表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
58/64

宇宙戦艦の積極的異世界知的生命体接触計画

 さて、取りも直さずAWIコンタクトミッション改めアクティブ(積極的)CAWI(異世界知的生命体接触)

(Contact with Another World Intelligence)について真面目に考えなければならない。


 先の会議で判明した通り、事前に用意されていてのは地球とのオンラインを前提としたものであって通信が途絶している現状では記憶領域を無駄に使用するゴミデータであり、そして目下我々が直面している異世界の住人に円滑かつ平和裏に対応できる知識を有する者は存在しない。


 こんなことであれば机上理論の折り目正しい学者サマとかでなく、いっそのこと想像力豊かな在野のSF作家にでも任せて何でもいいから想定できる限りの宇宙人対処マニュアルを作っときゃ良かったのである。例えば日本にも著名なSF作家がいらっしゃるではないですか。皆さんご存知『海底軍艦』でお馴染みの押川春浪(おしかわしゅんろう)先生とか、あの『火星兵団』を著して知らない者は無い海野十三(うんのじゅうざ)先生とか――他の方は全く存じ上げませんですけども。


 まあ、今更そのような愚痴を漏らしても何も変わらない以上、自分で何とかしなければならないのであるので何とか自力で無い知恵絞って考えたのであるが……。


 先ずは誰を対象として接触を図るかである。


 前提として単なる接触だけでなく将来的に艦内の支配、とまではいかなくともこちらが艦内秩序をコントロールできる程度の影響力を行使するための橋頭堡となるような協力関係が望ましい。

 艦内モニターにより予めある程度の情報は得ているが結局のところ直接話してみないとこちらに友好的なのかは不明である。艦内に言語を解する程度の知識を持つ住人がいるコミュニティは複数あるが大まかな傾向として大きな方は複数の種族が混在して外部にオープンであり、小さな方は単一種族で構成されていて排他的な傾向がある。

 一見、大きな方が入り込みやすいように思えるが内実はそこの支配者を始めとしてカタギからヤクザまがいの組織が多数混在して複雑な勢力図を呈しており、そのような前提を考慮するならばかなり慎重に接触を図る必要があると思われた。

 一方で小さな方は初めは取っ付きにくくはあるが一度信用を得てしまえばそのコミュニティ全体に顔が効くようになりそうではある。

 そう考えた俺は最初のこちらからの異世界コミュニケーション対象のターゲットとして後者を選ぶこととした。


 次はどう具体的に伝手を持つかという事である。

 目的を考えれば暴力を背景とした強要などは論外であるが、徒手空拳でこちらに害意の無いことを示して「やあ、こんにちは!」などど突撃しても身元を示す物など無いこの世界ではただの不審者である。テレビで田舎にタレントが飛び込みで住民と触れ合うみたいものがあるが、言うまでも無くあれは事前にスタッフが全てお膳立てして台本通りにやっているのだ。排他的な集落にアポなしで向かおうとするならば石持て追われることはもちろん、住人総出で身ぐるみはがされた上に野辺に(むくろ)を晒す位の覚悟が必要なのは世の理であるとも言えるのである。

 ともかく先ずは相手に対してある程度の利益となるものを示す必要があるだろう。

 対価を求めずに食料なり物資なりを渡すというのもあるがそういった一方的な利益供与は結果的に歪な関係を生むので望ましくない。

 とすれば行商人でも装って何らかのそこそこ先方を利する物品を取引する事で歓心を得るという手段もあるが、艦内モニターでの情報では貨幣と物々交換が混在しているこの世界の相場や商取引の機微までは判らないのでそれも中々難しい。


 そこで俺は自身の居た時分の地球の創作物のテンプレよりある方法を思いついたのである。


 それは――偶然、コミュニティ外に一人で外出した所で危険生物に襲われている村娘A(もしくはお姫様)を助けて伝手を得る――である。


 俺が日本に居た頃には異世界転移だの転生もののライトノベルがたいそう出ていて、その中でそういった定番のイベントがテンプレとして存在していた。

 そのようなものは創作物の中の異世界で何の伝手も無い主人公が導入としてその世界の情報とコネを得るとともに舞台設定を説明するという読者に対してキャッチーな序盤のイベントであって、現実に考えれば満員電車で痴漢にあった気弱な女学生(ちゃんと美少女)を助けて(ねんご)ろになる位ありえないシチュエーションではある。

 事実、俺が最初の接触したのはリース達こと欠食ヒュドラである。それにしたって言語を解してこの世界の知識を有する存在であるので僥倖(ぎょうこう)とも言えなくも無いが彼女らには強者ゆえかこの艦内で他の住人への伝手が皆無のガチボッチであった。

 まあ、それはいいとしてその村娘A救助イベントであるが障害を排除出来る相応の武力があれば当人と所属しているコミュニティに簡単に好意を得ることが出来る上に、こちらに争いの意思が無く友好的である事を自然に証明できるというなかなか良く出来た設定であると思われる。特に暴力以外に元手が必要ないのが素晴らしい。


 問題はその様な都合の良いトラブルに自身が偶然居合わせるという空想上のお話では定番でも現実ではほぼあり得ないこの状況をどのようにして成立させるかという事である。


 最初はマッチポンプとしてこちらの危険生物を模したロボットでもけしかけようとも思わなくも無かったが、既に複数の部下を持つに至った現状でそのような姑息な陰謀をこの艦のトップであらせられるこの俺自身が提起するのは一応真っ当な組織を目指している手前、今後の政略面から鑑みても望ましくない。それ以前にそんなセコイ真似は嫌だし、後で事の真相が相手に露見した場合は目も当てられない。


 という訳でそのイベントの発生自体は偶然に任せて即座にこちらがその場に馳せ参じるという事にしたのである。


 遺憾ながら決して治安が良好と言えない艦内の現状では月に幾度かその様なトラブルが発生している。艦内のモニタリングによってそれらの事は逐一こちらで把握しているが、その様な犯罪や事件であっても基本的にこの世界への不介入方針を掲げている我々はそれらについてもこの世界の摂理としてこれまで放置していた。

 しかしながら今回の趣旨を各員に説明したうえでその様なトラブルが艦内のターゲットとなるコミュニティ周辺で発生した場合は積極的に介入するよう方針転換したのであった。既に情報処理担当の通信長であるハツシモに命じて彼女を中心に特別監視体制を構築済みである。


 我ながら恐るべき神算鬼謀ではあるまいか。まさに異世界に顕現した陳登ともいうべきであろうか。いや、せめて郭嘉くらいにして頂きたいものである。


 さてその特別監視体制についてだがほんの一週間ほど前に構築したばかりであるので未だ望むような報告は上がってきてはいない。まあ、この艦内の住人達も周囲の治安や狂暴な野生生物については承知しているので基本的に自身で身を守るすべを持たない女子供などの虚弱な非戦闘員を単独で危険な場所にそうおいそれと行かせないのである。現実問題として普通に考えれば当然ともいえる処置である。


 であるのでこちらとしては釣りでもしている気分で多少の長期戦を覚悟して望んでいるのだが……。


 そのように丁度、アクティブCAWIについて考えていたところでハツシモより通信が入った。


「マスター、こちらハツシモです。緊急事態が発生しました」


 おっと、早速来たか。

 そう思った俺はその場に居るカスミとアサシモに目配せをして(うなづ)いた。それを見た彼女らは了解の意思を示すように続いて首肯する。予め当該のイベント発生時に即応体制が取れるよう事前に打ち合わせ済みである。


「現場の状況は? ターゲットはまだ無事か?」


 カスミに命じて装備を整える準備をしながらハツシモに確認した俺に帰ってきた返答は


「いいえ、マスター。

 特別監視体制についての報告ではありません。

 艦内での侵入者を拘束しました」


 と俺の予想だにしないものであった。


 ……カンナイデノ シンニュウシャヲ コウソクシマシタ?


 一瞬、報告内容の意図が理解できなかった俺は少なからず動揺した。

 というのも侵入者といっても既に居住までしているものが多数存在している現状、何をもって艦内の侵入者と言っているのだろうか?


 僅かの間に改めて耳にした報告内容について考えを巡らした後に俺はその内容の危険性に思い至ってハツシモに慌てて聞き返す。


「どこだ! どこに侵入した!

 機関部か! それとも中央制御区画か!」


 今さらわざわざ侵入者を拘束するとすればこの艦の重要区画などであるとしか思えない。

 そんな俺の様子に対して変わらぬ口調でハツシモが如何にも冷静に答えた。


「いいえ、どちらでもありません。

 この艦における基幹区画への侵入ではありません。

 先ずはこちらをご覧ください」


 そうハツシモの返答の後に空中に投影された予想だにしていなかった映像を見て俺は絶句した。


「……え。なにコレ。

 なにが一体、どうしてこうなった……」


 この様にしてまたしても事態は俺の予定表にないところで勝手に動き出し、俺はその対応に追われるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ