宇宙戦艦の行き止まりの挽歌
俺は気を取り直して船尾へ歩みを進める。
――いや、全然取り直してねえけど。
つうか、真実を? 追求とか? もっともらしい事のたまうお方もおりますが
ホントに必要? ソレ?
知ったところで現実は何も変わらないっつーか、無駄な労力使っただけ損じゃん。
という訳で行く手を塞ぐ邪魔なツタを手当たり次第に蹴散らしながら甲板を進んでゆく。
このツタがここにしかない固有種という可能性もあるのかもしれませんが知ったこっちゃないのである。
広範囲植物除去モードに設定したマチェットを一振りするごとに目の前のツタが消えてゆくのは多少のストレス解消になった。指向性分子分解機能付きマチェットで分解されたツタは即座に水と炭素・その他に分解される。無人島でも植物があれば水も非常食も合成出来るので23世紀のご家庭にも大人気のツールである。
もっとも今は水も食料にも困っている訳ではないので分解したものは全部この場に捨てている。
結果、ナタをぶん回しながら濛々と水蒸気をあげて燃料用ペレットを床にバラ撒きつつ行進する成人男性という絵面が誕生するという事態となるが、傍から見ればコレはなかなかクるものがある気がする。
気分としてはローストされた排泄物――通称「ヤケクソ」――である。
間を置かずして戦艦後部にたどり着いた。
4番砲塔から後ろは甲板に人の背丈の数倍ほどの段差があり、備え付けられた階段を上ると航空戦艦たらしめる平坦な飛行甲板が広がっていた。ここも他と同じく一面ツタに覆われているので排除しながら進んでいるとツタに隠されていた『瑞雲』爆撃機兼偵察機が姿を現した。
深緑に塗装され真っ赤な日の丸を胴体にマークされた機体は戦艦同様に状態は良好で今にも飛行可能に見えた。21世紀のジェット戦闘機と比べると第二次世界大戦当時の飛行機はどこか素朴で見ただけで不思議と親近感が湧くものがある。
思えばこの航空戦艦『日向』の不遇の最たるものの象徴がこの『瑞雲』とも言える。
第二次世界大戦後半で日本軍は多くの空母を喪失し、逆に日増しに増強される米機動部隊に航空戦力で完全に圧倒されつつあった。そこで本来は戦艦であった戦艦『伊勢』とその姉妹艦の『日向』に航空甲板を設置して航空戦艦に改装し、新たに開発した『瑞雲』を搭載することで航空戦力の増強を図ろうとしたのだが圧倒的な物量を誇るアメリカに対して、たかが水上機を数十機追加した程度では嵐の中の枯葉のように無力であった。
結局、多大な労力を費やして増設した航空甲板と『瑞雲』は米軍に対して一度も交戦することもなく終わり、戦争末期に敵の目をかいくぐって中型貨物船1隻分程度の物資輸送を行ったことが最大の功績とされた航空戦艦『日向』は最後は動かす油も尽きて呉港で浮き砲台としてその生涯を閉じた。
しかし、この『瑞雲』爆撃機兼偵察機は数世紀の時を経て新たな命を吹き込まれてここに存在している。
宇宙仕様に改装されたこの通称『リック・瑞雲』は分子振動エネルギー変換発動機によりほぼ無限の航続力を有し、その飛行能力は高出力イオン推進エンジンによって高高度1万メートルどころか単独で大気圏離脱・突入を可能とする。
おまけに主翼のウェポン・ベイに格納されたデブリ除去用のぺ号噴進弾の威力は一発で京王プラザもこなごなに破壊出来ちゃうのである。
要するにこの『リック・瑞雲』は見た目と全く異なる小型の高性能スペースプレーンなのだ。
これ一機あればご家庭でもお手軽に急なパナマ運河爆撃などにも出撃可能なのである。
何はともあれ、誰が言ったか知らないが「両生類」などと評された航空戦艦『日向』とその装備は23世紀の最新テクノロジーを持って見事に「カモノハシ」へとクラスチェンジしたのだった。
そう、この俺と同じように……
「って、誰がカモノハシやねん!」
などと、一人ノリツッコミをかましていると
<マスターがご希望であれば足の爪から神経毒を分泌させることも可能です>
と、カスミが反応した。
……
「……いや、いらん。気にしないで下さい」
そう力なく返すと俺はその後無言でタラップを降り、戦艦日向を後にしたのであった。




