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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
32/64

宇宙戦艦の肉弾壱勇士

 トンカチから発射された炎弾が向かってくるのを見て俺は即座に回避行動をとった。

 慌てて横に向かって大きく跳躍すると間を置かずしても元いた場所に炎弾が着弾して飛び散る。

 着弾跡を見ると流石に床が溶解するような威力はないが、そこにあったツタが燃えて床が黒く焦げ付いていた。


「おまっ! 殺す気か!」


 俺はヒュドラに向かって抗議の声をあげた。


「ふんっ! か弱*女性に向**て攻撃*る奴は死**当然だ」

「女の肌を傷け*代償と思**!」

「ああ**……もっと……**して……」


 くそう……こちらが手心を加えているというのに舐めやがって……。

 しかし、都会では自殺する若者が増えていると新聞に書いてあっても今の俺にはこのじょうろ砲しか武器が無い。

 他に手段も無いのでお返しとばかりに俺はじょうろ砲で再び反撃を試みる。相手の横を回り込むように駆けつつ、今度はヒュドラの頭に向かって20発以上の光弾をお見舞いした。自動照準機能のおかげで適当に射撃してもヒュドラに弧を描いて向かって行き全弾命中する。


「ぐうぅぅぅ! チョ*チョロと鬱陶し*!」

「劣等生物*くせ*!」

「いいっ! 感じ**う!」


 …………

 

 本当に効いているのか?

 約一名、特殊性癖の持ち主が混ざっているおかげでどちらかというとコレはご褒美となっているのではなかろうか? と、多少の不安が脳裏をよぎる。


 程なくしてヒュドラが態勢を立て直して再び頭から炎弾を放った。

 初見では驚いたが事前に光が収束するモーションがあるので注意すれば食らうことは無い。


 俺は後方に向かってジグザグに小さなステップを踏みながら退いて炎弾を回避した。

 そして改めてヒュドラと距離を取り、正面に向かって対峙する。


 こうなりゃ、持久戦だ。

 人工強化ボディでは疲労を感じる事も無く、体力は無尽蔵だ。相手のスタミナや『魔力』というのがどれだけあるのか分からんが流石に底なしという事はないだろう。


 そう考えていると突如、ヒュドラがこちらに向かって急に突進してきた。


「ちょ! 待てよ」


 どこぞのものまね芸人の中年アイドル風のセリフを吐きながら焦燥が俺の心を支配する。


 やばい。

 人工強化ボディであっても流石にあの体重でのしかかられたりしたら万事休すだ。

 俺は急いで距離をとるように後退するが体格差もあり直ぐに壁際まで追い詰められた。


 すぐさま横向きに回避を試みようとしたがヒュドラの動作の方が早かった。


 トンカチがこちらに向かって大きく口を開けて噛みついてきた。


 俺は大きく屈みこんでギリギリで回避し、即座にその顎にアッパーを繰り出すとトンカチがノックバックして頭を揺らした。


「ぐえっ!」


 人工強化ボディの重機並みのパワーのおかげでなんとか凌いだが、続けざまにチンプイのスイングするような頭突きがこちらに向かってくるのが目に入った。今度はその頭を下から蹴り上げて軌道をそらす。


「ひぐっ!」


 かろうじてヒュドラの2連撃を回避して安堵していると後ろからカンニングがその首を俺に巻き付けてきた。油断していた俺は身体を拘束されて宙づりとなり身動きが取れなくなった。


「しまった!」


 目の前にカンニングの頭が迫る。

 必死にもがきつつ拘束から抜け出す方法を考えているとカンニングの舌がペロリと俺の顔を舐めた。


「うふん……クセにな*そう……」


 心なしか息も荒く、上気したようなその様子を見て俺は怖気(おぞけ)を感じ、かろうじて接触していた手でちぎれんとばかりにその皮膚をつねり上げた。


「あぁんっ! それ! そ*よ*ぉぉ!」


 世にもおぞましい異世界変態の奇声とともに拘束が緩み、体が自由となって床に足を付けた次の瞬間、トンカチがゼロ距離でこちらに頭から炎弾を放つのが目に入る。

 こんどは回避することもままならず俺は炎弾の直撃を食らった。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ! 熱っ! 熱っぅ!」


 即座に火だるまになる俺。


 床を転げまわりながら消火を試みつつそのまま再びヒュドラと距離をとった。

 先ほどの攻撃が多少通じたのか相手が追撃する様子もなかったので俺は立ち上がって自分の被害状況を確認する。


「カスミ! 今の俺の身体の被害状況を報告しろ!」


 そう叫ぶとカスミから即座に回答が戻ってきた。


<マスター。

 現在マスターの人工強化ボディの破損状況は1%未満です。

 表面の強化皮膚組織がわずかに乖離したのみで大きな損傷は認められません>


 さすが人工強化ボディだ、なんともないぜ!

 と、改めて自分の状況を確認したが身体は無事でも服の方はそうはいかなかった。


 パンツはかろうじてお茶の間の放送にお届けできる状態ではあるがレザージャケットとシャツは昭和の爆発コントよろしくボロキレになり果てた。

 もとより激しいアクションのおかげで帽子はとっくに行方知れずだが、ズボンは行き過ぎたダメージ調にコーディネートされ、左足はもはやホットパンツである。

 おまけにカバンに空いた穴から筒形容器がカラン、カランと音を立てて床に転がった。

 この有様では騒がしい首領(ドン)コニたんに酷評されても神妙に頷く他にないだろう。


「クソが……調子にのりやがって…………」


 厳選したお気に入りの衣装をズタボロにされて完全に頭に血が上った俺はカバンを投げ出し、上半身にまとわりつくボロキレをちぎり捨ててカスミに指示を飛ばした。


「カスミ! このヒュドラ野郎(女郎?)をなんとかできる強力な非殺傷武器を用意しろ!

 マニュアルも同時に俺に直接インストールだ! 今すぐ! ナウ!」


 まさかの丸投げである。

 この人の姿をした奇天烈エンサイクロペディアに身をゆだねるのは極力避けたかったがこうなりゃヤケだ。


<了解しました。

 即時、指示通りの兵装を展開します>


 そう、カスミが答えると同時に俺の頭の中にその武器の使い方が流れ込んできた。

 その意図を即座に理解した俺は


「よりによってそう来たか……」


 と独り言(ひとりご)ちると手にしたじょうろ砲を壁際に放り投げ、その武器を装備すべく準備に取り掛かった。


 俺は右足を曲げて中腰になりつつ左足を伸ばし、両腕を左に向けて伸ばす。

 次にその姿勢のまま両腕を円を描くように回すと、最後に左手を胸に当てて右手を掌底を繰り出すように上にあげた。


 そして、叫ぶ。


「バトルモードチェンジ! シャルバリオン! 粒着(りゅうちゃく)!」


 こうして俺の羞恥心を置き去りにしたまま異世界に場違いなスーパーヒーローがお目見えしたのであった。

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