宇宙戦艦の魔王
皆さんご承知の通り異世界に顕現したキング牧師かと見紛うばかりの平和主義者である俺は自身の意図とは異なる会議の幕開けに困惑しきりであったが、その動揺を努めて表に出さないよう懸命に平静を装っているとアサシモの向かい側より声が上がった。
「アサシモ。わたくしはその作戦に異議をとなえますわ」
そう答えたのは軍医長のイスズだ。
それを聞いたアサシモは少し眉をひそめながらイスズを見たが、俺は取り敢えず何でもいいからこの流れを変えるために
「よろしい。続きを述べろ」
と構わずに発言を促した。
「ありがとう存じますわ、マスター。
艦内警備担当者としては理解できますけどいささか性急ではございませんか。わたくし達にとって地球外知的生命体調査ミッションも重要事項でしょう? 無論、この艦の安全保障が最優先だとしてもその対象をことごとく排除するのはやりすぎではないですか」
おお、分かっていらっしゃる。
いいぞ。今度こそ彼女が俺の高杉晋作ではなかろうか。
それを聞いたアサシモが
「じゃあ、どうしろってんだ。イスズ」
と反発するように応じた。
それに対してイスズが言葉を続ける。
「せっかく発見した人類初の地球外知的生命体ですから明確にこの艦に対して脅威にならない限り貴重な調査サンプルとして丁重に取り扱うべきですわ」
そうだぞー。その通りだ。
「ですのでこの艦より追い出すのではなく可能な限り生きたまま捕縛するべきではなくて」
え? ホバク?
「それにはまず対象サンプルを無傷で無力化する方法を調べる必要がありますわ。手始めに対象物に気取られないように限定した区画でいくつか無力化ガスおよび合成ウィルスを散布してどれが有効か実験を行いましょう。地球人類には有効でもこちらの生物には無効なものもあるでしょうし、逆に致死的なものもあるかもしれません。また、この世界での知的生命体は地球とは異なり種族差があるようですしそれらも考慮して個別に計画を立てる必要があるでしょうネ❤」
(なんか一番ヤバいの出やがったーーーー!)
何故か頬をうっすら紅潮させて自身の言葉に陶酔している様子のイスズを見て俺はそう心の中で叫んだ。
ダメだろ。ていうかダメだろコレは。
え? むしろ俺が変なの? 未来ではこれが普通なの? どうなってんの未来の倫理基準?
というような俺の動揺をよそに他の者から発言が上がった。
「まあ、艦の内部の処置についてはともかく外部への対応はどうするのだ?」
そう応じたのは航海長のオオヨドだった。
「外部?」
再び他者から疑問を呈されたアサシモが声の主を訝しく見ながら返すとオオヨドが続ける。
「そうだ。ここのAWIどもは国家を形成する程度には社会性があるのだろう? 既に内部にいる者達が外部から侵入し、また現在でも近隣との往来があるのは確認済みだ。我が思うに万単位の個体が放逐されるなり、外部との連絡が途絶するなりすれば少なからず影響が出るであろう。その場合に近隣の外部勢力から何らかの形で干渉がある事も考慮すべきだ。一時的に艦内の状況をクリアしてもその後も維持できなければ意味がないではないか」
「外部については他のヤツが担当だろ」
そう答えたアキヅキは砲術長のタマと飛行長のアサシモに目を向ける。それを受けたタマがけだるそうな感じで応じた。
「えー。ボクなの~。
えーと……。80cm三連装多目的砲、超自由電子レーザー副砲、5連装対空レールガン……まあいいや、その他各種兵装はぜんぶチェック済みでステータスオールグリーンだから問題無いよ~。何時でもぶっ放せるから標的が決まったら教えて~」
机に突っ伏すようにして会話を打ち切ると続けてアサシモが口を開いた。
「こちらの世界ではこの周辺地域に限れば特定の飛行生物に乗るAWIが存在するようですが数も限られてるようですし、その速度や防御力も分析した様子では我々にとっては大した脅威には成り得ないですね。『リック・瑞雲』のようなスペースプレーンでなくより簡易なUCAVか防衛用自立制御型ドローンを配備するだけで容易に制空権を確保できるでしょう。問題はどの範囲までを防空識別圏とするかですが、その為に先立って領空を規定するために領土を定めなければなりませんね。そこはどうお考えなのですか? オオヨド?」
(なんか話が段々大袈裟になってるようなんですけど……)
と俺の心中にどんよりと分厚く立ち込める暗雲も構わずにオオヨドがその質問に対して答える。
「うむ、やはり第一にその問題を解消すべきであろう。それについては事前にハツシモと考えていたところだ。ハツシモ、いいか?」
オオヨドが話を振ると通信長のハツシモが話し始めた。
「はい。私達は何よりも太陽系連合憲章に定められた法と秩序を重んじて行動しなければなりません。それはここが異世界であっても同じ事でしょう」
そう一旦言葉を切ると全員の顔を見渡す。
未だ目の前の事態を飲み込めずにいる俺を除いた面々が神妙な面持ちで首肯した。それを確認したハツシモは言葉を続ける。
「太陽系連合の法を有効とするためにはその規定に基づいて領域主権を設定・行使する必要があります。太陽系連合の宇宙開発条約に従えばこの惑星全体が領域権原としては無主地となりますのでまずは我々の名で占有宣言して領域取得の意思を示すべきでしょう。先占は実効的な占有を伴う必要がありますのでこの世界の詳細が不十分である現状ではこの惑星全体に対して行うのは現実的ではありません。この艦のリソースに負荷が掛からない限りで武力を行使して実効支配が及ぶ範囲を先占すべきでしょう」
そうハツシモが語り終わるとオオヨドが話を継いだ。
「我もハツシモのこの案の通りこの宇宙戦艦『ヒュウガ』のこの世界での法的な立ち位置はこの方針に沿うのが妥当だと考える。さらにオプションとしてこの艦自体の移動も付け加えよう。戦略的にこの地点に固執する必要も無いしな。外部からの干渉を絶つにはこの惑星の極地に場所を移しても良いし、場合によっては一時的に大気圏外に退避するのも良いだろう」
ここまでオオヨドが話すと次に機関長のアカシに顔を向けて質問する。
「で、この宇宙戦艦『ヒュウガ』全体のステータスチェックは済んでいるのであろう? アカシ」
それの言葉に対してここまで会議を傍観していたアカシが初めて口を開いた。
「艦内の設備ならじょうさんけったいな植物がはびこってるようやけど特にめげたとこも無いけぇ機能自体はべっちょないで。『ヒュウガ』の船体については計測した感じ誤差の範囲で目立っていがんでる箇所もないようやし、現在外部に解放されてるハッチを封鎖すればどないもなく航行でけるはずや」
……
一瞬、何話してるか解らなかったが自動翻訳が機能したようでなんとか理解できた。表示された翻訳元の言語は……『播州弁』かよ。っていうか翻訳が必要となる口調なんか設定するなよ。
だいたい何故、播州弁なのか……って明石だからか。誰が教えたのか知らないがちょっと短絡的過ぎやしませんかねぇ。まあ、関西弁キャラはいいんだがガチ方言すぎるだろ。
何はともあれ既に会議の流れは俺の手を離れて回りだし、企図した通りに俺をお飾り神輿に祭り上げようと動いている。問題はその結果として俺が何にクラスチェンジするかということだが……。
その世界に対して自身が保有する武力を以て支配し、場合によっては世界そのものを滅ぼしうる組織の最高責任者を魔王とするならば、今まさに俺がその至尊の冠を目の前のAI達によって頭の上に被らされそうになっているのではなかろうか。
ああ、せめて風の夜に狭霧に間違えられがちな坊やを連れていく程度にまからないだろうか。奇麗なおべべもたんとあるし、なんなら歌っておねんねさせるのもやぶさかではないぞ。
などと俺の取り留めのない現実逃避をよそに会議はいよいよ終盤に向かってゴール地点があるスタジアムに入るのであった。
※アカシに追加言語パックとしてインストールされている播州弁は未来のものであり現在とは異なりますのでネイティブの方にはお聞き苦しい点もあると思いますがご了承ください。




