こりゃだめだ。引きずってでも逝かす…行かすしかない。
そして階段という難関をなんとかクリアして職員室の前に来た。ヒデは
「あぁ…パトリオットもうすぐ行くよ」
とか呟いてる。もはや何のパロディか分からない。
「失礼します。遅刻届けを取りに来ました」
ガラガラと職員室のドアを開け、入った途端に俺たちに冷たい視線が突き刺さる。俺たちは教師陣にとても評判が悪い。
「またあいつらか…」
「やっぱり部活の退部を認めたのは間違いだったのでは?退部してから一段と素行が悪くなっている気が…」
「あんなクズ共は続けていても意味はないだろう」
「これだから三中の連中は…我が校の評判が落ちるところだった」
「あいつら三中で不良の頭だったですからね。よく入学できたものです」
全く…よくそんなにたくさん俺らの陰口を言えるな…。
しかも全部聞こえるように言ってやがる。
「あいつらと一緒に登校している女子2人も変な奴らではないだろうな?」
「遅刻届けはどこですか!!」
ミナとサキのことまで言い出しやがって。嫌な教師共だ。
「そこだ…さっさと書け」
眼鏡をかけた中年の教師が冷たく言う。
ったく昔の話をグチグチと…。
「耐えろよ。ノブ」
「わーってるよ」
やはりヒデもいい気分ではないようだ。苦虫を潰したような顔をしながら遅刻届けを書いている。
俺たちは職員室を出て教室へと向かった。
そして放課後。
隣の席のミナは部活の準備を忙しそうにしている。
「さ〜て部活頑張ろ!」
「頑張れよー」
「なによ、その気持ちのこもってない応援」
「いや〜暇だなぁと思ってな」
「じゃあ何か他の部活始めたら?」
「俺はバスケ一筋だ」
そう…俺は元バスケ部、ヒデは元野球部。ケンは…ずっと帰宅部。
「そういえばあれは?」
「あれって?」
「なんだっけ…えっと…」
「万事団のことかい!?」
どこからともなくケン登場。つーか同じクラスだったか。
「あ〜あれね。面倒だから入んない」
無償で人助けをするほど俺は優しくないんでね。
「そうか…これを見てもまだ気は変わらんか?」
そこにいたのはリオとレイ。何してんだ?あ…そういや一緒に帰ることになってたな。
「新しく万事団に入部しましたリオです!よろしくね!ノブ」
えっ?えぇぇぇぇぇぇぇ!?入っちゃうの!?
うわ…しかもそんな上目遣いで見るなよ。しかもなんで満面の笑み?つーか呼び捨てになってる…前からだっけ?
「いや…俺はめんど…」
「ノブ…万事団辞めちゃうの?」
そ…そんなに目をウルウルさせるなよ…決心が揺らぐ…
「わ…わかったよ」
「ホント!?じゃあこれからもよろしくね」
再び笑顔。普通の男なら確実にノックアウトだ…俺?俺はもちろん普通の男だ。
「ちょっと!面倒じゃなかったの!?」
ミナがいきなり俺を問い詰める。
「なんでお前が口を挟む?」
「そうよ。ミナさんは無関係じゃない」
「くっ…!じゃあ私は部活に行く。バイバイノブ」
「おう!頑張れよ」
なんかイライラしてたけど大丈夫だろうか?部内で喧嘩とかしなかったらいいんだが…
「ふふふ…私は下校と部活。あっちは登校とクラス。これでイーブンだわね」
「リオ…なんか黒いオーラ出てるよ…」
「なぁケン。あいつらは何話してんだ?ミナとリオ何か勝負でもしてるのか?」
「モテる奴は死ね!」
「えっ?なんでキレてんの?」
「一応自分がモテないって気づいてんだな」
いつのまにかいたヒデが…ってコイツも最初からいたな。
「うるせえ!」
「なんかケンってかわいそうだね」
「じゃあ付き合ってあげたら?」
「あはは…冗談やめてよ。有り得ない」
レイの笑いながらの一言にケンは再起不能に陥る。燃え尽きたな、真っ白な灰に…誰とも闘ってないのに。
「じゃあ今日の活動開始するぞ!」
『おー!』
部長が死亡したので副部長のヒデが声をかけて、今日の活動がスタートだ。
さぁ今日は誰が来るかな?
暇だ!
確かに考えてみたらそんなにトラブルは起きないよな。
この部って需要ないんじゃ…
そう思ったが入部してしまった手前そんなことも言えずに時は過ぎていった。