表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
61/64

宇宙戦艦の古代天人来訪説

「ここが例のカードが発見された場所か」


 その様に助手のマヴァース君に改めて確認を取ると私はその建物の内部を調査し始めた。この階層では大小の建造物が点在しているが中に立ち入ることが出来るものは稀でここはその一つであった。内部の壁や天井などはラエンドークの街同様に真新しいのであるがツタが辺りを這いまわっており、また、動物の侵入もあったのか一面、土埃にまみれていて往時の様子をうかがい知ることは出来ない。私は部屋同様に薄汚れた固定で備え付けられている机や棚を調べたが特に新しい何かを発見することは無かった。

 その後、同様に内部を調査していたマヴァース君も同様に空振りであったことを確認すると一旦、外部に出る事にした。


 部屋の外に出て辺りを見渡した私は改めてここの奇観に嘆息した。


 ここはラエンドークの街よりさらに上の山の中腹辺りとなるわけであるがラエンドークのある階層の数倍ほど天井が高く、100メルダ程はあるだろう。そこに非常に整った立方体のガラスと石で出来た高層の建造物が立ち並び、一方ではこれまた巨大な車輪の様な構造物や空中を這いまわる透明な筒や場違いな木造船等、その他様々な正体不明なオブジェがそこらに点在していた。

 しかし、永らく誰の手も入らなかったためかそれらは『マヌドツワージュ』大樹海より侵入したであろう繁殖力旺盛な木々や植物に侵食されており、それが却って荒廃の印象を深めている。

 これ程の超文明であってもいずれ打ち捨てられるであろう運命を目の当たりにすると我々、知恵ある者の世の営みのいずれ訪れるであろう運命の無常を覚えずにはいられないのである。

 なお、それでもここの構造物が廃墟であるということには当たらない。ツタや草木に紛れて土埃にまみれようとも一度、それを取り除けば崩れた箇所も錆も無く、新築同様の姿を取り戻すのである。あたかもそれは帰らぬ主を待ち続けて眠る巨大な獣の様でもありその有様が一層この景観を得意なものと傍観者に印象付けるのであった。


 その様な感慨に独り浸っているとマヴァース君から声が掛かった。


「クタエス教授。先ほどの物について写しが終わりました」


「ああ、ご苦労」


 今までの調査では特に目立った成果は無かったが、ここでは違った。


 それは『文字』の発見である。


 例のカードでも未知の文字の存在は確認していたが、それらの種類は非常に限られており、文法はおろか単語も解読不明な状況であった。それはここ以外の階層でも同様でその文字をみかける事は稀であったのだがここでは様相が違った。

 まず、この場所に立ち入った時に目に入ったのは大きな地図である。そこにはここにある構造物がデフォルメされた形で描かれており、その横にそれぞれ例の文字が書き記してあった。また、その地図の下にもこの場所を説明するかのようにかなり長い文章の存在が認められたのである。その他にもそれぞれの構造物の脇にもそれを案内するかのように文字や文章を著した碑や板が存在し、あたかも未知の文字の見本市の様であった。


 我々はこの文字を解析するため余すところなくそれらを書き写すことにしたのである。これ程のサンプルがあればこの正体不明の文字の解読もある程度期待が出来るであろう。

 何故、ここまで文字の解析に力を入れるのかというとそれは数日前に我々が行った調査方針の転換にあった。


 現状、我々が自身が持つ技術ではこの遺跡の超技術から存在理由について解明するのが不可能であるならば、それを成した当の本人に教えてもらえば良いのだという結論に至った。要するにここの遺跡の建造や目的を記録を示す文章なり書物なりを見つけて読めばいいのである。それにはまず先にこの正体不明の文字の解読が必須であった。


「よし、続けて他の文章も記録するとしようか」


「はい、承知しました。クタエス教授」


 そのようにマヴァース君に声をかけると私は次の構造物へ歩みを進めた。

 それから暫く、建物から次の建物へ移動しながらここの風景を見て改めて私は想う。


 ――今、この目にしている景観を実現する超技術やそれを成すための膨大なエネルギー源は一体、何なのであろうかと。


 そんな私の脳裏を過ったのは考古学でも異端とされるある説の事であった。


 考古学では非常に金がかかることは先に述べたが、遺憾ながら学究の徒であるはずの本来の道を踏み外して糊口を凌ぐためまたは資金を得たいがためか、金儲け主義に陥ることがままある。要するにそういった一部の者が真実の歴史の追及では無くただ単に他人の歓心と金を得たいための裏付けのない真偽の怪しい説を唱えることがあるのだ。

 そして、その様な者達が声高に主張する説の中にその『古代天人来訪説』があった。


 ――古代天人来訪説

 それは有史以前に天から神にも等しい存在がこの世界に舞い降り、我々に様々な干渉を行ったというものである。その内容は噴飯物の一言であり、遥か太古にただ地を這うだけの存在であった我々の祖先を哀れんで言葉や知恵を授けたとか、元は一つの種族であったのをその存在の怒りに触れて様々な種族に分かたれただの、その存在の意思に反抗して自らが勝手に作り上げた偶像を崇拝する者たちを空を飛ぶ鉄の城をもって雷を振らせ都市ごと滅ぼしたというものであった。


 当然、真偽も定かでない文明も未熟な遥か昔の神話を元にしたこじつけであり、それ以外に何の拠り所も無い以上、およそ常識のある学者であればただ単に異端の妄想としか認識されず全く相手にされていなかった。

 そして、それらの説が最も忌避される原因の一つがそれを無理矢理、さも事実であったかのようにお決まりのように合わせて唱えられる、現在の我々の及びもつかない太古の失われた神秘の『超パワー』だの『超魔法』の存在なのである。無論、その様なものの存在が未だかつて事実として確認されていない以上、まともな学者からすれば最早、詐欺師の戯言(たわごと)として一考の価値も無い事は言うまでもないであろう。


 であるならば現在私が目の当たりにしているこれらの未知の超技術やそれを維持するために存在すると思われる膨大な力は何なのだろうかと自問すれば、それらの妄言を肯定しそうになり危うく自身のこれまでの知識や経験が全て足元から崩れそうな感覚に襲われて不安になるのだ。


 もしかしたら今この瞬間、自分の研究人生の岐路に立ち入ろうとしているのかなどと考えていたところで護衛隊長のビーポーンから声が掛かった。


「教授。ちょっと止まってくれ。フラミルが何か見つけた」


 そう告げられて護衛隊の斥候である『ラーメタルト』族のフラミルを見るとその特徴的な長い耳を僅かに震わせながら少し離れた前方の木々をにらんでいるのが目に入る。


 その視線の先に目を向けると間を置かずに一匹のシカが木陰から飛び出したかと思うと次の瞬間に炎に包まれて短い悲鳴と共に倒れた。突然の事態に危うく上げそうになる声を抑えてそのまま見ているとのっそりと深紅の体躯を持つ一頭のキタショウジョウツルギオオカミが姿を現した。それは一瞬、我々の方を一瞥しただけで倒れたシカを加えると再び木々の間にその身をひるがえして立ち去った。


 それからしばらくそのまま調査隊は戦闘態勢を維持していたが


「もう大丈夫だ、警戒を解いてもいいぜ」


 フラミルがそう告げると一同は手にした武器を下げて通常の状態に戻った。


「やれやれ。

 この遺跡の内部が快適なのは良いがこう魔獣が多いのは頂けないな」


 そう、ビーポーンが呟くのを聞いた私は答えた。


「分かっている。

 いつも通り、引き際については其方に任せよう。すべてが終わって無事帰還できた折には報酬を上乗せするつもりだ」


「別に催促するつもりはなかったのだが。

 まあ、ありがたく頂いておこうか。よろしく頼むぜ、教授」


 そのようにこのやり取りを終えたものの現状、この階層に至るまでにも幾度か危険な魔獣と遭遇しており、今回の調査の困難さをより一層深めていた。そもそもこの遺跡以前に『マヌドツワージュ』大樹海全域が未開の状態でありここに存在する動植物の全容などはほとんど分っていないのだ。その上、よりよい棲家を求めて周辺のあらゆる野生生物がこの遺跡内に集うとなればいよいよその密度が増して、場合によっては危険に遭遇する確率が外部より格段に高くなるというわけである。


 その後も同様の事例が発生して前進と停止を繰り返しつつ、各構造物近辺の文字や文章の記録を滞りなく続けていると、この階層にある中でもひときわ巨大な構造物の前にたどり着いた。


「これはまた……大きいな。しかし、これは一体何なのだ」


 その建物は遠目からからも目に付いていたが間近に来るとその大きさが際立つ。外見は横に広い長方形で高さはこの階層の半分以上にもあり、他の建物同様全体にツタが絡まり葉が生い茂っていた。しかし、その他には入口と思しき固く閉ざされた大きな両開きの扉が一つあるきりでツタからのぞく鈍い光沢を放つ黒い壁には余計な装飾どころか一切の窓も確認できない。ビーポーン達が罠などの存在をチェックして安全が確保されてから私はその建物の前まで近づくと侵入する手段か無いか扉やその周辺の壁を確認する。


 しかし、暫くして扉にも壁にもその様な手段は確認できず見切りを付けようとしたところで突如、『ピーピー』という甲高い警告を示すような音が辺りに鳴り響いた。何事かと周囲を見渡すと直ぐにその音が同じように建物を調べていたマヴァース君のカバンから発せられている事が分かった。


「マヴァース君!」


「は、はいっ! 教授、分かりました!?」


 マヴァース君は慌てるようにカバンの中を探ると例のカードを取り出した。未だ音が発せられているそれはこれまでにない様子で明滅を繰り返してその表面に複雑な文字を浮かび上がらせていた。それを目にした私はそのカードに手を伸ばそうとした瞬間――


 シュン!


 という短い擦過音とともに目の前の建物の扉が消失するように開き、その巨大な建物の入口がその内部をさらけ出した。


「なっ! これは?」


 そこに居た調査隊全員がその突如開いた入口を注視しつつ硬直する。内部には灯りがあるようだがやや薄暗く、ここからではほとんどその様子が確認できない。そして、内から何かが出てくる様子もないまま誰一人も言葉を発すること無く幾ばくかの時間が経過した後、ようやくビーポーンが口を開いた。


「で、どうするよ。教授」


 そう尋ねられた私は


「申し訳ないが、今回も付き合ってもらえるか?」


 と、彼の目をじっと見つめながら答える。

 ビーポーンはそれを聞くと仕方がないという風に少し肩をすくめて


「分かったよ。教授。

 まあ、毎度の事だが言っても聞かねぇしな」


 と了承した。

 そして、彼は他の護衛達向かって大きな声で言葉を発した。


「いいか、お前ら!

 こっからは命の保証はできねぇ!

 覚悟のある奴だけ付いて来い!

 命が惜しい奴はここに残れ!

 ただし、残る奴は中で何か見つけても分け前無しだ!」


 そう宣言したのを聞いた護衛達は一瞬顔を見合わせたが結局、誰一人欠けることなく同道する事を示して運命を共にすることを誓った同志となった。


 ここは我々の及ばぬ未知の技術の領域である以上、また、その危険性も我々の及ばぬ未知のものであることは否定できない。この先はおそらく誰も立ち入った事が無い場所であるならば身の安全は当然の事、命でさえ一切保証できないのだ。

 しかし、それでもこの先に待ち受けるかもしれない栄光に比べればそれは些細な事にすぎない。全てを真実の追及に捧げた学究の徒なら尚更である。巻き込んでしまったその他の者たちには申し訳なく思うが成功の暁には私が可能な限りの十分な報酬と栄誉をもって報いねばなるまい。


「皆、ありがとう。では進むとしようか」


 そう改めて調査隊全員に告げると私はその入り口から内部に踏み込んだのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ