宇宙戦艦の第一回頂上戦略会議
さて、こうして立ち上げた恐らく地球人類初であろう直接的な地球外知的生命体調査組織であるが我々には具体的な指針が無かった。地球外知的生命体改めこの異世界の住人ことAWI(Another World Intelligence)の生態・文明・文化を調査するという名目こそあったが実際何をするかは未だ白紙の状態である。
一応、この艦の組織は一般的な軍隊組織の通りにトップダウン方式となっており最高責任者であるこの俺の命令が絶対である。それに沿えば俺自らが各人に直接指示を下して目的を達成する為に組織を回していくという手順の方が自然なのかもしれない。
しかし、この俺も民主主義国家の水を飲んで育った人間である。飲みなれない水を飲むとぽんぽんイタイイタイになってしまうと聞き及んでもいるし。
例えAIだろうがより良い方策があるのであればそれを提示して皆で大いに議論して多数の判断で決を採るというのが封建制および絶対王政を経て近代民主主義国家への道を開いた人類の英知に沿った組織のカタチではなかろうか。
決して自分が主導的な立場になれば自らの仕事が増えるとかサボる時間が無くなるとか不純な動機ではない事を皆様におかれましてはご認識頂きたいものである。
という訳で家臣の意見をまとめて策を立てその精強をうたわれたかの武田信玄公に倣い、各AIのこの艦の現状に対しての存念を聴取する事から会議を始めたのである。
現在、我々はこの会議の為に場所を隣の会議室に場所を移して俺の後ろに控えて立つカスミ以外は例の空中に少し浮いた未来のフシギ椅子に着席している。先ほど顔通しした面々にマミヤを加えたメンバーの顔を見渡しながら3Dの太陽系の星系図が映し出された壁を背にして議長席に座る俺が会議の口火を切るべく言葉を発した。
「さて、我々が地球外知的生命体調査ミッションを達成する為にはまずこの艦の運用状況を把握し、目的のために瑕疵無くいかなる状況でも即時に対応可能とするように設備を管理・稼働できる状態にしなければならない」
ここで俺は一旦言葉を区切り会議に臨む面々を見渡した。失敗する会議というものは初めから白々しい弛緩した空気があるものだが、着席する参加者達は俺の一挙一動を余さず注視している様子で話を聞き入っている。いささか初手から張りつめぎた雰囲気ではあるがこれならば失敗は無いだろうと俺は思って話を続けた。
「現在の艦内の状況については事前にカスミより各員に提供された情報の通りである。各自の専門分野における視点に基づき艦内設備及び環境の回復についての施策があれば申し出ろ」
と、俺はここで話を切って傾聴の姿勢を取った。あらかじめ考えておいた大仰な言い回しに元々しがない一般人にすぎない俺の精神はガリガリと削れてこの時点で既にレッドゾーン直前である。
しかしここまでお膳立てすればもう俺の出る幕はなく、後は黙って会議を傍観していれば勝手にイイ感じに進んでくれるはずだ。で、最後に知ったような顔をして決まった事に「そうせい」と言えば全てが終わり、その結果、俺は晴れてこの艦でのお飾り神輿にクラスチェンジして奥に引っ込んで椅子を温めるだけの存在となるのだ。我ながら完璧である。
という俺の志を汲んだのか早速、陸戦長のアサシモが真っ先に挙手をした。もしや、彼女こそがこの艦の桂小五郎であろうか。
良いよいいよ松本イイヨ。何かに誘われて線路立ち入り。
「はい、マスター。
あた、小官はこの艦の艦内警備を預かる者としてご、ご意見申し上げる……します」
そうこの宇宙戦艦の異世界での初会議のAIの第一声でたどたどしい口調でアサシモが答えた。
その様子を見てある事を察した俺は
「ああ、無理して畏まった口調で話さなくて良い。普段通りの話し方で喋れ。他の者も同様だ」
と返した。
これはマミヤとある程度接して判明したのだがAI達は各自に自分のキャラクターに合わせた口調を以て話している様だった。それらはAI達を教育する際にその担当者から仕込まれているようであるが理由は直ぐ分かった。AIは全員、初期状態では基本的にカスミのような喋り方なのだ。声質こそ違うが身近に接していればAI全員同じ様な口調では違いが判らず不便である。なので教育担当者が接する時間の長い上級のAIほど独自の喋り方をするようになっているのだ。……の割にはカスミが初期状態の口調なのは疑問ではあるが。
俺の話を聞いたアサシモは僅かに羞恥の表情を浮かべた後に緊張がほぐれたような様子で答えた。
「ありがとう、マスター。じゃあ、話を続けるぜ」
おっと、突然のアネゴ口調ですか。まあ、逆に変にかしこまられてもこちらも緊張するので良しとする。
「この艦の現状については理解した。
現在艦内に多数の未確認生命体が侵入し施設が占拠されている状況は艦内警備担当としては看過できない。マスターの意見と同じく艦内の速やかな艦内設備及び環境の回復が最優先であると認識する。よってそれら全ての未確認生命体および植物を含む外部侵入物の除去を急務と考える」
ん、どういうこと?
至極真面目な表情で俺を見据えるアサシモに俺は若干、不穏な感じを受け、
「で、具体的な方策は?」
と続きを促した。
「汎用人型警備ドロイドを使用して排除するつもりだ。
まずは小火器を装備したドロイド3個中隊を編成した後、全てのエリアをブロックごとに封鎖して排除対象を分断する。優先順位を付けて戦力を注入して不法占拠しているAWIおよびその他の知性を持たない生命体の制圧を行う。作戦の状況に応じて必要であれば随時、小隊規模で戦力の増強を行つつエリア制圧後にまとめて艦外に放逐し、その際に抵抗する対象はその場で速やかに処分する。その後、広範囲指向性量子分解装置を使用して外来の植物、それらによる発生した土砂などの廃棄物を除去する予定だ」
んーと?
「……処分とは?」
21世紀の人間である自分と2世紀以上も差がある彼女らとでは言葉の意味一つでも認識が異なるかもしれないので確認した。これ大事。
「地球と同じ基準でこちらの生物を語ってよいのか不明だが……生命活動の停止、有体に言えば殺すってことだ」
へー、ソウナンデスカ。
………
………
あっ、違う! こいつは土方歳三だ! パラメータでいうと武力92・統率95・政治55。
つーか、鬼の副長は後ろに立ってるちんまいので間に合ってるのでご遠慮願いたいのですが。
これはいけません。これはいけませんよ。
何故いきなり武力制圧なのか。
大体なんだよドロイド軍団って。俺は落雷で頭がイカレた公害処理用ロボットかなんかかよ。もしこのまま行くと真っ青なロボット犬を引き連れた全身白タイツの改造人間に退治されるのではなかろうか。そして仕舞いには邦画史上最低実写映画2位という中途半端な低評価を頂戴する羽目になってしまうのである。
マズイ。このままではイケナイ。全力で回避しなければ。
――たった一つの命を捨てて生まれ変わった不死身の身体。
――鉄の悪魔をたたいて砕く。
――俺がやらねば誰がやる。
このように健全な民主主義の手続きの元で俺の思惑とはかけ離れて混迷の海に流れゆく波乱の会議が幕を上げたのである。




