宇宙戦艦の猫目三姉妹
突如現れた美人三姉妹に多少緊張しつつも俺は質問を続けた。地球に居た頃でもこんな美女達に囲まれた事は無いので少し気後れする。
「で、お前らは一体何者なんだ?」
それを聞いてトンカチが
「申し遅れましたご主人様。ワタシの名前は……」
そう答えるのを遮って俺が
「今日からお前らはトンカチ、チンプイ、カンニングだ」
とそれぞれに指差しして命名した。
やはり何を置いても最初によき名前を授けるのが主人としての務めであろう。日本の武家社会でも家臣に褒美代わりに名前を下賜したというし。べ、別に今更名前を覚えるのがめんどくさいという訳じゃないんだからねっ!
いや、それならば自分の名前の一部を入れるべきではなかろうか。
それならば『ヒュウガ』とヒュドラを合わせてヒュド子、ヒュド代、ヒュド美とかの方が良いのでは?
そんな思案をしているとトンカチとチンプイがうつむき加減でからだをプルプル震わせながら俺に涙目で無言の抗議しているのが見えた。
一方でカンニングは「はぁん」とか艶っぽい言葉を発して悶えているが当然スルーである。
俺はその様子がなんだかちょっと可愛かったので仕方なく
「分かったよ。で名前が何だって?」
と許可をだした。
するとトンカチが改めて話し出した。
「ワタシはリースルマノニル・ユド・ロカグュクニルと申します。
これが上の妹のミルノルマノニル。こちらが下の妹のエルベルマノニルです」
そうチンプイ改めミルノルマノニルとカンニング改めエルベルマノニルをそれぞれ手で指し示しながら紹介する。異世界の命名規則とかは分からんがとりあえず普通に発音できる名前であったことに安堵した。
ただ、呼ぶのにはちょっと長い。
「済まないが呼びにくいのでリース、ミルノ、エルベと呼んでも構わないか?」
俺が提案すると
「「「主様の望むままに」」」
と三人そろって屈みながら頭を下げた。正直言って元の世界で一般庶民でしかなかった俺としてはかなりいたたまれない感じである。まあ、あの戦いの後では直ぐに打ち解けろというのも無理だろう。そう考えながら俺は話を続けた。
「俺はここの主である『ヒュウガ』だ。
長い眠りに就いていたが、少し前に目覚めたらココの様子がだいぶ変わっていたので見回っているところだ。お前たちは何故ここにいるんだ? ここで何をしている?」
そうリース達に質問する。
当然、自分の出自は伏せている。物資やエネルギーが無尽蔵で強力な武力を有する他所の世界の宇宙戦艦なんて言っても信じないだろうし、理解されてもトラブルの元でしかない。ただ、この世界の知識が無い事は話していればいずれはバレる事なのでそういう設定にする。
「わ、ワタシたちはここに少し身を置かせて頂いているだけです。ここには他に侵入してくる者もないので大人しく三人で身を寄せ合ってじっとしていました」
それを聞いて俺は
「侵入者を避けているって……お前ら誰かに追われているのか?
何かヤバい事をした犯罪者とかって事か?」
少し眉を潜めながら言葉を返すとリースが慌てた様子で
「ワタシたちは何もやましい事はしていません!ただ、その……」
と反論しつつも言葉を濁した。
どう見ても住んでる村を追われた難民とかというタマには見えないので何かやらかした(いやらしいレオタード姿の窃盗常習犯など)か、何らかのトラブルから逃げだしている最中とかなのだろう。出会ったばかりでは正直に全部話せと言っても無理だろうし、結局のところ当人の話だけでは何が本当かも分らん。逆にあまり深く関わるとこっちに火の粉が飛んでくる可能性もある。とりあえず現時点ではこの世界を知るための唯一の情報源なのでここはこれ以上の追及はしないでおこう。
「まあ、細かい事はいい。事情も聴かん。
こちらに害が無い限りはここにいても構わない」
そう、俺が伝えると
「寛大なお心、感謝いたします」
と三人が再び頭を下げた。
そして俺はこの世界についての質問を続けた。
――1時間後。
その後、三人に質問を続けて分かった事は以下のような内容だった。
・この世界に名前はない。国や地域についてはそれぞれ名前があるがここが惑星であることやどれだけ広いかも一般には理解されていない。
・この場所は『マヌドツワージュ』大樹海にある名も無い山(船でなく山と認識されている)で周囲にはここの他に山や丘が無いためこの一帯の目印となっている。未開の地域として認識されていて、現在はここら辺を統治している勢力は存在しない。
・内部に正体不明の遺跡がある事は知られていて古くから様々な理由で元の住処を追われた者を始め、学術的な探索者や金儲け目当ての者などが流入し、最後にそれらを相手に商売をする者も集まって内部で複数の集団を形成しているそうだ。
・『魔法』は行使できる者は限られていて使えない者の方が多い。彼女達は高度な『魔法』の使い手で火が得意だが水・風・土などの属性についても使えるとのこと。ちなみにどこかに一瞬で移動できるものや時間を操作するようなものは存在しない。
・例のこの艦の各種センサーを謀った隠ぺい魔法は正確には『加護』であり、エルベが影の『精霊』の高位巫女であるため使用できる術らしい。そう話したエルベがウザいドヤ顔をしていたがどうせストーカーとかのぞきが目的で覚えたに違いない。
・彼女達は『フルムツルト』族につらなる種族で今の人型とあの巨大なヘビの姿に変化することが出来るがどちらが本当の姿という事は無いそうだ。同母の姉妹か同父の兄弟なら巨大なヘビの姿で合体することが可能らしい。あのヒュドラ形態だと長い間、飲まず食わずで居られるのであの格好でここに動かずにいたとのこと。言葉の端々にやんごとなき出自である感じがにじみ出ていたが関わりたく無いので全部スルーした。
あらかた最低限必要な情報を聞き出したところでミルノが
「主様はどうしてこちらにいらしたのですか?」
そう逆に質問してきたので俺は
「さっきも言った通り、久々に目覚めたから取り敢えずここら辺を自分の目で確認していたところだ。
ああ、そういえばここの先の台所で何か食べ物を調達しようと……」
と別段隠す事も無いので話していたら突然言葉を遮って
「「「食べ物!!」」」
と勢いよく三人そろって食いついてきたので
「やらん!!」
なんとなく意味も無く反射的にそう返す。
すると即座に生者に群がる生ける屍のように三人が涙目で足元に縋り付いて懇願してきた。
そんな様子を見て俺は「たとえ異形の者であっても母を慕う心は同じなのだ」などど当たっていない上に見当違いな解釈をしつつ(そう思った方が興奮するので)、料理を三人前追加する事を了承させられるのだった。




