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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
36/64

宇宙戦艦のお白洲裁き

 湿った床にうつ伏せの嗚咽するヒュドラをどうすることも出来ずに放置してから半時ほど経った。

 俺はその間に壁際に打ち捨てたじょうろ砲を回収し、光子ブレードを腰に収めてヘルメットだけ外すと、イベントホールの床に収納されていた観客席を一つだけ引き出して身を預けて深く座りながら、異世界初どころか生まれて初めてと言ってもいい派手なバトルイベントで昂揚したテンションを静めていた。


 そして、ヒュドラが泣き止んでようやく落ち着いてきた頃を見計らって


「カスミ。こいつが出した排泄物を除去しろ。ついでに消毒だ」


 そうカスミに指示した。

 まずはばっちいので汚物は消毒である。


<了解しました。

 当該生物と周辺の床の排泄物を選別して分解し、同時に電解水による殺菌を行います>


 カスミが答えるのと同時にヒュドラの周りが蒸気に包まれ、次の瞬間には処置が完了していた。


 その現象に少し驚いた様子のトンカチが呟く。


「これは……『清浄魔法』?」


 それを聞いた俺は


「そうだ」


 とのみ答えた。

 いちいち説明するのも面倒だし、俺にも理屈はわからない。

 十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとか言う通り、『魔法』とか思わせておいた方が手間が省ける。


 そして俺は改めてヒュドラに顔を向けて


「で、お前たちは降伏する意思があるのか? イエスかノーか?」


 まるでシベリア特急の名探偵将軍のように俺は尋ねた。

 ただし、もうドンデン返しとかはご遠慮願いたい。


 目の前で器用にも正座しながらこちらを向いてうなだれたヒュドラは少し頭を上げると


「「……も、もうしませ」」

「……も、もう少しだけ……」


 か細い声で答えたが、特殊性癖所持者の返答が不協和音となって発せられたのが分かると他の二匹がカンニングに向かって


「「アンタは黙ってて!!」」


 と声をそろえて制止した。

 そして、あたらめてこちらを向き


「「もうしません。許してください」」


 と頭を下げた。

 戦闘中の会話でこの異世界言語の解析が進んだのか不明瞭な言葉も無くスムーズに会話が出来るようになっていた。


 俺はこの世界でも頭を下げる動作が日本と同じく謝罪の時に使われるのかと心の中で妙に感心しながら答える。


「俺をここの主と認めて、大人しく言う事を聞けば許す」


 それを聞いたトンカチが


「わ、ワタシはどうなっても構わないので妹達には手を出さないで」


 などど、殊勝な言葉を返した。

 ここだけ聞けばまるきりこちらが悪者のようである。

 

 しかし……

 俺は目の前でうなだれるヒュドラの巨体をまじまじと見ながら考える。


 で、なにをどうしろと?


 だってアナタ、結局でっかいトカゲではありませんか。

 僕はノーマルなので特殊なプレイはノーサンキューです。


 それはそれとして左乳と右乳(見た感じはマッチョな大胸筋だが)で性感帯の分担が違ったりするのだろうか。

 まさか! もしや実はアレが3つ付いているのでは?

 と決してイヤラシイ意味では無く、あくまで学術的に生物学上で興味のあるあれやこれやに思考を巡らせる。


 そんな、感じで俺が無言で凝視していると


「あ、あのー……」


 と、トンカチがもじもじしながら沈黙を破った。

 それを聞いて俺は我に返り、ヒュドラに対して


「あ、ああ。

 お前の身体をどうこうするつもりはない。

 ここで暴れて何かを壊したり、勝手に物を持って行ったり、必要以上に他の者に危害を加える事を禁止する。

 俺をここの主と認め、大人しく俺の言うことに従えばここに住むことも許可しよう」


 そのように通達した。

 正直、このバカでかい艦は俺一人の手には余るものだし、こちらに危害を加えない限りはここに住むことも問題無い。むしろ、わざわざ外に出なくてもここでこの世界の様々な生命体の観察が行えるなら返って好都合だ。


 それを聞いたヒュドラは


「「「寛大な処置ありがとうございます! ご主人様!」」」


 と声をそろえて返答した。

 しかし、その後でトンカチのみ


「あ、あの……私の身体は魅力が無いでしょうか……」


 頬を染めてモジモジしながら質問する。


 だから、どうしろと。


「いや、そういうのじゃないから」


 俺はやんわり言葉を濁して拒絶する。

 その言葉を聞いたトンカチががっくりとうなだれた。


 マッドなサイエンティストであれば解剖でもしたいと思うのかもしれないが、なんか見た目がレアな生き物っぽい感じだし、折角できた意思疎通が出来る異世界の知的生命体の伝手なのでここはとりあえず友好的に接する方が賢明だろう。

 まあ、異世界の生物の身体構造とか魔法なども興味があるが、それよりも欲しいのはこの世界の情報だ。

 だが、その前に


「お前ら、どっからここに入った?」


 と質問した。

 イベントホールには一応、大道具などの搬入口は存在するのでこの巨体でもここまで侵入する事は可能である。しかし、そんな大きな通路は限られているので行動範囲も制限されるはずだ。その他にこちらが把握していない大きな破損個所が存在したり、例の『魔法』とやらで艦内を好き勝手に移動出来たりする可能性がある。勝手に艦の中枢部に侵入されたり、それが検知も出来ないとなると大問題だ。

 そんな懸念を表に出さずに努めて冷静を装っていると


「それでしたら、このように……」


 そうトンカチが話すと突如、その全身が光に包まれた。


 俺は椅子から立ち上がって不測の事態に備えて身構えたが、間を置かずして光が収まるとヒュドラの姿は無く、その場所に人の姿をした三人の女性が立っているのが見えた。

 残念ながら全裸では無く、ご丁寧にもどこから出したのか不明だが刺繍が多めで露出の少ない中央アジア風ドレスを着用済みであった。シット!


 おれは予想外の出来事に呆気(あっけ)にとられる。


「ここに来るまではこの姿でおりました」


 そう、真ん中の女性(トンカチ?)が答えたが俺は直ぐに反応が出来ずに小声でカスミに質問した。


「カスミ、今のヤツはなんだ?」


<不明です。

 先程と同様に当該事象の発生時に未知の素粒子が観測されていますが解析にはまだデータが不足しています>


 結局、なにも分らずじまいでこの異世界について疑問が増すばかりだ。そんな風に考えながら改めて目の前の女たちに目を向ける。

 ぱっと見た感じは三人とも地球の人間と大して変わりがないが目は猫のように瞳孔がスリット状だった。しかし、髪の毛はそれぞれに赤、銀、黒と色が違い、背の高さも異なっている。容姿は地球の基準と比べても美人と言ってもいいだろう。


 ちなみ別にどうでもいいが胸は左側(カンニング?)>真ん中(トンカチ?)>右側(チンプイ?)という感じの大きさではある。

 左側(カンニング?)>真ん中(トンカチ?)>右側(チンプイ?)だぞ。重要な事なので二回確認する。

 別に覚えてもテストには出ない。しかし、夜の追試には出るかもしれないので紳士の嗜みとして俺は密かに心の中の重要項目に記録するのであった。

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