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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
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宇宙戦艦の異世界動物園

 異世界調査の追加要員のAI達について招集を命じた暫くの後、それらを呼び出すために外に出たカスミから艦内ネットを介して通信が入った。


「マスター。

 ご指定された追加要員が全員集合しました。これより対面にて着任の挨拶に向かいますのでよろしくお願いいたします」


「分かった。全員こちらに今すぐ来るように伝えてくれ」


「了解しました」


 そんな短いやり取りを交えると通信を終えた。

 俺は椅子に背を預けたままぼんやりと目の前のドラマのセットの様な重役室然とした木製の飾り気のない両開きの扉を見つめる。

 これから来る追加のAI達にはカスミによりこれまでの状況についての情報をあらかじめインプットされているはずだ。よってこれから行う顔合わせで俺がすべき事は、ここでの状況についての説明は省略して各AIの人となり(AIとなり?)を確認するのとそれに応じた適切な指示を与える事である。


 俺はこれまで収集した周辺の情報とそれによってこれから我々が行うべき行動の基本方針について頭の中で整理することにした。


 まずこの艦自体の状態は前にカスミに説明された通り、非常時のマニュアルに従って外壁で外部に脱出可能な出入口が多数解放されている状態であり、そこから動植物が自由に出入りし植物に至っては内部のかなりの部分に侵食していた。しかし幸いなことに我々が居た制御中枢区画および動力及び機関部は外部より物理的に完全に隔離されているため目立った損傷も外部からの侵入も認められなかった。また、各種兵装や機械や物資の工作・製造などのライフラインに必要な区画も一部、外部から植物の侵食があるものの機能には問題が無く即時稼働できる状態であった。


 そして現状、艦内には有象無象の住人が多数闊歩しているのは先に確認した通りである。

 言語を解せる者はおおむね直立歩行をしており二本の腕で道具を扱う。シルエットだけ見れば地球人類と酷似しているが元の世界と大きく異なるのは外見は単一でなく様々な進化元を持つ種族が混在している事である。例えば顔は人間と同じだが犬のような耳が付いているとか、肌が褐色で背中に羽や頭に角が生えていたり、全身が長い毛でおおわれている者もいれば、皮膚が固いうろこで覆われてしっぽが生えている者もいた。


 背丈は種族によって異なるが地球と同じ重力と大気構成によるものか最も大きなものでも2mを少し超える程度であった。それら様々な住人が艦内で居住しているが単一種族で集まって暮らしているのもいるし、混在して生活している場所もある。彼らは艦内の68%まで侵入しており、艦内全体の個体数は2万体程となり、それぞれが艦内の様々な居を構え、場合によっては定住せずに移動しているが場所によっては2千体を超える大きな集落も確認できた。

 彼らの主な武装は我々にとって理解不能な物理法則を伴う現象――いわゆる魔法――を使う事の他に刀槍および弓矢程度であり、もっと進んだ科学技術を必要とする火薬を使用する銃や大砲のような銃火器は確認できなかった。


 言語を理解できないレベルの生命体――いわゆる動植物――の個体は正確な数は不明だが数千種を超えて艦内の環境を更に混迷の度合いを深めている。動物は地球での哺乳類・鳥類・爬虫類・昆虫等に分類できる外見の個体もいれば全くそれらに当てはまらない者もおり、更には生命体であるかも不明なものもいた。


 要するにざっくりまとめるとここが地球と酷似した環境であるが人間程度の知性を持つ生物の種類が多様でさらに魔法とかいう正体不明な現象があるというザ☆中世ファンタジー異世界という事だ。

 まあ、知性を持つ者達が普通に酸素呼吸をして地球人類と同じく声帯を震わして音声でコミュニケーションをとるという会話法である事は評価したい。悪くすれば触角を接触して振動で会話するとか、身振り手振りで意思を伝えるとか、極端な場合は関節を鳴らした音で話すとかになるという事態もあり得た可能性も考慮すれば上々であろう。


 あまりに環境が地球寄りなのでカスミが「並行世界」と断定したのも理解できる。そうとでも考えなければあまりにも都合がよすぎるのだ。

 仮に「並行世界」とやらが無限に存在するのであればここは当たりの部類に入るのだろう。


 しかし、そうであるとすればもっとやりやすい世界でもあったのではないかと思わない事も無い。

 例えば由井正雪とゴリラが合体して関○宏のように小賢しい部分染めをした髪型の食通がいるような何かテキトーにメシ食ってりゃあらゆるトラブルが解決するような世界とかでも良かったのではなかろうか。あんな生き恥の化身みたいなオッサンが副部長とかになれるんなら非才の身である俺でも十分やっていけるはずだ。


 そんな恨み言を吐いてもこの艦が保有する未来の超技術を以てしても別の世界に行ける程の力があるわけでなく、虚しい妄想をしても現状は変わらないのであって、いい加減あきらめて現実を受け入れてこの世界でなんとか適応してやっていくしかないのである。


 まず初めにこの世界で調査を行うにあたり俺が確認したのはのここにおける我々に対して脅威度であった。要するに我々――この宇宙戦艦――を破壊できるほどの力を持った存在や事象の有無である。

 艦内のモニタリング記録や直上に打ち上げられた多目的静止衛星の艦周辺の記録から発生した各種闘争の内容を確認してどの程度の破壊行為が可能か分析を行った。

 その中で最大のものは数か月前に発生したここより60Km程離れた平原で行われた武装勢力同士の衝突だった。彼らは主に槍や弓矢を使用して互いを攻撃していて時折、魔法を使用した攻撃が発生している様子が確認できた。その中でももっとも威力のあるものが爆発を伴う魔法攻撃で周囲の十数名の兵士を吹き飛ばしているのが観測された。カスミによる解析ではTNT換算で約400g程度(よく分からんので聞いたら20世紀の手榴弾よりやや強めの威力だそうだ)である。

 リース達にも確認したがこれはかなり高位の魔法によるものらしく、そう簡単に扱えるものでは無い上に連続して攻撃できるものでは無いようだ。

 まだこの世界の住人の脅威度を全て把握したとは言い難いが、それらの攻撃がこの世界で上限に近く発動にも回数が限定されると仮定するのであればこの艦をどうこうする者が存在する可能性は極めて低いと思われる。

 対して我々は元の世界で最高の攻撃力及び防御力を持つ最新鋭兵器の結晶であって攻守ともにこちらの世界の住人に後れを取ることは無いだろう。


 どちらかと言うと不安要素は自然災害の方である。

この艦が再起動してからの記録がここ数年分しかない以上、観測した情報はかなり少ない。ここ数年でも大型の熱帯低気圧――地球でいう台風――を観測しているが最大でどの程度までの規模で発生するのか不明だし、地震も現時点ではマグニチュード2を超えるものは今のところは観測されていない。大雨に伴う局地的な洪水も近辺で確認されているが同様にそれがどこまでの規模で影響を及ぼすのかは今のところ不明である。最悪の場合、火山などの破局噴火まで考慮すればより正確に情報を把握するために艦外に出て大規模な地質調査が必要になるだろう。


 以上の点を踏まえて我々がこの世界に対してどの様なアプローチをするかという事を考えたが、あくまで接触は程々にするということを前提として調査を行うことにした。何故ならば我々の目的はあくまで地球外生命体を調査してその結果を太陽系に報告する事であり、開拓や植民地にする事では無いからだ。


 ではどのラインを()()とするのかという事だがこれまでは艦内モニターなどで間接的に観察していたのと比べてリース達との接触以降、この世界についての情報収集が飛躍的に向上したのを鑑みればこの世界の住人達との直接的な接触は必須であろう。そしてその接触をどの範囲まで広げるのかという事だが単なる会話を交わす程度の交流やこの世界の文化を知るための物品を手に入れるための交易程度で収めるのは難しい。なぜならば自身の安全保障のためには少なくともこの戦艦『ヒュウガ』艦内は我々のコントロール下に置く必要があるからである。しかし、やり方を間違えば最悪の場合は外部より敵対的勢力を呼び込み、その介入を招く事態にもなりかねないので慎重に進めなければならない。


 この艦の能力をもってすればこの世界を丸ごと平らげる事も全てを破壊してまっさらにする可能だろうが俺はその必要性を全く認めなかった。

 空想の物語の世界では帝王だか魔王とかがそーゆーことをよく行っているがそれは話が面白くなるために必要なのであって現実ではそう甘くない。せっかく発見した貴重な地球外生命体が存在する環境を破壊するのは論外であるし、征服して支配下に置けば多少は調査が容易になるかもしれないが代わりにそれらを政治的に統治する必要が生じてくる。俺が地球に居た時点もアメリカや先進国が中心になって世界を統治していたし、その後にも様々な勢力が地球や太陽系を統治を行っていたが傍から見るとどう考えても苦痛以外の何物では無く、ハッキリ言って自分がやるのは真っ平ごめんである。

 その様な煩わしい事は野心とか権力だの、もっと直接的な場合は食料や資源などの何か満たされない者が行うのであって、単にこの世界の調査が目的で物資もエネルギーも充足していてサバイバルの必要が全くのない我々が行う意味が無い。

 オカマ口調の宇宙の帝王とやらに転売する植民星を征服するよう命令された戦闘民族でもない限りそのようなことをする必要はないのである。


 という事で俺がこのように定めた基本方針をこれから来るAI達に申し渡して調査を進めるわけだがその結果、この宇宙戦艦『ヒュウガ』が保有する生産設備はともかく威力過剰な兵装は奇しくも第二次世界大戦の同名艦と同じく無用の長物となった。

 そもそも例えばこの艦が生産かつ保有するレーザー水爆などの大量破壊兵器は外宇宙を航行するために危険なアステロイドや高速で飛来するデブリ等やこの艦の航行を阻害する星間物質を除去するためにあるのであって戦争に使用するためではない。人間には巨大な宇宙船であっても太陽の何百倍もの巨大天体が無数に存在する広大な宇宙においては塵芥(ちりあくた)にすぎず、一見過剰な兵器に見えても蟷螂の斧にすぎないのである。

 まあ、そんな心配をするまでも無くこれらの強力すぎる兵器は最優先の禁則事項として余程の理由で必要としない無い限りにおいて人間への使用を禁じられており、これはこの艦の最終管理者である俺でも覆すことはできない。

 であるので無暗に武力行使を行えず強硬策が不可能な以上、自然と平和裏な方法でしか調査を行うという結論にしか成りえないのだが……。


 とそこまで考えたところで扉の外よりカスミの声が聞こえた。


「マスター。

 追加要員のAIが到着しました。お目通りをお願いします」


 それを聞いた俺は


「入れ」


 と有能なのか無能なんだかよく分からない何故かもみあげだけ白いどこぞの頭取のように短く答えると俺の負担を肩代わりしてくれるであろう新たなメンバーを迎え入れたのであった。

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