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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
41/64

宇宙戦艦の異世界の料理ショー

「さあ! いよいよ始まりました第一回チキチキ異世界の料理ショー! 拍手ー!」


 突然のタイトルコールにあっけにとられた感じのテーブルに座った異世界三姉妹に俺は拍手を強要する。

 カスミは俺の隣に立って相変わらずの無表情でやる気のない感じの拍手をしていた。


「今回の料理は『ドーナツ』!

 特別ゲストとしてロカグ……ロカグュクニル姉妹の方々にお越し頂いています。

 で、最近どう?」


 いきなりの無茶振りにたじろぐ三人。


「え? え? へっ?」

「え、えーと……?」

「はい! はいっ! ワ、ワタシは主様と……」


「はいっ!

 という訳で審査員はわたくし『ヒュウガ』とその補佐役の『カスミ』が務めさせて頂きます」


 とエルベの言葉を遮ると奴は例によって「はぁん」とか艶っぽい言葉を発して頬を上気させた。もう完全にオチ要員である。


「それでは早速、本日の料理人である『マミヤ』に料理に取り掛かっていただきましょう!

 アレ・キュイジーヌ!」


 といった勢いに任せて感じで調理台に立つマミヤに料理開始を指示した。

 なんでゲロ吐きそうなアホな感じのテンションでこんな道化回しをしているかというと、このキッチンに入ってからお互いにほとんど会話が無かったからだ。

 激闘の後に訳も分からず連れてこられたリース達はまだ態度が固く、生真面目なカスミには器用に取り持つなんて無理だろう。逆にカスミがいきなりハイテンションで司会とかされたらこちらがドン引きである。


 という訳で安土城落成時に手ずから入場料を徴収した織田信長公に習い、止む無く自らホスト役として何とかこの場を和ませようと尽力しているにもかかわらずカスミが微妙な表情で俺を見ていた。親の心子知らずとはこの事だ。いや、娘じゃねえけど。


 そんな心労を表に出さずになんとか取り繕っていると


「はぁい。了解しましたぁ、マスター。

 調理担当『マミヤ』、ご命令に従い『ドーナツ』の調理を開始しまぁす」


 とマミヤが容姿通りのおっとりとした感じで答えた。


 おお……いいよ……癒される。

 気に入った! 家に来て妹尾(せのお)をファッ○していいぞ。

 そんなんいねえけど。つーかどこの妹尾さん? 河童? それともハードパンチャー?


 といったインテリジェンスに満ちた感想を心中で繰り広げている間にマミヤが自ら調理手順を解説しながら調理を始めていた。

 彼女には他の面々がただ黙々と調理するマミヤを見るだけでは間が持たないので調理方法を説明しながら料理するように命じてある。


「まずはぁ、薄力粉をふるいにかけてぇ、細かくしまぁす」


 となれた感じで手際よく調理を進めた。

 その様子を俺たちは調理台を挟んだテーブルに座って眺めているが、正面からでは何をやっているのか良く分からないので、予め手元がよく見えるようにその模様をモニタリング映像として空中に投影している。


 リース達はそれを見て


「なっ! 空中から手が!」

「いったい……どのような魔法なの?」

「えっ! 何? 何?」


 などと、文明を知らない未開人のような反応をしていた。

 まあ、実際その通りなんだろうけど……。

 違うから。見るところはそこじゃねぇよ。


 そんな見当違いの感想を漏らす異世界人ズをよそに淀みなくマミヤがドーナツ作りを進める。そして手早く材料を混ぜて生地を作り、どんな仕組みか分からないが生地を寝かせる工程を見た事の無い器具で短縮すると、ドーナツ用の型でリング状に成型する。


 ふと、隣に座るカスミを見るとマミヤの作業をじっと凝視しているのに気付く。その真剣な様子に俺は声をかけることが出来なかった。

 俺が今回の探索の初めに言った言葉を忠実に守り、今体験していることから一生懸命に何かを学ぼうとしているのだろう。俺はそのまま何も言わずにカスミに心の中でエールを送ることにした。


「それではぁ、これを予め160℃位まで温めた油で揚げまぁす」


 と、マミヤが植物油を満たしたフライヤーに大量のドーナツ生地を投入する。

 派手に油がはぜる音が厨房に響くと同時にほのかに甘い感じのするいい臭いが辺りに充満した。


 さっきまでマミヤの一挙一動に騒がしく声を上げていたリース達が急に静かになったので見てみると口を開けてよだれを垂らして凝視していた。よほどお腹が空いているのであろうが折角の美人が台無しである。

 しかし俺もマミヤが網じゃくしで油の中のドーナツをひっくり返す度に上がる油が沸く音とその特有の油臭さを嗅ぐと食欲がそそられ、口の中に唾液が溢れて思わず生唾を飲み込んだ。


 そのまま暫くの間、誰も言葉を発せずにその様子を見ているとドーナツがきつね色に色付いて油の表面に漂って浮いてきた。それを見たマミヤが手早く油きりにドーナツを回収し、あっという間に調理台の上に大量のドーナツの山が出来上がった。


「これでぇ、オールドファッションドーナツが完成でぇす」


 と、マミヤが宣言したこの瞬間に地球のドーナツが初めて異世界にその愛らしい姿を現し、その後広く大衆に愛されるお菓子として伝播したのであった。

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