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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
33/64

宇宙戦艦の金属のメタルヒーロー

 部活の先輩に強要された後輩の如く恥ずかしい罰ゲームのようなセリフを発した俺は即座に光の粒子に包まれた。その光が収束し、全身から眩い輝きを発すると俺は目的のモノが無事装着された事を感じた。


 目の前の光景がヘルメットに付属するディスプレイ越しに切り替わったことを視認した次の瞬間、ビカッと視界が強烈な光で埋め尽くされる。


「ぎゃあぁぁ!! 目がぁ! 目がぁぁぁぁぁっ! あああああああぁぁぁっ!」


 意図せず例の名言を繰り出す俺。


 直ぐにマニュアルを頭の中で再確認すると小さく「※変身時にはヘルメットの目が強く輝く場合がありますのでご注意ください。」との注意書きが。

 畜生! 変な演出を入れやがって! と悪態をつき作成者を心の中で資産没収の上、シベリア送りリストに追加した。


 しかし、まだ争いの最中であるのを思い出し、即座に努めて冷静になるよう装うと自分の身体を確認する。手足と胴体は白銀に輝く金属装甲に覆われ、胸には黄色や赤色に不規則に明滅するアナログチックなパネルが付いていた。直接は確認できないが顔も同様に白銀のフルフェイス・ヘルメットに覆われているのだろう。


 正に今、俺は22世紀に全太陽系で放送された大人気の特撮ヒーロー『宇宙警部シャルバリオン』を再現したスーパーヒーローショー用の衣装を身に着けているのだ。


 そして次に俺は腰についている金属の棒を左手で横向きに持ち、その先端から右手を左から右にスライドさせて叫ぶ。


「シャルバリオン・光子(フォトン)ブレード展開!」


 次の瞬間、金属の棒より赤い光線が伸びて光の剣が出現する。まさに見た目はラ○トセーバーであるが実際は帯電したネオンを棒状に量子力場固定したハリボテである。


 自分の名誉のため断っておくが、先程からこっ恥ずかしいアクションやセリフを連発しているのは好きでやっている訳でなく、この装備が声と身体ジェスチャーで入力するインターフェースとなっているからである。しかも、すべて全力に近い力加減でアクションしないと入力ミスになるのが非常にいやらしい。


 俺は再び目の前のヒュドラに対峙した。

 目の前で起こった事態が理解の範囲を超えたのかヒュドラは変身前と同じ姿勢でこちらを凝視していた。やがて、フリーズから再起動したかのように言葉を発する。


「貴様っ! そ、それ*何だ! ワタシの見た**無い『魔法』だぞ! それに*の姿は何だ!」

「カ、カッコイイ…………ハッ! そ、そんな姿*何が出来**いうのか! なめ*な!」

「あぁん、素敵ぃ……今度は*んな**がワタシを…………」


 ……おや、過半数には意外と好評の様子。

 俺はほんの少しだけこのヒュドラ野郎に親近感を感じた。

 ここら辺は異世界でも何か通じる物があるのかもしれない。


 気を取り直して俺は目の前のヒュドラに対して改めて警告を発した。


「俺はここの真の主だ!

 お前たちはここの設備を不法に占拠している!

 今すぐ攻撃を止めて投降しろ!

 さもなくば後悔することになるぞ!」


 そう啖呵を切ると


「こ、このワタシ*命令す**ど無礼なっ! 食らぇぇぇぇぇ!」

「いくらそん*カッコ……変わっ*姿をしてもワタシ達にかなう*のかっ!」

「あは*ん! す、素敵ぃぃぃぃ!」


 これまでと同様にヒュドラが勢いを付けてこちらに向かって突進してきた。


 まあ、21世紀の地球の一般常識をお持ちの方ならば何故、この局面でこんな珍奇で実用性皆無な格好を選択しているのか疑問に思うだろう。


 しかし、そうではないのだ。


 おれは再び正面から繰り出されるトンカチの噛みつきを半身で横にスライドして回避すると


「未熟!」


 と短く言葉を発して、がら空きの首筋に向かって光子ブレードを振り下ろした。

 バチィ! とその表皮がスパークし、次の瞬間にボムッ! と爆発が巻き起こる。これは見た目だけの演出で実際にはほとんどダメージは無いし、本当に斬れる訳でもない。


 だが……


「「「ぎょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


 攻撃を食らったヒュドラの悲鳴がユニゾンし、その場で盛大に床に転がりながら苦しみ始めた。

 ベテランのお笑い芸人でも裸足で逃げ出すような見事なリアクションだ。

 予想はしていたので俺は攻撃終了の瞬間に巻き込まれないようにあらかじめ後方に退避済みである。

 

 そう、艦内ネットで見た23世紀のスーパーヒーローショーは俺の健在だった時代とは全く違うのだ。


 * * * * *


 ――スーパーヒーローショー


 それは昭和の昔からお子様がテレビで放送された単独や戦隊などのヒーローにデパートの屋上や遊園地で身近に接することが出来る平和なアトラクションであった。

 しかし、22世紀のある出来事をきっかけにそれは大きな変貌を遂げた。

 それは……


 ――Super Real(超現実的) Non-lethal(非殺傷) Battle(戦闘) Action(アクション) System(システム)の導入である。


 22世紀になると人類は本格的に宇宙への進出を始め、永らく支配されてきた地球の重力からも解放される事となったが、同時に人体の運動機能低下という問題を生み出す事態となった。

 低重力化の運動による筋力維持は塩や水と同様に宇宙生活の必須要素となり、一般市民の大規模な宇宙移民が始まると人類はその問題の解決に頭を悩ませるようになる。

 フルダイブ型のVR技術による娯楽全般は長時間体を動かさないという仕様により宇宙では筋力低下による大量の社会不適合者を生み出す結果となったため、ガチガチに規制された末に完全に衰退した。


 その代わりに登場したのが本格的に実際の肉体と多様な非殺傷武器を使用するSRNBA-S(スーパー)H(ヒーロー)S(ショー)である。


 平和で台本のあるのが常識だったスーパーヒーローショーに最新科学技術によるあらゆる非殺傷武器が導入された結果、それは単なるアトラクションの枠を超えてシナリオのない総合武術大会へと発展した。

 その自由度はとめどなく拡大を続け、剣、槍、弓、ナックルグローブ、フットグローブはては銃から携帯キャノン砲まで導入され、各界の有名武術家から現役の軍人に至るまでこぞって参加するという規模まで広がり、戦闘形態もオーソドックスなヒーローVS怪人+戦闘員からAIによる実体粒子ホログラムによる巨大怪獣との戦いまで行われるようになった。


 政治家たちの必死の努力による人類社会の平和維持の功績は星間通信のモニター越しには一般市民に理解されず、平和の難解さはその複雑さを増して遥か昔の戦争の残虐性を覆い隠していた。

 第一次世界大戦前夜同様に戦争を賛美までするようになった風潮において突如、天啓の如く現れたそれに政治家・一般市民共にこぞって熱狂し、全太陽系に伝播するまでさほど時間はかからなかった。

 やがて中・高等学校の必須科目となり、全太陽系SRNBA-SHS大会が開催され、とうとう太陽系オリンピックの主要イベントにまでなったのは必然と言えるだろう。


 しかし……


 * * * * *


 俺は目の前でその巨体で転げまわりながら苦しむ哀れなヒュドラを視線に収めながら想う。


 SRNBA-S(スーパー)H(ヒーロー)S(ショー)の本当の恐ろしさはこんなものでは無いのである。

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