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異世界宇宙戦艦の大家さん  作者: 井上尭彦
戦闘詳報第二号 異界探索編
19/64

宇宙戦艦の麗しのベニス

 さて、何処から手を付けるべきか……


 改めて中央制御コンピュータに接続して、この戦艦の艦内図と比較しながらめぼしい場所のモニタリング映像を確認する。

 初手から知的生命体とコンタクトするのはハードルが高すぎるので、試しに近場の人気のない場所を探索することしよう。

 ついでにカスミに人間の文化の何たるかを教えるためには、


「やっぱり、何か料理を作って食べさせてみるか……」


 と、呟いた。


 例の素粒子合成とやらでいきなり完成品の料理まで作り出すことが出来る事はわかっているが、やはり調理という過程を経てこその料理という文化だろう。

 まあ、材料や調味料まで最初から用意するとなると時間がかかり過ぎるのでそこは取り敢えず合成で済ませることにする。

 この素粒子合成という謎技術は解析データさえあれば、米や魚の分子構造からはてはDNAまで再現するというイカレっぷりでまさに神をも恐れぬ所業ではある。

 いったいどうなっているんだ23世紀の人類文明は。光通信インターネットの普及で興奮していかがわしいアレとかアレとかを目の色変えて漁っていた自分がバカみたいじゃないか。


 という訳で最初に探索する場所をキッチンに定めると艦内図を検索した。

 この艦がイベント用に建造されただけあって、ホテル並みの設備が用意されていて大人数に対応できる広い調理場が存在していた。

 モニタリング映像で確認すると人気が無く静まり返っているがホコリも無く直ぐに使えそうだったので安堵する。

 転送で直接行ってもいいのだが、軽い艦内散策のため少し離れた場所から歩いて向かうために再び艦内図で手近な転送スポットを調べて確認する。

 イベントスタッフ用の待機部屋から向かうルートを調べて確認を終えると探索の準備に取り掛かった。


 ちなみに俺もカスミも直接この身体でいきなり異世界を調査することについて全く危惧を抱いてはいなかった。

 太陽系外惑星探査を想定したこの人工強化人間ボディは火星上でも生身でスキップ上等であるのだ。

 呼吸不要どころか耐放射線や耐圧、耐熱、耐寒を備えてその上、パワーは重機並みなので地球と同環境のこの世界では全く問題ない。

 万一、この身体が破壊されても本体である頭脳は厳重に防御された区画で守られているし、代わりの身体もすぐに用意できる、とくれば散歩感覚の艦内調査など楽勝だろう。


 そう考えながら、初めてのお使いに少なからず昂揚しながら、探索用の衣服の選定を始めた。


「カスミ、この衣装に変更してくれ…………パンツ以外をな」


 と、今度は自分で指定した衣装にチェンジするようカスミに指示した。


「了解しました。服飾生成プログラムによる衣装の変更を行います」


 とカスミが答えると即座に例の魔法少女風強制瞬間衣装換装が始まった。

 もう二度目だしこれでも男の子なので腰に手を当てた仁王立ちで甘んじてパンツ一丁の辱めを甘受して瞬間衣装換装を完了する。


 で、新しい衣装は……


 フェドーラ帽を頭に被り、

 上半身をレザージャケットとコットンのサファリシャツに身を包み、

 マーク7イギリス軍ガスマスク用バッグを肩にかけ、

 ウールのカーキパンツを下半身に着用して、

 オールデンのブーツを足に履く。


 ……という、お馴染みのアクティブ過ぎる考古学教授風衣装であった。


「うん、やっぱりベニスはいい……」


 と、呟いた俺をカスミが怪訝な表情で見たまま無言でスルーしたので、俺の渾身の諧謔(ボケ)は空に帰り二度と戻ることは無かった。

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