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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
53/64

宇宙戦艦の敗北と沈黙

 一休さんも裸足で橋の端っこを走り出し、足利将軍に切腹を申し付けられる勢いの機転の利いたとんちで危うく地球外知的生命体調査会議の軌道修正を果たし、穏便な方向に向かわせることに成功した俺はその流れのままに会議室に居るAI達に指示を出した。


 何故か会議の開始前とは異なり、心なしか気合の入った様子で俺に顔を向けるオオヨドに向かって命じる。


「当面は慎重に対処するとは言ったがこの会議で出たお前たちの意見については却下するものでは無い。なんにせよこの艦に危機が迫った場合に備えて予め非常時の防衛計画は必要だ。先程の意見は改めて緊急時防衛準備マニュアルとしてまとめておいてくれ」


「はっ! 了解した。我がマスター」


 うむ。凄くいい返事だ。

 まあ、これならもう大丈夫だろう。


 そう感じた俺は他の者達に対しても穏便な感じで着地するように個別に修正を加えてそれぞれの担当に応じて命令を下した。と言ってもこの艦についての機能の詳細はもとより、23世紀の法律などの知識は俺には無いので内容について大まかな方針を示すだけで後は各自にお任せである。


 ――1時間後。


 時折、互いに意見や議論を交えながらの指示を各自に出し終わると俺は椅子に背を預けて深く座り息を吐いた。


 結局のところこの会議でこの艦の運用とAWI調査について全ての計画の立案から実行までを召喚したAI達に任せて自身は楽隠居するという目論見は潰えた。俺が当初、心中に描いた民主的な組織体制は皮肉にも自らの手で葬り去られ、結果として規定通りの軍隊組織に準じた独裁制がこの艦を支配する事となった。数多くの犠牲と流血の果てに民主主義を追求した先人から見れば街中の電柱に吊り下げられても致し方ない暴挙であろう。

 まあ良い酒が出来るのと同じく民主制にもその成立には長い歴史があるのだ。暫くはこの組織のままで改めて彼女らを調教……もとい教育していずれ俺の手を離れても組織が回るように時間をかけるべきであろう。決してまだ目を通してないマンガやドラマが溜まっているなどの不純な動機ではないのであって、その様なゲスの勘繰りをされている方がおられましたら猛省(もうせい)をお願いしたい。


 それはそうと会議の主導権を握るために神的な存在を口にしたが、俺は本気でそんなものを信じているほど信心深くはない。だが、自分の言葉通りそうでもなければ説明の付かない怪奇現象が我々の身に降りかかっているのも事実である。もし本当に居るのであれば速やかに俺の前にご降臨あそばしてとっととご用向きをお伝え頂きたい。初期のRPGみたいなベッタベタの残虐魔王の成敗ぐらいならば適当に小惑星除去用ミサイルとかのピンポイント攻撃をカッコイイ感じでお見舞いし、分子レベルまで分解して終了です。

 しかし、その神ご自身が敵である場合は面倒だ。ほら、昔の少年マンガとかでよくあるじゃないですか。最初はギャクっぽかったのに途中から激アツバトル展開を繰り返して強い敵キャラのインフレに歯止めが掛からなくなってしまった挙句に神と戦って世界を救うみたいな話のたたみ方しかできなくなったようなヤツとか。そーゆーのはしんどいのでマジ勘弁して頂きたい。

 大体、こちとら強さがカンストしている生まれついての宇宙戦艦である以上、修行とかピンチに際して隠された新たな力に目覚めたり出来ないんでそんなシナリオ持ってこられても却下である。



 ともあれかなり脱線してしまったがなんとか会議は俺が望んだ姿を取り戻し、ようやくこの会議を開いた本来の目的について切り出す準備が整ったのである。


 それは――


『地球外知的生命体改め異世界の住人とイイ感じにコミュるってどうするんじゃろうか?』問題である。


 リース達と接触して幾ばくか過ぎていい加減真面目にここでの仕事に取り掛かる為、これから見知らぬ異世界の住人らと接触する際の参考にしようと艦内モニターに記録されていた自身の行動を改めて確認していたのだが……。


 何すかこれ? 

 スーパーヒーローに変身ってなに?

 バッカじゃねーの。


 コレは無い。無いわー。


 月面や火星への有人着陸などを遥かに凌ぐ記念すべき人類初の地球外知的生命体とのファーストコンタクトであるのに何なんでしょうかこの出来の悪いコントは。画面に再生された白銀の鎧に身を包んでラ○トセイバーを振り回しながら巨大ヒュドラを追い掛け回す自身の姿を見てそう痛感した。

 まあ、相手がこの異世界でも規格外のバケモノという事を考えれば致し方無いのかもしれないがいずれにしてもこんなミラクル大作戦を毎回やらかしていてはこちらの身が持ちません。

 という訳でこの件は無かった事とすべく最重要機密に指定してその映像を封印し、今度こそ真のファーストコンタクトを果たすべく、場当たり的な対応でない真っ当な手順に沿った方法をおざなりにしていたこの艦のデータベースにあった『地球外知的生命体接触マニュアル』に求めたのであるが……。


 ちょっと聞いてよ、奥さん。まあこれが噴飯物でして。

 詳細は省略するが専門用語や知識などをカスミの助力を得ながら解析した内容は以下の通り。


 1.可能な限り詳細にその地球外知的生命体の生態や文化を調査してその情報を速やかに太陽系連合に報告せよ。

 2.自身の安全保障についてはこれを1より優先する。

 3.発見した地球外知的生命体の対応については太陽系連合より折り返し指示する。


 以上である。


 ――どうせいと。


 こんなふんわりとした感じになったのはなんとなく分らないでもない。例えば今回遭遇した知的生命体が海中に生息してクジラのように水中音でコミュニケーションを取って海底に住居があるとかであったらどうだろうか? もしくはアリのように触角で会話するなどであったら? そんな無数にあるパターンをいちいち想定してマニュアルなんぞ作ってられないだろう。

 ましてや今回のようにまるっきり異世界ファンタジーっぽいヤツを想定してマニュアルなんぞ提出された日には鼻で笑われて「ラノベの読み過ぎ」などとフシギさんの烙印を押された後、太陽系連合史編纂(へんさん)室送りになること必然である。


 であるので報告された状況に応じて『太陽系連合より折り返し指示する』というのは理解できる。

 しかし……。


 あのー、サポートセンターに繋がらないんですけどー。


 である以上、このマニュアルとやらは結果として太陽系との連絡が断絶されている現状では何の役にも立たないゴミデータに格下げです。


 しかし、ここで諦めるわけにはいかないのだ。

 さもなくば再び何の予備知識も無く徒手空拳で異世界調査へ赴くこととなり、次回もまたヤラセ一切無しの出たとこ珍道中を繰り広げた末に「驚愕!異世界最後の魔境に擱座する宇宙戦艦の奥深くに謎のなんちゃら生物は実在した!!」とかを放映するハメになってしまうのですよ。

 であるのでその後、艦内データベースを手当たり次第に検索してそれに該当する情報が他に無いのを確認した俺は残された最後の可能性としてその方法をこの艦に所属するAI達の知識に求めたのである。


 そうであるならば直接AIを呼び出さずともその記憶メモリをのぞいて調べればいいじゃないかと思ったそこの貴方。


 はい消えた。

 スーパーひ○し君ボッシュートの上、銃殺です。


 23世紀のAIの頭脳はデジタルデータではあるが人間の脳を模したものとなっており、さらにその記憶域は高度に暗号化されている。それ以前に既に人間社会を構成する存在として必須となったAI達の記憶はそれ自体が他者のプライバシーの塊であって、それらにアクセスする事は法律で固く禁じられていた。最も重要な危険性として人間に類似したAIの脳を解析するという手段は生きた人間自身の脳を自由に覗き込むことが出来るという禁断の技術に繋がる可能性が高く、それを研究すること自体が厳禁であった。

 要するに23世紀であってもよくあるSFのように誰かの頭に電極を張り付けて映像に移すというような手段は存在しないし、ましてや頭の中に直接電脳ダイブみたいなことは出来ないので、AI達から何か必要な情報を得る場合には直接本人よりその口から聴取するよりほか無いのだ。

 ちなみに俺が最初に食らった圧縮記憶の注入はプライバシー情報が記録されている主記憶領域から切り離された外付けハードディスクの様な外部記憶領域に対するものなので問題無い。


 ともかくも万難を排して波乱の会議は終了して召喚したAI達にもそれぞれに当面行うべきタスクの振り分けも完了した。今こそ満を持してこの問題について聴取すべきであろう。


 会議が終わり早速、目の前で俺の割り当てた任務に対して各自、目の前にホログラフィック・コンソールを開いたり、瞑想するように頭の中で情報を処理しているであろう彼女らに向かって俺はまるで明日の天気を尋ねるような気軽さで質問を投げかけた。


「ところで、この中で『地球外知的生命体接触マニュアル』以外に今回のAWIなどに対してコミュニケーションを取るための特別に教育を受けた者はいるか?」


 それを聞いた目の前の面々はピタリと作業の手を止めてしばらくの間、お互いの顔を窺うように視線を彷徨わせた後にそれぞれに返答した。


「我はその様な教育は受けていない」

「んー……ボクはないよー」

「残念ながら私はありません」

「無いですね」

「あたしはそんなの受けてないぜ」

「ウチはせーなもん知らんで」

「ご期待に沿えず申し訳ございませんがございませんわ」


 …………


 …………


(全員ねぇのかよっ!)


 危うく口から発しそうになったツッコミを心中に留めた俺は目を閉じて一度下を向き、ここまでお膳立てしておきながら自分の希望が完全に潰えた事を実感し、数秒の間になんとかその失望感を抑えて平穏を取り戻すと顔を上げて最後の言葉を吐いた。


「……了解した。

 以上で今回の会議を終了する。

 進捗の確認については後日、追ってこちらからそれぞれに対して行う予定だ。

 何か途中で疑問が出来た者は適宜に申し出るように。

 ――では本日はこれにて解散」


 この様に紆余曲折を経て必死の思いで会議を乗り越えながらも肝心の問題に対して成果なしという結果に終わった。そしていつの間にか終了していた逆椅子取りゲームの敗者となった俺はめでたく対AWIコンタクトミッション計画立案者兼実施責任者に無事、就任したのであった。

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