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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
59/64

宇宙戦艦の異世界ふしぎ発掘!

ここより暫くは異世界側の視点の話が続きます。

 私はクタエス・テダ・カツーアソルゴ。考古学者である。


 考古学とはこれまでの歴史家が当時の政治や宗教観に左右された不正確な情報を記述していたものとは異なり、実証に基づいたただひたすらに過去の真実の歴史を探求するという最新の学問である。


 昔の歴史家が著してきたこれまでの歴史書はその所属している国や文化の影響を受け、意図的に情報を隠蔽したり時には改ざんするというのが常であった。のみならず真偽不明な怪し気な伝説や神話を含んだり、特定の偏った当時の宗教観に基づいているものも多く、時に現在の正確な歴史認識を大きく妨げる要因となっていた。

 そのような中からこの世界共通の貴重な財産であり我々のルーツである真実の歴史を探求するべく生まれたのがこの『考古学』であった。先進諸国の図書館より始まったそれは室内のみでの情報では不足と見るや多くの者達が危険な未開の密林の奥地から鳥も寄せ付けない酷暑の不毛の砂漠まで赴いて、ただひたすらに真実を追い求めるべく旅立ったのである。


 考古学を志す者に求められるのは非常に多い。すでに判明している歴史やその変遷、それを原本から読み解く古今の多くの言語読解力、その他多数の知識を有する事は当然である。

 そしてそれ以上に重要なのは時に自ら遥か遠方に赴いて目的の探求の為に命を落とす可能性も顧みずに調査を達成して生還する強靭な意思と肉体であろう。

 最後に必要となるのが経済力である。平たく言えば金のことであるが兎角、考古学には金がかかる。研究に必要な資料の購入はもちろん、遠征での調査となれば渡航費や場合によっては護衛も必要となる。現地に着いては滞在費、案内人や荷運び人足の雇用、状況においては有力者への賄賂など膨大な費用が求められるのだ。

 ――つまるところそれら全てを兼ね備えた選ばれし者だけが許される高尚な学問なのである。


 幸いにも私は先進国であり有数の財力を誇るトノリュード連合王国の傍系王族に生まれて最高の教育を受け、周囲への理解の徹底と自身の功績と自国に持ち帰った歴史的財宝により十分な活動資金を得ている。それらを背景として私はかのジェクブルートの古代第三王朝遺跡を始め、その他数多くの発見を成して考古学会において不動の栄誉を手にしたのだ。


 そんな私の耳に入ったのは『マヌドツワージュ』大樹海の山中にある遺跡の噂についてであった。


 聞けば聞くほど眉唾物の荒唐無稽な話で私を含めて考古学会の誰も全く関心を払わなかったがある時、旅商人がその遺跡より持ち帰ったという物を見てその態度を改めざるを得なかった。決して少なく無い額の金で購入したそれは手のひらに収まる大きさの一枚のカードだ。ガラスのように透明ながら紙のごとく薄いそれは半分に折り曲げられる程の柔軟性を持ちながら折り目もつかず破れもしなかった。その上、ナイフを突き立てても受け付けず、火にかざしても燃えもしないのである。

 それ以上に不可解なのは手が触れると私の知る限りどのような体系にも属さない未知の文字がその表面に光を発しながら浮かび上がる事であった。


 いったい如何なる技によるものか――その事をそのカードをもたらした商人に問いただしたが、首を横に振るばかりで私が望む答えは全く得られなかった。仕方なくそれを入手した場所について商人から聞き出した情報は相も変わらず要領を得ない怪しげな話ばかりであった。

 しかし、この世界の常識を遥かに超えるを物体を目にしている今、それを一笑に伏すほど私は因循固陋(いんじゅんころう)では無い。その不可解な事実が一枚のカードとなって目の前に厳然として存在している以上、真実を唯一の神と崇める学究の徒としてその真偽を明らかにしなければならないのである。


 その様に思い至った私は即座に探索隊を組織して現地へと向かったのだった。


 そして、現地で目の当たりのは私のこれまで自身が培ってきた知識と経験を悉く覆す驚愕の発見の連続である。


 まず、その遺跡の内部で目にしたのは辺りを外部と同じように照らしだす光だった。天井を見てもその様な照明は見当たらず、あたかも天井自体が発光している様で光源が皆目見当がつかない。甚だしい事にこの光は内部にある居住地区はおろか通路や階段の隅々まで及んでいるのだ。


 一体如何なる力によるものであろうか。松明などの炎以外の魔力による照明は他の遺跡にも存在するが、それはあくまで王族の墓室などの主要区画に限られているのであってここまで大規模に行使されているものは存在しない。それらの魔力による照明にしてもその原理は現在でも見ればわかる技術で構築されているのであるが、ここの物は原理どころか魔力の発動も感じられない全く未知の業であった。


 次に驚かされたのはこの遺跡の壁と床である。壁は侵食された植物が這いまわり、床はその堆積物に覆われているが、それらを取り除いた後に現れたのは金属とも陶器とも分からない平坦な板である。


 一般の特に関心のないものには一見、ただの奇麗な壁や床に見えるであろうが私にはすぐ解った。


 この壁や床には全く継ぎ目がない。更に異常な事には壁と床の接点にも隙間が無いのだ。


 他の遺跡でも平坦な壁というのは存在したが、それは精密な技術で成形された石なりレンガが積み上げられた後に漆喰などで舗装されているというもので、この様な理解不能な素材と建築技術ではない。そして、特筆すべき事はその強度である。その素材を確認するために突き立てたナイフは先が欠け、それではと振るったピッケルは事もなげに弾き返された。その後、あらゆる方法を試みたが壁の欠片どころか傷一つつかない有様であった。


 暫くその場で壁を調査した後に私は現地で雇用した案内役であるライグに問いただした。


「ここで今までこの壁を崩したり穴をあけたという者はいるのか?」


 なにか少し呆れるような視線で私が壁と格闘する様子をみていたライグは


「旦那。ここでは昔から『マヌドツワージュの山を崩す』という(ことわざ)があるんでさぁ。意味は『絶対不可能な事』ということで、おいらも婆さんのそのまたその婆さんの代からここに住んでんだけど今までそんな話は聞いたことがねえですだ」


 と『ボナールルト』族特有の猪に似た顔でずんぐりした体の方をすぼめながら答えた。


 むう……これではサンプルすら採取することも出来ないではないか。


 続けて今回の調査における護衛隊長のビーポーンからも声がかかる。


「教授。こっちでもデイタットにこの壁に対して簡易鑑別魔法を頼んだんだが正体不明の金属としか分からなかったぜ。鑑別では本人の知識にないものは判定できないんでデイタットが知らないだけかもしれないが、この感じだと今まで発見されてない金属の可能性が高い気がするな」


 『マニツルト』族のビーポーンはこれまで幾度もの遺跡調査を共にした旧知の中で虎に似た容姿で体格も私の倍もあるような偉丈夫であるが、その見た目に反して比較的新しい学問である考古学をも理解する優れた知性を兼ね備えた得難いパートナーでもある。

 粗雑な者が多い傭兵の中でも稀有な人材でもあり、今回の調査でも特に頼んで動向を願ったのである。


 私はそのまま、護衛隊での後方魔法要員であるデイタットに視線を向けると、彼はその『シウソーツルト』族特有の羊のような角といっしょに頭を気弱な感じで少し申し訳なさそうに縦に振っていた。


 せめて一片でもサンプルが採取できればここで鑑定が出来ずとも本国へ持ち帰り、もっと高度な鑑別魔法か魔法装置を使用して調査が出来るのだが……。


 その様にその場で独り思案を巡らしていると助手のマヴァース君から、


「クタエス教授。こちらでも周辺の物体について調査しましたが未知のものばかりで特に進展はありませんでした。これ以上、不明点を積み重ねても進展は無さそうですし一旦戻ってから整理して調査の優先度を決めた方がよろしいかと思います。辺りも暗くなってきましたので今日のところは引き上げてはいかがでしょうか?」


 と至極当然な提案がなされた。

 調査となるとしばしば時間も忘れて没頭する私を止めてくれる彼女は自分と同じ『マニツルト』族でも若く、人並み以上の容姿ながらも同じ学究の徒としてここ数年は私の片腕としてその才能を遺憾なく発揮してくれている。

 親子ほども歳が離れているが女性特有の細かな気配りをしてくれる彼女に対して私は自然とそのアドバイスに従う事が多くなっていた。


「わかった。今日はここまでとしてラエンドークの拠点へ戻ろう」


 そのように調査隊の皆に告げると改めて周囲を見渡した。

 これも全く理解不明であるがここでは遺跡の内部でありながら昼夜の区別があるようで夜になると照明が暗くなる。そうなると視界が悪くなることはもちろん夜行性の野獣や野盗が徘徊して危険度が増す。それらを排除するための護衛ではあるがわざわざそんな危険を冒す必要は今は無いだろう。


 そうして私は先ほどまでの苦労をあざ笑うかのように全く無傷で光沢を放き続ける壁に未練を残しつつその場を後にしたのであった。

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