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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
22/64

宇宙戦艦のマスコット

 さて、ようやく準備も終えたので探索に出発しよう。


「カスミ、調査を開始する。

 イベントスタッフ用の待機部屋まで転送してくれ。

 後は頼んだぞ」


「了解しました、マスター。

 イベントスタッフ用の待機部屋への転送を開始します。

 量子転送プログラム起動――――

 ――目的地をJ-21エリアの511-6に設定――


 ――転送前量子安定化シミュレーションチェック全て正常――


 ――量子転送プログラムを実行します」


 体が微かな光に包まれると目の前の光景が歪んでゆく。

 徐々に光量が増して目に見える歪みが大きくなる。

 余りの眩しさに目を閉じると、浮揚感に包まれ体の感覚が無くなった。


 一瞬の喪失感の後、体の感覚が元に戻り、肌に感じる雰囲気が変化したのが分かった。

 ゆっくりと目を開くと目の前には元の部屋でなく人気のないオフィスのような部屋が広がっていた。すぐに俺は自分の身体を確認して異常がないことを確認する。


<マスター、イベントスタッフ用の待機部屋への転送が完了しました>


 頭の中にカスミの声が響いた。


「分かった。

 こちらは問題無い。探索を開始する」


<了解しました。

 こちらでマスターの状況を随時トレースモードでモニタリングしサポートします>


 初めて中央制御室の外に出て最初に見た光景は、元居た部屋より少しだけ光量が低めの無機質な事務所のような部屋だった。

 中央制御室と同様に壁や床自体が光っている様で照明は見当たらない。

 放置されていた割にはホコリが積もっている様子もなく、机の上に並んだモニターはそのまま今すぐ使えそうに見えた。

 暫く辺りを見回したが、ここで確認することも特になさそうなので艦内図を表示して現在位置を確認すると部屋の出口に向かう。

 部屋の出口は取手もない凹凸の無い扉で、前に立つと扉の上のランプが緑色に点灯してロックが解除され、音もなく扉が開く。俺はそのまま出口から事務エリアの廊下に出た。


 廊下も最初の部屋と同様で何の装飾もなく、左右にいくつか最初の部屋の出口と同じ様な扉が並んでいた。俺は再び艦内図を見て方向を確認すると廊下の奥に向かって歩みを進める。


 最初の部屋と変わらない無機質な光景が続き、別に薄暗いとかでは無いのに人気のない生活感皆無の場所にひとりでいるのはなんとも心細い。


「カスミ、周囲に生命体の反応はあるか?」


 静寂に耐えられなくなった俺は確認ついでにカスミに話しかけた。


<周囲に微生物も含めて生体反応はありません。

 その区画は現在、完全にクリーンな状態です>


 安全が確保されたことで俺は警戒を解いて改めて周囲を見渡す。

 廊下の奥に次の目的のイベントエリアへの入口が見える。しかし、特に急ぐ訳ではないし、安全な場所にいるうちにこの艦の構造に慣れるために今いる廊下の他の部屋も確認することにした。


 俺は廊下の扉を片っ端から開き、中を覗き込んで部屋の状況を確認する。

 ベットが複数並んだ仮眠室、テーブルと簡易キッチンと自販機が並んだスタッフ用休憩室、医療器具を備える医務室、四角いコンテナが積まれている倉庫などを見て異常がないか確認する。

 そうして、廊下を進みながら各部屋を確認していると、正体不明の機材が漫然と並んで置いてある部屋に出た。


 よく見ても何の機材か判然としないのでカスミに質問した。


「カスミ、この部屋は何だ?」


<そこは撮影用機材やイベント用の大道具や配布アイテムを置いてある倉庫です>


「そうか」


 俺が人間だった頃でも本格的な撮影用機材なんて見ても何に使うか良く分からないのに、未来の物となると尚更どう使うか分からん。球体の金属とかのっぺりとした円盤みたいなものとか何の為の道具なのか正体不明だ。

 そんな感じで部屋の中の道具をつらつら眺めているとそこに不似合いなものが並んでいるのを見つけた。


 これは……徹甲弾?


 部屋の奥に人の背丈ほどの砲弾がいくつか並んでいる。

 戦艦に砲弾があるのは不自然では無いだろうが、なぜイベント区画の倉庫にこんなにたくさんあるんだ?

 あるとしたら弾薬庫とか砲塔とかじゃないのか?


「カスミ、この砲弾は何だ?」


 と、カスミに問いかけると、


<それはイベントで使用されたマスコット『九一式徹甲弾ちゃん』の衣装です>


 との答えが。


「へ?」


 思わず間の抜けた声で返事をすると、回り込んで徹甲弾のようなものを確認する。


 ……あ、裏に顔と手を出す穴があった。

 ゆるキャラの着ぐるみかよ。


<7層構造の衝撃吸収ゲルと超硬化カーボン繊維で構成され、防刃・防弾・耐レーザー性能を備えた簡易アーマーとなっており、主に警備担当スタッフの簡易アーマーとして使用されていました>


 見た目のユルさとは裏腹に殺伐としたハイテクっぷりに脱力感がハンパない。

 これを着て俺が今持ってるみたいなじょうろ砲を持ってイベント警備をするスタッフの姿を想像してげんなりした気分になった。


 そんな俺に追い打ちを掛けるようにカスミが、


<マスター、

 その衣装を着用することで生存確率が250%ほど上昇します。

 着用なさいますか?>


 と、マジメに提案をしてきたので


「いいえ、僕は遠慮します。もう間に合ってますので」


 俺は即座に拒絶した。


 つっこむ気も失せたわ……。もう帰りたい……。

 探索早々、じんわりと精神的ダメージを食らいながらもなんとかスルースキルを発動して部屋を出ると廊下の奥の扉に向かった。


 これデザインしたのじょうろの奴と一緒だな。

 そう確信した俺はもし元の世界に帰還できた暁には、まだ見ぬその御仁にブラック社長に加えて甲高い長崎弁のテレビショッピング社長の二頭立てで責め立てる事を馳走する旨を心の石板に深く刻み込むのであった。

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