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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第三号 異界接触編
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宇宙戦艦のベンチャー企業

 初めての異世界知的生命体との邂逅より二週間ほど過ぎたころ、俺はこの艦を運用するための組織構築に着手することにした。

 幾ら時間が有り余っているとしても俺とカスミの二馬力では限度がある。それを解消するために俺は追加で各分野で適性のあるAIを配置して組織化し、人員を増強することでこの異世界探査の効率化を図る計画を立てたのである。


 手始めにおざなりにしていたこの艦についての詳細を艦内ネットで改めて確認し、各種施設や武装および艦を運用するのに必要なAIやシステムなどの情報を収集していた。

 今のところはこの星を飛び出して外宇宙に出航とかなどをする予定も無いので、当面必要なのは艦内の状況把握兼実地調査と主だった設備の稼働に充てる人員のみを運用する事にする。


 大体、何故この巨大戦艦のトップたる俺が手ずから汗水垂らし、あまつさえバケモノ相手に必死こいてバトルなどしているのだろうか。

 世の大企業の社長とかレバノン人CEOなどというものは自社ビルの最上階の空調の効いたエグゼクティブかつセレブな広い部屋で全面ガラス張りの窓から下界を見下ろしながら日々、パターゴルフを嗜んだり美人秘書の秘所を凸凹❤していると相場が決まっているものである。


 煩わしい世俗のよしなし事は配下に任せて俺は腰が悪くなりそうなほど柔らかいソファーに寝そべりながら結果だけ報告で受け取るというのがまっとうな組織としての本来あるべき姿ではなかろうか。


 別につい先日の自分に課した決意を忘れたわけでは無い。

 ただ改めて冷静に考えてみれば俺は宇宙戦艦の運用やら学術的な調査について特に見識があるわけでもない単なる一般人なのだ。それらを艦内ネットで多少なりとも学習できるにしても、本来自分に求められているのはあくまで人道的になにらやマズい事態になった時に一般の人間感覚での抑止役であることをわきまえなければならないのだ。

 決してサボリたいとかいう安易な動機では無い事を皆様におかれましてはご留意頂きたいものである。


 幕末の長州藩主毛利敬親(たかちか)公は別名「そうせい侯」と呼ばれていた。

 理由は家臣の意見をそのまま取り上げ「そうせい」とばかり発していたからだそうで一部では凡人と評価されているが、中途半端な能力のトップが動き回る害悪を思えば有能な部下に丸投げするのが賢明と理解していたのであろう。結果としてその方針が長州藩を時代の主役に押し上げ、最後に明治維新において回天の(こころざし)を成就させることになったのである。

 ここは俺もそれに倣い、この艦における桂小五郎や高杉晋作を配して実務を任せ、大まかな方針を示すだけで組織が回るようにすべきであろう。


 その為にこうして情報収集をしたり、運用組織の案を悪戦苦闘しながら構想しているわけであるがここさえ乗り切れば後でいくらでものんびり……もとい、本来の自分の役割である戦略的指揮及び監査役に徹する事ができるのだと自分に言い聞かせながら作業を進めていた。


「カスミ、選定していた追加要員のセットアップに関しての進捗は?」


 傍らに控えるカスミに質問する。


「追加要員について関する情報は既にまとめてあります。ただ今、マスターの記憶領域に転送します」


 異世界調査のための追加要員となるAIについては10日程前に選定を終え、カスミにそのセットアップ作業を依頼済みである。それらの要員は各自、ここの現状についての情報をあらかじめインプットされ、それぞれが運用する身体となる人工強化ボディを与えてこれから任務に従事すべく個別に必要な各種チェックおよび準備作業を行っていた。

 執務室の床からわずかに浮いているエルゴノミクス感あふれる椅子に座りながら俺はその情報が自分にインプットされるのを感じると空中のモニター映像に投影させてそれらを目視して確認する。


 現在、俺はイベントホールのメインエリアに隣接するサブエリアの一つに拠点を作り作業を行っていた。わざわざここに腰を据えたのはいちいち中央制御室に転移するのも面倒だし、いずれここの住人と接するのに安全のために艦内の中枢区画と切り離された場所が必要と判断したからだ。

 拠点となる住居の外観は艦内および周辺地域のモニタリングで現地住人の建築文化を確認の上で検討した結果、三階建ての明治初期の顕官(けんかん)が住んでいたような瀟洒(しょうしゃ)な洋館となっていた。個人的には平屋の日本家屋とかもっと一般庶民のような住居でも良いのだが、ここの主としての威厳とかを考えると多少の箔付けが必要だろうと考えた末にこうなった。

 内装は広い玄関ホールにシャンデリアが瞬いて多数の部屋に続く装飾過剰な扉が並び、レプリカではあるが有名な絵画や彫像が所々に飾られたお貴族様調の装いとなっている。

 言うまでも無くこの建物も例のよく分からん未来技術で瞬く間に建造している。そして見た目とは異なりこれも謎技術により重砲弾でもビクともしないドイツの高射砲塔並みの過剰ともいえる堅牢ぶりである。


 例の異世界三姉妹もそれぞれに部屋を与えてここに住まわしている。あのデカイ蛇形態ならともかく人間の姿とあってはその辺の床に寝てろという訳にもいかなかったので止む無くこうした次第である。

 彼女らに関しては今回の地球外生命体調査ミッションの要員としては考えておらず、せいぜい現地の情報提供者としてのオブザーバー扱いである。

 出会った当初よりやたらプライドが高いタカビーかつ脳筋であったのを鑑みれば穏当な交渉事を任せるのは無理筋というものであろう。とはいうもの現時点ではこの異世界で唯一コミュニケーション可能な住人ではあるので取り敢えず下にも置かずに丁重に扱っている訳である。


 追加要員のセットアップ作業に関しての進捗状況をチェックし、俺が用意した異世界調査のための組織図と配置についてその内容に問題がないことを改めて確認すると俺はカスミに指示を出した。


「追加要員のAIのセットアップ作業に関しての進捗状況は了解した。

 報告には既に完了とあるが今ここに全員招集する事は可能か?」


 それを聞いたカスミは間を置かずして返答する。


「マスター、追加要員となるAIについての全員直ちに召喚可能です」


「分かった。直ぐ手配してくれ」


 そうカスミに指示を出して新たな異世界探索への陣容を整える第一歩を踏み出した俺は椅子の上で身体を伸ばして天井を見つめながら深く息を吐いたのであった。

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