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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
52/64

宇宙戦艦の勇者

 初の地球外知的生命体調査組織会議・異世界場所の千秋楽結びの一番、戦闘竜と穏便山の対決は寄り切りで戦闘竜の勝利で終わった。しかし、それでも尚俺は審判委員として物言いを付け、それを覆さなければならない。その結果、行司軍配差し違えとならない場合はめでたく魔王さまが降臨あそばされてこの世界に災厄の業火があまねく降り掛かるであろう。


 そして後の世にその時代はこう語り継がれるのだ。

 ――終焉の時代(ポスト・アポカリプス)と。


 であるならば今まさにその魔王さまを退けられる唯一の存在である俺はもうこの世界を救う救世主――すなわち勇者と形容しても過言ではないのであるまいか。決してマッチポンプだの、勝手にてめえがまいた種を自分で回収してるだけじゃねぇかとか言ってはイケナイのである。


 何はともあれ今、俺の返答を待っているオオヨドをいなさなければ。

 先ずは――。


「作戦計画については理解した。

 見事な出来だ。俺が諸君らを召喚した事は間違いではなかった」


 取り敢えず肯定することから入らなければならない。

 それを聞いたオオヨドは顔を引き締めつつ若干、安堵した様子で


「過分な評価恐れ入る、マスター。

 これは我らの務めとして当然の事。だがまだ計画の段階でしかないのだ。その言葉は我らのこれからの行動による結果に対して評価する為に取って置いて頂きたい」


 と謙遜を交えつつ返答した。


 それに対して俺は


「詳細については後でまとめて計画書として提出するように。ああ、付け加えるならば何段階か防衛準備状態(デフコン)を設定してそれ毎に行動作戦計画を立てるようにすると尚良いだろう」


 などと解ったようなもっともらしい注文を付けて命じた。


「了解した。マスター。

 これより作戦計画書を作成する。完成次第、追って連絡するので査読をお願いする」


 そう答えたオオヨドに対して俺は人間の都合でこんな訳の分からない世界に飛ばされても不変も漏らさず尚、自らの使命を果たそうとする姿を見て取り罪悪感が心を占めた。それでもこれから俺はやらなければならないのだ。


 そうして俺は顔を会議室に居る面々に向けて告げる。


「さて諸君。

 召喚の後、早速この艦の今後について議論し方針を策定した事、感謝する」


 その言葉を聞いた彼女らは神妙な面持ちで安堵の様子を見せた。


 だが、次に俺は続ける。


「しかし、俺にはまだ重要な疑念がある」


 それを聞くと彼女らは一変してその顔に疑念と困惑を混ぜ合わせた表情を浮かべた。

 一瞬の沈黙の後にオオヨドが俺に向かって問いかける。


「疑念とはなんだ? マスター」


 それに対して俺は質問で返した。


「では問おう。何故、この戦艦『ヒュウガ』は破損も無くここにいるのか?」


 そうあえて答えにくい漠然とした質問を返した。こういったマウントを取るようなやり方は好まないがこの非常時で議論の主導権を握るためには致し方ないだろう。


「……それはどういう意味なのだ? マスター」


 質問の内容を掴み兼ねた様子でオオヨドが答えた。

 俺はさも思慮深いような様子で少し間を取って応じる。


「ふむ。質問の内容を変えようか。

 航海長であるオオヨドに質問する。

 この戦艦『ヒュウガ』がここで再起動する前は全電源を喪失し機能停止状態だったと記憶している。その状態で地球と同じ重力のこの惑星の大気圏外から自由落下した場合、この艦はどうなるか?」


「……この艦の大気圏突入能力は重力制御と量子力場展開シールドによるものだ。主電源が停止しても区画ごとの非常用補助電源が存在するがその場合はそれらは機能しない。熱の壁による断熱圧縮にこの艦の装甲は耐えられるだろうが、減速せずにそのまま落下すれば地上に激突して四散するだろう」


 その答えを聞いた俺は再び質問を返した。


「だが、この艦はほぼ無傷でここにいる。

 この惑星の大気圏外から侵入した訳では無いのであればどうやってここに来た?」


「…………それは……この世界に来た時に……偶然、地上付近に転移したのではないだろうか……」


 そう苦し気に眉間にしわを寄せてオオヨドが答える。

 それを見た俺は自分でやっておきながらロジハラまがいのやり口に居たたまれなくなり、即座にフォローした。冷静になってみるとまるっきり詐欺師か怪しげな宗教勧誘のようではある。


「ああ、済まない。

 お前を責めるつもりは無い。俺も最初はそう考えた。だが分かるだろう? それがどれだけあり得ない事か」


 そうオオヨドに声をかけた後、俺はおもむろに立ち上がりその様子を窺っていたその他の面々に向かって語り掛けた。


「諸君。改めて問う。

 我々がこの場所に転移したとしてもそれは果てして本当に偶然なのだろうか? この艦が制御を失った状態ではこの星の大気圏外でなくとも地上より上空100mからでも落下すれば損傷は免れないだろう。ましてや地中深くでもなく深海の海底でもない。水中であれば無事な可能性はあるがここは海よりかなり離れた内陸部だ。大規模な津波で漂着するとか地殻変動で海底が隆起して陸地になったなどでここに移動した事も考えられるがそのような痕跡も無いし、あってもそれこそ万年単位の出来事だ。この星に来てそこまで時間が経過している様子もない」


 目の前の彼女たちは先ほどとは打って変わって緊張した面持ちで俺を凝視していた。そしてさらに俺は続ける。


「そのようなことを鑑みれば()()、この艦が無傷でいられる高さで地上付近に転移したという事が如何にあり得ないことか理解できると思う。確かに我々はここに至るまで数々の不可解な事態に遭遇してきた。太陽系外延部での機能停止から始まりこの異世界――並行世界への転移、地球に酷似した惑星と知的生命体の発見、そして未知の物理現象――いわゆる『魔法』など。未だ人類は宇宙の全てを解明したわけでは無いが並行世界や地球外知的生命体の存在はある程度、論理的に説明できる。だが、それらの不可解な事態の中で最も説明が付かず、有り得ないのがこの戦艦『ヒュウガ』が無傷でこの場所にいるという事なのだ」


 俺がそこまで一気に言葉を発すると会議室は重々しい沈黙に包まれた。

 暫しの静寂の後に困惑の目で俺を見つめる面々でその沈黙を破って発言したのはアサシモだった。


「……じゃあ、マスター。

 アンタはこの艦がここに偶然に転移したので無ければどうやってここに来たと思っているんだ?」


 俺はアサシモの目をじっと見つめて少し間をおいて答えた。


「偶然でなければ必然という事になる。

 要するに何らかの超常的な存在の意図によってこの場所にこの艦が連れてこられたという事だ」


「馬鹿な! そんな存在が居るわけがない!」


 アサシモが目を大きく見開いて叫んだ。

 俺はその剣幕に若干、萎縮しそうになったが冷静な様子を装って静かに返す。


「……俺もそう思いたい。

 まあ、状況証拠のみでその上に消去法での推論だからな。しかし、既に我々は異世界への転移や『魔法』などの数々の不可解な事象に遭遇しているのだ。元の世界の(ことわり)がここでは通用しないという事を認識しなければならない。そうである以上、太陽系にあっては到底考えられないような事でも選択肢に入れるべきだろう」


 俺はそこで一旦言葉を切ると改めて会議室のメンバーを見据えて続けた。


「もしその様な超常的な存在――『神』と形容してもいいが――がいると仮定して、それが我々に友好的なのかそうでないのかも目下のところ不明だ。ここに至るまでにこの艦に降りかかった現象のどこからどこまでがそれによって引き起こされたのかも分らない。この艦をここに無傷で着陸させた方法に限っても転移によるものなのか、物理的にこの艦を浮かせてこの星の外から移動させたのか、それとも一時的にこの艦をハッキングなどで制御したのかも分らん。いずれにしても本当に存在したとしたら敵対はしたくないな」


 そこまで語るとようやく俺は椅子に腰を下ろして沈黙する。

 再び会議室が静寂に支配されるが少し間をおいてオオヨドが立ち上がって俺に尋ねた。


「ではマスター。

 それについての対処についてどうお考えになられているのか?」


 完全にこの会議の主導権を握ったことを確信した俺は用意していた言葉を発する。


「もちろん我々の任務については予定通りに行う。しかし、その様な可能性もあるという事を前提にして情報収集を行い、かつそれが不明確な間はこの世界に対してはその様な存在を刺激しない為にも必要以上に干渉をしない形で慎重に行動すべきだろうな」


 それを聞いたオオヨドは表情を引き締めて頭を下げながら答えた。


「ご明察恐れ入る。我がマスター。

 ご命令拝領致しました。改めて我々は貴方の指示に従い行動する事を誓います」


 それを聞いた他の者たちも立ち上がって頭を下げ俺の指示に従う事を示した。


 この様にして薄氷を踏む思いながらも会議を自分の意図した通りに誘導する事に成功し、華麗にこの世界での魔王誕生を阻止して誰にはばかる事の無い真の勇者となった俺は、ようやくにしてここで本来、俺が彼女らに確認する事を聴取するために会議の幕引きに向かって最後の行動を起こすのであった。

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