宇宙戦艦の燃えよ砲
一通り『戦艦日向』の外観を眺めた後、内部に乗り込んでみることにした。
甲板に上がるためのタラップの入口まで歩みを進めると階段にびっしりとツタが絡みつき進むことが出来ない。
改めて間近で絡みついている植物を観察したのだが…
「地球の植物と変わらんな…」
と、見たまんまの感想を呟く。
見た目が地球の植物と変わらずに枝が茶色で所々に生えている葉は緑色だ。更にツタの上を這っている赤黒いアリのような虫を見つけたが地球のアリと見分けがつかなかった。
俺は腰に付けたマチェットを抜き取ると枝に傷を付けてそのまま放置し観察を続ける。どっかの映画の狂暴異星人みたいに切り口から強酸が噴き出したり、そこまでいかなくとも予期せぬ危険が無いかチェックするためだ。枝から滴り落ちた液体がタラップの床に落ちるのを見つめておかしな反応が起こらないか無いか観察する。
しばらく触らずに観察を続けたが特に問題が無さそうなので枝に付いた液体を直接指で掬う。余程のことでもない限りは強化人間ボディに影響はないはずだ。
「カスミ、この液体の分析は可能か?」
と、カスミに問いかけた。
<はい、マスターの体表面センサーより液体の分析が完了しています。
成分は水・ブドウ糖・ガラクトース・有機酸・アミノ酸・その他タンパク質等でpHは中性です。
人体に有害な物質は存在しませんでした。
樹液成分の構成は地球上の標準的な植物と同じです>
その報告に俺は少し意識から警戒を緩めた。
といってもまだ枝を掃った途端に身体に絡みついてお子様にはオススメできないハレンチ行為に発展するという可能性もあるので油断は禁物だ。異世界での初体験が正体不明の植物などどいう悲しい事態はご遠慮願いたい。
その後しばらく、ツタの一本をマチェットで断ち切ってそのまま放置してみたり、葉を千切ったり表面をこすったりして観察を続けてみたが特に異常は見られなかった。
アリのような虫も突いたり、つまんで観察したものの地球の物と大して変わった反応は見られない。
結果として艦内の生物データベースの照会によりツタも虫も地球には存在しない動植物だという解析結果が判明した事で改めてここが地球とは異なる世界だという証左が追加されただけだった。
俺はこの世界の生物サンプルとして葉の付いた枝とアリのような虫を筒形容器に採取した後、改めてツタに覆われたタラップの入口に向き合う。
手にしたマチェットでタラップに傷つけることなくツタのみをナイフでバターを切る如く払いながら階段を上っていく。この指向性分子分解機能付きマチェットは23世紀の星間量子通信ショップチャンネルで普通に購入可能で放送終了後30分以内に申し込めばスマートめちゃ掛けハンガーDXが付いてくる人気商品だ。
俺は10分もかからずにタラップを上り切り、甲板上に足を踏み入れた。
甲板に立ってまず目に入ったのは主砲の45口径連装砲の砲塔側面だった。いくつものツタがはい回る甲板を注意深く歩きながら艦首の方へ回り込み正面から主砲を見つめる。
俺は人の背丈の倍はありそうな高さの巨大な主砲を目の当たりにして改めて感慨にふける。まるで封印されるようにツタが被さった砲塔から灰色に鈍く光る2本の砲身が緩やかな傾斜で天を仰いで伸びていた。
第二次世界大戦以降、航空兵器に主役の位置を奪われて無用の長物とされ不遇の生涯をたどった戦艦の運命に想いをはせながらその姿を見上げる。
艦首から見える2基の主砲とその奥にそびえ立つ檣楼は無言の説得力を持って戦艦としての威容を伝え、ただひたすらに目標を粉砕するという兵器の在り方は粛然として男子の鉄腸を引き締めるものがある。
暫くの間、甲板に立ち尽くして無言で『戦艦日向』の威容を堪能した後にかねてからの疑問の一つに向き合うことにした。
――この惑星に擱座してからいったいどれだけの年月が経過しているのかという事を。




