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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
38/64

宇宙戦艦のHYUGA'Sキッチン

 母も無く(すそ)に取りつき泣く子らと美人とお釈迦さまには勝てない人情派宇宙警部(デカ)貴族の俺は止む無く欠食姉妹三人を引き連れてイベント用厨房へ向かうことにした。


 その際に俺が食べさせてやると言ったにもかかわらず、エルベが最後までしつこく俺の足を舐めるようにまとわりついてきたので金色夜叉よろしく足蹴にしたらうっかり攻撃アクション(弱)が入ってしまったのだが、あろうことかこの変態はその痛みで達したようで「あはん」とか嬌声(きょうせい)を上げて床の上でピクピク痙攣しやがったのを残りの三人で電柱の下の吐瀉物(としゃぶつ)を見るような視線を投げつけた事を除き、つつがなくこれからの集団行動での指示系統や方針についてのすり合わせが進んだ。というかキミらの妹なのでちゃんと教育して頂きたい。


 そんなこんなで俺をリーダーとして新たに三人のお供を引き連れて、床のツタに足を取られないように気を付けつつイベントホールを横断し、今は格納されているステージの横にある関係者用出入口にたどり着く。

 ここはツタの侵食も少なくわざわざ除去する必要も無さそうだったので、俺はそのまま入口の前に立つと音も無くスムーズに扉が開いた。


 そこで俺は一旦、三人にここで待機するように指示すると一人で扉の奥へ進む。

 関係者用区画はイベントホールよりセキュリティレベルが高く、人がいない場合は完全に閉鎖されているので侵入植物の姿は見当たらない。

 出演者用の楽屋の扉が左右に並んでいるのを素通りして俺は廊下の中ほどの十字路を曲がって立ち止まった。


 そこで俺はカスミに指示を出す。


「カスミ。

 今からこの装備を解除するので新しく着替えを用意してくれ。……パンツ以外をだ」


<了解しました。マスター>


 カスミが答えるのと聞くと俺はボロボロになった物に代わる新しい服についてカスミに伝え、今度は艦内活動用の標準的な作業服に着替えた。見た目は単なる濃い青色の自動車整備士のツナギのようだが例によって23世紀の最新技術が色々と使用されて無駄に高性能である。

 わざわざ隠れて着替えたのはみだりに女性の前で肌をあらわにしないのという俺なりの紳士の嗜みによるものであって、外で待機している約一名の変態を恐れてという訳でない。


 服装に問題が無い事を確かめた後に俺は通路の奥にあるイベント用厨房連絡口へと進み、それに似合わぬ宇宙船のエアロックのような分厚く重々しい扉をチェックした。イベント用厨房は厳密な宇宙船規格で定められた防災・衛生基準に従っているためここよりさらにセキュリティレベルと隔離レベルが高くなっているのでここは他と比べて格段にクリーンなはずだ。

 カスミに指示しつつ各種センサーを使用して他者による侵入の形跡が無い事を確認すると俺は(きびす)を返してイベントホールへ戻った。


 イベントホールで待っていた三人は服装が変わった俺を見てわずかに反応したが、特に目を引くような姿では無かったのか何も聞く事無くスルーした。そんな反応を見て俺はいっその事、天○茂が明智小○郎の美女シリーズでやった早着替えでもしてダンディな白いダブルスーツでも見せつけてやろうかとも思ったが今はそれどころでは無いので断念する。もしやるとすれば美女が全裸死体で発見されるとこまで考慮しなければならないだろう。


 そんなダンディズム溢れる野望を胸に抱いたまま、改めて俺は三人を引き連れて再び先ほどの廊下を通ってイベント用厨房の入口まで戻り、その重厚な扉を開いて中に入った。

 初めて直接見る厨房はモニタリング映像で確認した通り、永らく人の手も入っていないにも関わらずチリひとつなく、棚や調理台にある調理道具や各種器具も破損や錆びた様子も無く今すぐ使用可能に見える。


 それを見たお供の三人は


「これが……本当に台所なのですか?」

「見た事の無い道具ばかりです……」

「シンプルだけど洗練されたデザインで美しいですわ」


 とそれぞれ感想を口にした。

 彼女らにとってここは異界の厨房であるので驚くのも無理はないだろう。かく言う俺も各種ある調理器具で俺が地球に居た時代より後に発明された物なのか何に使うのか皆目見当がつかない器具も幾つか見受けられる。


 そうして暫くの間、一通り厨房を見渡してなんら異常が無い事を確認した後に俺は一時的に翻訳機能をOFFにしてカスミに指示を出した。


「カスミ。艦の制御を一旦サブに移管してここに来い」


<了解しました。

 補助制御機構AI"カスミ"のサブプロセスを起動し、一時的に戦艦『ヒュウガ』の中央制御管理タスクを移管した後、即座にイベント用厨房へ向かいます>


 突然、誰に向かうでもなく理解できない言語を話し始めた俺を怪訝そうな顔で見る三人だったが、次の瞬間に光の粒子と共に姿を現したカスミを見て目を向いて驚愕した。


「なっ! い、一体どこから現れた! 何者だ!」


 予想通りの反応でリースがカスミに向かって身構えるのを制止して俺は彼女らに答えた。


「安心しろ。こいつは俺の忠実な『(しもべ)』だ」


 そんな様子を見たカスミは彼女らを少し確かめるように見つめた後、


「お初にお目にかかります。私は『カスミ』と申します。

 ここの主である『ヒュウガ』様の補佐を担当しております」


 と頭を下げる。

 カスミとはさっき服を着替えた際にこの艦の情報について当面の間は秘匿するよう打ち合わせ済みだ。


 すると驚きの表情のまま言葉を発せずに見ていたミルノが俺に


「も、もしやこれは噂だけで存在しないとされた伝説の『召喚魔法』……

 もしかしてあなた様は『大隠者』様なのですか?」


 などと尋ねてきたのを見て俺は


「そんな奴は知らん。昔のことは忘れた」


 あえて曖昧に含みを持たせるような言い回しで強く否定をしなかった。勝手に都合のいい解釈をするなら説明の手間が省けるだけそちらの方が都合がいいだろうと判断したからだ。さっき翻訳機能をOFFにした時の言葉も理解できない側からすると魔法の呪文に聞こえたのかもしれない。


 果たして尊敬のまなざしで俺を見るリースとミルノだったが、エルベはなにやらカスミを凝視して沈黙していた。よく見るとエルベの顔が紅潮して息が荒い。もしかしてそっちの気もあるのかよ……どんだけ属性を盛るのだろうかこの性的倒錯者は。

 

 そんな訳でこの(たび)の異世界珍道中もようやくここで終点にたどり着いて幕引きとなるのだが、最後にここに来た目的を達成しなければなるまい。


 さて、何の料理を作ればいいのやら……

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