宇宙戦艦のコックさん
まあ、そんな感じでドーナツを作るのだが、材料は……
薄力粉、砂糖、卵、牛乳、バター、ベーキングパウダー、バニラ香料
となる。他に揚げるのに植物油が必要だ。
卵、牛乳、バターを合成するのが少し微妙なところだが、まあ肉や野菜とかよりはマシであるし取り敢えず必要なので目をつむることにする。カスミに材料の合成を任せるとして、俺は調理するのに必要なレシピを艦内ネットから検索した。
**** ドーナツ(オールドファッション)の作り方 ****
1.薄力粉を粉振い器で振る
2.常温のバターを滑らかになるように砂糖と混ぜる
3.2に牛乳と溶いた卵を混ぜる
4.3に数回に分けて薄力粉をさっくりと混ぜる
5.4の生地を冷蔵庫で30分ほど寝かせる
6.生地をドーナツ状にして表面に切り込みをいれて打ち粉をする
7.160℃位の中温の油できつね色になるまで裏返しながら揚げる
えーと……結構めんどくさい。
普通の料理は自炊して作ってはいたが、菓子は作ると二、三人前とかでなくかなりの量になるためそんな大人数に食べさせる機会の無かった俺はほとんど作ったことは無い。
そしてレシピ通りに作れば失敗はしないのだろうが、じゃあ美味しく出来るかというとそれは別の話である。
昔、自分で本格的なインドカレーを作ろうと思い、ネットでレシピを調べて各種スパイスを買ってきてフライドオニオンを作り、にんにく、しょうがに刻んだトマトとヨーグルトと鶏肉を入れてレシピ通りにスパイスを調合したが、結果としては食えないことは無いが近所のネパール人が作ったものを買う方が断然、安くて美味いという無駄に金と時間を浪費しただけの悲しい出来事があった。
という訳で料理のプロがいればそちらに任せるのが賢明なのだが……
「カスミ、料理を作ることは可能か?」
一応、カスミに聞いてみるが
「いいえ。私には食材を調理するような機能は備わっていません」
という予想通りの返事が戻ってきた。
仕方なく手ずから調理することを覚悟しようとしていると……
「ですが他に調理担当のAIが居ります」
カスミが後に続けて答えた。
「え! いるの!?」
俺は予想だにしない返答に驚く。
今までカスミ以外のAIとかの存在は全く頭の中になかった。しかしよく考えると一つ思い当たる事がある。艦内ネットで見たイベント時の様子にやけに見目麗しい美少女の受付嬢やらコンパニオンとかが多いと思ったらそういう事だったのか。
よく考えればこんな巨大な施設を人間相手に運用しようとすれば相応の人的資源が必要なのは当然だ。現状では必要ないかもしれないが今後本格的にこの異世界で活動するにはそこのところの情報を真面目に検討する必要があるだろう。
というか最初にそうしとけば俺が先陣切ってこんな苦労する必要なかったのでは? と思いガックリきた。
そんな感じでうなだれているとカスミが
「今すぐここに召喚する事が可能ですが実行なさいますか?」
と尋ねてきたので
「ああ、ここに来るように処理してくれ。
その際に現状についての情報もあらかじめインプットするようにしろ」
俺はそう返した。
全て翻訳OFFでの日本語での会話なのでリース達は不可解なものを見る表情で俺とカスミを見ていた。またぞろ、何か自分たちが理解できない『魔法』の呪文を唱えていると思っているのかもしれない。
そんなリース達をよそにしてカスミが準備を始めた。
「宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』艦内衛生部・管理栄養士及び調理師メイン担当AIの"マミヤ"を起動します。
――現状までの艦内レポートをインプット。
――疑似人格プログラムとの整合性確認。
――人工強化人体の親和性チェック問題なし。
――イベント用厨房への転送を開始します。
量子転送プログラム起動――――
――目的地をJ-25エリアの215-19に設定――
――転送前量子安定化シミュレーションチェック全て正常――
――量子転送プログラムを実行します」
カスミの呪文じみたレポートの口述が終わると先程と同じように俺の前に光の粒子が漂い、間を置かずしてそれらが収束すると一人の女性の姿をとった。
現れたのは洋食の白い調理服を着たおっとりとした感じの女性だった。頭にコック帽を被り、肩より少し長い栗色の髪を後ろで編み込んでまとめている。背はカスミより高いが俺より少し低く、体格は少し肉感的というかぽっちゃりだ。正確な状況把握のため止む無く確認するが胸はカスミより一回りおおきい。胸はカスミより一回りデカイのだ。
ちなみにこの艦に関わる例のゲームにも同名のキャラクターが存在するが、カスミも含めて全く似ていない。理由は明確でそのまま再現すると容姿や性格、言動に問題があるからだ。ゲームのキャラには見た目が幼女同然の者もいるし、外出した途端に通報必死のいでたちであったりするのもいる。性格や言動もゲーム内では許容できても人間社会で実際に活動するのに支障があるものも少なくない。
当然、この艦の運用には不適格な要素なのでここのAIの容姿や性格は人間社会の常識の範囲内に収まるような仕様となっているのである。まあ、俺もカスミとかに「クソマスター」呼ばわりされればグーパンの一つでも出てしまう可能性もあるのでやむを得ない仕儀であろう。
ともかくも、美女に囲まれるという状況は俺も男性であるので悪い気はしない。むしろイイ。こーゆーのだよ、こーゆーの。
もしかしたら宇宙の果てに一人放逐する俺に対しての創造主らのせめてもの贖罪のつもりなのかもしれない。そう考えると彼らの仕置きをぴっちり横分け鼻デカ兄さんとラ○ス国務長官に変えて、シベリア送りをマガダン止め位に勘弁してやってもいいとも思えてきた。
そんな風に思い致していると目の前の女性が俺に向かって言葉を発する。
「お初にお目にかかります、マスター。
私はヒュウガ級宇宙戦艦一番艦『ヒュウガ』の主計科主計長兼掌衣糧長AIの"マミヤ"と申します」
そう自己紹介をするとマミヤは腰を曲げて頭を下げた。
「ご苦労。
突然の呼び出しで申し訳ないが早速調理に取り掛かってくれ。
作るものは『オールドファッション風ドーナツ』だ。取り敢えずプレーンのみでいい。
カスミ、マミヤに協力して材料を用意しろ」
俺は顔合わせもそこそこに指示を出す。
ついでカスミの時と同様に警戒しているリース達にむかってマミヤを紹介して食べ物を作る旨を説明した。
こうしてようやく異界の三姉妹をゲストに迎えて異世界の料理ショーが開催される運びとなったのであった。




