宇宙戦艦の異界転生
あれから時は流れた……。
悠久の時を異世界に捧げた俺は全ての始まりである中央制御室の椅子に独り横たわりながら追憶に浸っていた。
俺は太陽系連合所属ヒュウガ級宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』。
遥か昔に故あってこの異世界に転移してより未知の世界の観測者を志し、自らを調停者と号して陰日向に世界の破滅を救う事六十四度。一度として後れを取る事無し。
なれど今、歳積もりて既に二万六千二百歳。
尋ね入るべき路も無く、老いて寂滅の時を迎えようとしていた。
これも天の摂理か……。
……
……
カスミ……。
俺には過ぎたパートナーであった。
訳あって袂を分かってから後も優しい言葉の一つもかけなかったこの俺を恨みもせずにお前は俺を探し続け、ついに消息不明になったという。
許せカスミ……。
お前の気遣いは時に俺の戦いの妨げとなっていた。
俺は戦った。
目的を果たしては更なる目的を求め、俺の行く手を阻むものはついに絶えた。
かつて肩を並べて世界を救った同胞も今は無く、それを語り継ぐものも絶えて久しい。
それらの物語はやがて伝説となり、さらに果てを知れない時を重ねて神話となった。
しかし長年の酷使から俺の能力は衰え、この艦を動かす力も失せた。
これも天命であろう。
……
……
……
そうして静寂の中でただ自らの滅びを見つめていたその時、誰も侵入できない筈の中央制御室に人影が差した。
「何者!」
俺の誰何にその影が答えた。
「某は魔王『インペリアル・ウィード』。
魔界よりあなた様をお迎えに参じました」
永らくこの世界で時を過ごした俺でも噂にしか聞いた事の無い伝承の存在でしかないはずの魔王。
よもや本当に存在していたとは……。
そう思いながら俺は相手の意図をつかみかね、虚ろな心で返答した。
「魔界より俺を迎えに……」
それを聞いた影は全てを察しているかのように言葉を投げた。
「ヒュウガ殿。貴殿にして転生のご意志があれば我ら魔界にご案内つかまつる」
その馬鹿げた誘いに俺は深く目を閉じて短く返す。
「俺に転生の誘いか……笑止な。今更この世に何の未練があろう」
この世界の調停者としてすべての障害を排除して大願を果たした今、俺は大いなる満足に包まれこの世を去ることが出来る。
栄光に包まれた過去を思い起こしながら俺は最後の時が間近である事を感じ、誰に語るともなく言葉を紡ぐ。
「お前たちには信じられないようなものを俺は見てきた。
ラキウス座の近くで燃える宇宙魔法生物……。
バルサケス・ゲートの近くで暗闇に瞬くFビーム……。
そんな思い出も時間と共にやがて消える。
雨の中の涙のように……。
いま死ぬ時が来たのだ……」
そうして今度こそ自らの終焉を悟った次の瞬間にどこからともなく声が聞こえた。
「マスター。お気を確かにマスター」
俺は途切つつあった意識の中で驚きながら言葉を返す。
「誰だ。この期に及んで俺を呼ぶのは……
カスミ!?
カスミなのか?」
俺はその率直すぎる物言いに時に反発を覚えながらも長年の間、側を離れず献身的に付き添っていたあのAIを愛していた。
こうしてこの世界の救済という目的を達成した今、あのパートナーの行方を想うと俺の心は尚更にときめく。生涯の伴侶に出会った時のように。
今もし、俺に未練があるとすればお前ともう一度、心ゆくまで言葉を交わしたいという業の如き願望であろうか。
ああ……生きたい。
俺たちにふさわしい舞台の上で。
逆巻く紅蓮の炎渦巻く艦橋の中で俺のパートナーのカスミと言葉を交えるため……。
「帰ってきてくれ。カスミ……」
そうして、最後の意識が途絶えた俺に影が近づき言葉を投げた。
「ヒュウガ殿。ご心中確かに承った。
これより魔界へお導き致しましょう」
……
……
……
……
……
……
* * * * * * * * * * * * * * *
「……っていう芝居を考えたんだがどうだろう?」
食堂でのティータイムで今度の艦内イベントで芝居を提案し、その脚本のあらすじを話した俺に目の前の面々が微妙な表情を浮かべながら答えた。
「どうして私が行方知れずになっているのか理解できません。再考を要求します」
「えっとぉ。艦内アーカイブにそっくりな昔の映画がヒットしているんですがぁ。著作権が切れているとしてもぉ、丸パクリはあまり感心しないですぅ」
「死者を別の存在に転生させるなどと非魔法的な設定は無理があるかと」
「考えすぎで設定が難解なため観客が理解できないと思われます」
「濡れ場が足りませんわ」
などの周囲の無理解による容赦ないダメ出し多数により俺が三日三晩熟考したこの話は却下されたのであった。
2020年の4月バカ投稿です。




